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違和感による伝染

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 母親は悪びれた様子はない。
「私は不倫はしているけど、生活のために、不倫しているのよ」
 とでもいいたいのではないだろうか?
 そういう意味で、不倫をしている母親であるが、
「子供のためかも知れない」
 と思うと、むげに母親を責めることもできない。
 しかも、離婚してからの方が、いろいろ影での羽振りはいいようだった。息子にもその恩恵がある分、文句を言えるわけもなく、
「ありがたい」
 といっていいだろう。
 本当に子供のためなのか分かったものではないが、実際に、生活はよくなっているのだから、
「ウソだ」
 などとは言えないだろう。
 だが、どこかで精神的な限界は来るもので、しかも、思春期になってから、母親が不倫相手と歩いているところも見たことで、よせばいいのに、その後をつけてしまったのだ。
 その時、母親とその男が、ネオンサインの煌びやかな、まだ子供の佐藤には、そこがどういうところか、想像はできなかったが、
「いかがわしいところだ」
 ということは分かったのだ。
 そこが、ラブホテルだということが分かったのは、中学二年生の時だった。
 まだ純粋だった佐藤は、その頃まで何も知らなかったのに、いわゆる、
「自習」
 と言われている先生の授業中、騒がしい教室の中で、隣に来て、知りたくもないことを、いかにも楽しそうに話すのだった。
 ちなみに、その先生の授業が、
「自習」
 と言われるのは、他の先生の時と違って、生徒を怒るようなことはしない。
 つまり、
「何をやっても怒らないことで、何をしてもいい」
 だから、
「自習だ」
 というわけである。
 その授業中、クラスの不良と言われるような連中が、佐藤に絡んできた。もちろん、先生に助けを求めても、どうにもなるわけではない。
 それでも、無視して授業を聴こうとしても、そもそも、先生の声は小さくて聞こえない。さらには、ある程度の年配なので、今にも倒れそうな腰の曲がった、まるで、用務員のような先生だった。
 その不良は、それをいいことに隣に座って、
「今日は性教育をしてやろう」
 といって、何冊か、雑誌や本を持ってきた。
 最初は、真面目な本を見せて、
「いいか? ここが、女性器というものでな」
 などといって、いかにも先生ぶっているのだが、その顔はにやけていて、その本や内容よりも、そのいやらしい顔に嫌気がさしていた。
 そして、
「保健体育の授業は、これで終わりだ。いよいよここからが、実践の勉強だぞ」
 といって、嫌らしい雑誌を机の上に並べた。
 顔を真っ赤にして、横を向いてしまった佐藤を、その不良は、無理に見せつけようとしない。ただいやらしく笑っているだけだ。
 この男は、時々佐藤に絡んでくるのだが、暴力的なところはない。佐藤の好奇心のようなものを誘うことで、そんな素振りを見せると、一気に食いついてくるという感じだった。
「ほら、見てみろよ」
 と、不良にコバンザメのようにくっついているチンピラたちが、はやし立てる。
 自分では決してそんなことはしない不良だったが、まわりがすることを止めたりなどはしないのだった。
「まあまあ、君たち、無理やりはいけないよ」
 とばかりに、止めようとするが、そんな気持ちはこれっぽちもないことは分かっている。
 ただ、やつは、佐藤の好奇心が募ってくるのを、じっと待っているのだ。
 つまり、この男は、好奇心をくすぐることをするので、一種の省エネといってもいいだろう。
 しかし、他の、
「いじめっ子」
 と言われる連中は、そうではない。
 自分が、苛めの対象を苛めているということを自分の中の快感にしようとしているのだ。どういうことかというと、
「いじめっ子というのは、自分が、誰かに迫害を受けていて、そこでストレスが溜まっている場合が多い。親であったり、先生であったりが、口では、お前のためだといっておきなから、その実、自分の保身しか考えていない」
 ということを、子供ながらに理解している。
 そういう意味では、
「子供の中でも、実にかしこい子供だ」
 といってもいいだろう。
 しかし、溜まったストレスを、そのまま解消しようとしても、精神的なストレスはそうもいかない。
 時間が経ってしまうと、どうにもならないと言えばいいのか、余計にストレスが溜まるので、苛める相手が泣きわめいたりするのを見ないと我慢できないのだ。
 だから、苛められる方はたまったものではない。何といっても、大人から受けた迫害と、自分のストレスのすべてをぶつけてくるのだから、苛められる方はたまったものではない。
 しかも、
「大人はあてにならない」
 ということも分かっているのだ。
 それを思うと、大人も信用できないし、まわりも信用できない。そうなると、完全に、
「四面楚歌」
 になってしまい、何をどう対応していいか分からず、引きこもりになるのだ。
 ただ、この時の佐藤は、
「苛められている」
 というわけではなかった。
 本当の苛めの対象は他にいる。
 佐藤が受けていたのは、ただ、
「楽しめる相手」
 ということで、いわゆる、
「からかわれていただけ」
 だったのだ。
 しかし、これは苛めの範疇ではないと思った佐藤は、誰にも相談できなかった。
 相談した相手から、
「別に苛めではないじゃないか」
 と言われたとして、相談したことを、不良たちに気づかれれば、
「今はまだからかわれる対象だからいいが、これが本当の苛めになってしまうと。どうにもならない」
 と思ったのだ。
 だが、
「これで、大人たちに苛めを受けているといって助けておらえばいいじゃないか」
 といわれるかも知れないが、一度相談した時に、逃げられたと思うと、もう、二度と相談する気にはならない。
 そうなると、
「決して、いじめられっ子になってはいけない」
 と感じるのだった。
 予防接種の打てない状態で、伝染病が流行っている学校に行くようなもので、完全に、自分には味方がおらず、苛めの対象になってしまえば、取る手は一つしかなく、
「不登校になって、家では引きこもりになるしかない」
 ということになるだろう。
 佐藤は、そんな状態で、
「今日もからかわれるんだ」
 と思っていた。
 前だったら、
「性教育くらいは別にいい」
 と思っていたが、母親のあんなシーンを見てしまうと、それがトラウマになって、今性教育を受けるというのは。とんでもないことだったのだ。
 だから、反射的に、顔が真っ赤になってしまうのだ。
「俺って、どうしてこんなに反応しやすいんだ」
 とばかりに、顔が真っ赤になってしまったことを後悔していた。
「ほら、これを見ろよ」
 とチンピラ連中がけしかけるが、それを不良はにやにやしなから見ていた。
 しかし、少ししてから、
「まあまあ、そんなにせかすんじゃないよ」
 といって、止めたのだ。
 すると、さらに不良の顔がニンマリと歪んでくる。それは、
「今後の佐藤の反応を想像してにやけていた」
 のだった。
 佐藤は分かっていたが、どうしても気になる。母親の顔が浮かんできては消えたのだが、
「どうすればいいんだ」
 と思うとさらに顔が真っ赤になって、耳たぶが脈打っているように感じる。
作品名:違和感による伝染 作家名:森本晃次