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違和感による伝染

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 きっと贔屓はするが、見て見ぬふりをされるのがオチではないだろうか。
「ねえ、どうして、判官びいきが気になるの? 君が判官びいきだと誰かに言われたか何かしたの?」
 と聞いてみたが、
「いいえ、私が判官びいきではないのよ。私がその判官だっていうのよ」
 というではないか?
「君は学校とかで苛められていたりするのかい?」
 と聞くと、
「いいえ、そんな意識はないのよ」
 という、
「でも、いつも、何か損をしているような気がするの。何をそんな損をしているのかということは分からないんだけど、どうやら私のこの損だと思っていることを、皆が判官あって言っているように思えて仕方がないのよね」
 と彼女は言った。
「確かにそうだろう」
 と佐藤は思ったが、その言葉が口から出そうになり、グッと堪えた。
 このことは、親しい友達にも言えないことであった。
 確かに、
「親しき仲にも礼儀あり」
 と言われるが、
「本当に言っていいことなのか、悪いことなのか?」
 ということは、
「その相手にもよる」
 ということであり、その判断は、自分でするしかないのだ。
 人に相談するにしても、言おうとしている相手に気づかれないようにしないといけないということになるだろう。
 公園のブランコに一人で載っていて、その表情がまったくの無表情。
 しかし、本当にまったくの無表情なのかどうか、分からなかったが、少なくとも他の表情が思い浮かぶわけではない。

                 苛めの対象

 今になって思うと、笑顔を見せてくれなかった方が幾分か気が楽な気がする。
 いきなり、何を思ってなのか、佐藤に対して、
「判官びいき」
 について聞いてくるというのは、
「この俺が判官びいきについて分かっていないということを見越して聞かれているかのようなあざとさを感じさせる」
 のだった。
「おじさんは、私のお父さんと同じような表情をしているんですy」
 というではないか?
 それを聞いて、佐藤はビックリした。
「それはどういうことだい?」
 と慌ててきいたのは、この少女からすでに、
「自分のことを見透かされている」
 と思ったからなのか、それとも、
「彼女の父親がひょっとすると、同じような悩みを克服できたのだとすれば、少しでもあやかれるかな?」
 と考えたからなのかも知れない。
 それを思うと、
「早く話の核心に入りたい」
 と感じたからだった。
「僕が、同じような顔をしているとは、どういうことなんだい?」
 と切り出すと、
「お父さんが悩みを抱えているのは分かったんだけど、どこまでなのか、最初は分からなかったんだ」
 というではないか?
「最初は?」
 というところに引っかかったので、聞いてみた。
「うん、最初はね、まったく分からなかったんだけどね。でも、お父さんが何かに悩んでいるということは分かったんだよ」
 という。
「お父さんは何に悩んでいたのかな? 仕事のことかな?」
 と少し掘り下げて聞いてみると、
「うん、仕事のこともあるみたいなんだ。でもね、一番大きな悩みは、私のことじゃなかったのかな?」
 というではないか?
 少し、展開が変わってきた感じがして、ビックリして、
「それはどういうことなんだい?」
 と聞いてみると、
「実は私、お父さんの本当の娘じゃないの。いわゆる義父なのよね。だから、お義父さん」
 といって、砂の上に、
「義父」
 と書いた。
「そんな難しい言葉、よく知ってるね?」
 と聞くと、
「うん、お義父さんが、自分で紙の上に書いて、
「よく覚えておきなさい。これが、お義父さんという字だよ」
 といって説明したという。
 それを聞いて。佐藤は絶句してしまった。
 いくら義理の父親だからといって、何をそんなにわざわざ教え込む必要があるというのか、
「この親は、娘を洗脳することで、母親や娘を自分の思い通りにでもしようとしているのではないか?」
 と思えてならないのだった。
「お義父さんって、怖い人なの?」
 と聞くと、キョトンとして、
「怖いって、どういう感覚?」
 と聞くではないか。
 それを聞いて、
「ああ、なるほど、そうやって思わせておくんだな。だから、後になって考えると、感覚がマヒしてしまったと思う程、最初のインパクトを強く持たせようとしたのかも知れない」
 と感じたのだ。
「お義父さんのこと、好き?」
 と聞くと、やはり少し考えてから、答えが定まらなかった。
 しかし、少しだけ時間はかかったが、
「嫌い……かな?」
 とやっとの思いで答えたようだ。
 それは、考えあぐねたというよりも、
「本当のことを言ってもいいのか?」
 ということを考えていたのかも知れない。
「父親なんて」
 と、そんな風に思っていたのではないだろうか?
 佐藤は自分の父親を思い出していた。
 佐藤の父親は、何度も再婚を繰り返していた。
 佐藤を生んだ母親とは、佐藤を生んですぐに離婚したのだという。
 理由は、母親が懐妊した時、出産のために実家に帰っている時、会社の後輩の女の子と、できてしまったという、ベタな理由での、
「お定まり離婚」
 だったようだ。
 離婚したことで、佐藤は、母親に引き取られた。
 しかし、その母親もロクな女ではなく、佐藤を実家に預けて、不倫を繰り返していたようだ。
 しかも、その不倫相手も何人もいたという。
「私、一人じゃ満足できないのよ」
 といっていたというが、何と驚いたことに、男たちは皆、
「不倫相手は自分だけではない」
 ということを知っていたようだ。
 だが、男の方としても、文句を言える立場ではない。
 なぜなら、皆、奥さんがいる男性ばかりで、母親は独身なのだ。
 下手にここで騒いで、奥さんにバレでもしたら、本末転倒である。
 男たちは皆
「まさか、こんなに一人の女に嵌るなんて思ってもみなかった」
 といっていたという。
 そのおかげで、母親は、たくさんの男と不倫することができ、しかも、男たち公認ということで、悠々自適とでもいえる生活を送っていた。
 ただ、それは自分個人にいえることで、佐藤の方としては、とんでもない話だった。
 確かに最初に不倫をして、離婚ということになった父親だったが、今の母親に比べれば、どれほどマシかということである。
 両親は、最後離婚調停での離婚だったので、
「親権は母親にあり、父親が養育費を払う。子供が逢いたいと言えば、母親の承諾は関係なく、父親に会うことはできる」
 という内容だった。
 父親が不倫したことでの離婚だったのに、母親の方の言い分よりもかなり父親側に歩み寄ったものに見えるのだ。
 だから、佐藤は、時々、母親に内緒で、父親に遭っていた。
 そしてその時、母親の所業を話して聞かせた。
「離婚したのは、父親の不倫が原因ではあるが、母親の所業も許せることではない」
 と思っていた。
 なぜなら、
「父親に離婚届を突き付けておきながら、母親のこの所業は何なんだ?」
 ということであった。
 しかし、母親は、不倫をすることで男たちから、お金を出してもらって、生活費に充てていたようだ。
 まあ、不倫ということであれば、それくらいのことはあっても普通であろう。
作品名:違和感による伝染 作家名:森本晃次