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違和感による伝染

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 という自分の性格を思い知っているだけに、自分には逆らえないという発想から、
「逃げることはできない」
 と感じるのだった。
 このような、
「無駄に広い」
 というくらいの空間で、響いている声や物音を聞いていると、
「本当に無限などないのだろうか?」
 と、また同じ発想を、今度は逆から、
「いや、これが普通の発想ではないか?」
 と思いながら、考えるのであった。
「せっかく、気分転換がいい方向に行っていたと思ったのに」
 と感じたのだ。
 すると、今度は、
「いい方向って何なんだ?」
 と感じた。
 いい方向という言葉の、
「いい」
 というのは、
「都合がいい」
 ということなのか?
 では、
「誰にとって都合がいいというのか?」
 というように、段階を追って、徐々に核心に近づこうという発想は、
「いつもの俺ではないか?」
 と思い、それも、やはり、
「無意識のうちだった」
 ということを思い知らされる結果になっているということを、いまさらながらに感じるのであった。
 そんな都合のいい状態において、サナトリウムをずっと見ていれば、結局何度か、頭の中で同じことを考えている自分を見つけたのだった。
 大きなサナトリウムだったが、表に出て振り返ると、
「ん? こんなに小さい建物だったのか?」
 と考えてしまった。
 しかし、同時に、
「やはり、大きいな」
 と感じている自分がいて、その自分はいつも、同じことを考えている、
「堂々巡りを繰り返している自分」
 であり、そのくせ、
「すべてが無意識なんだ」
 と思える自分でもあった。
 それはきっと、
「無限ということを考える自分が、一番気楽に思えるからではないか?」
 と感じたからだった。
「フレーム問題」
 であっても、無意識に考えて、行動ができる人間。
 だから余計に、
「そのまわりに、もっと分からない何かが潜んでいるのではないか?」
 と感じさせられるのだろう。
「都合のいい考え」
 と、
「無意識に感じる考え」
 さらに、
「無限と思っていることが実は有限なのではないか?」
 と思う考えを、絶えず同時にしているのではないかと感じるのだった。
 そんな寂しさと不気味さを感じさせるサナトリウムの展示館を出ると、急に明るい光が目の前に飛び込んできて、思わずひるんでしまった。
「うわっ」
 と思わず光を避けるように手で顔を覆ったが、気が付けば、目をつぶっているようだった。
 瞑った目を開けられないでいると、すぐ近くに公園があるのが見えて、早くも休憩しようと思ったのだ。
 秋も深まったこの季節。汗が滲んでいるわけでもないのに、背中がじっとりしてきているのは、それだけ、身体に熱がこもってしまったかのようだった。
 身体の火照りと感じると、呼吸困難に陥ってくる感じで、息が、
「はぁはぁ」
 と吐き出すようにしていると、意識が朦朧としてくるのだった。
 公園を見つけた時、
「天の助けだ」
 と思ったくらいだ。
 サナトリウムの中にいる時にはまったく感じなかったことなので、光に反応した自分の身体が、異変を感じているのではないかと感じたのだ。
 公園に座ると、表では感じなかった風が吹いているのを感じた。
 その風は、頬を打つのに、心地よさがあるが、寒気も誘うようで、
「頭痛の元になるのではないか?」
 とさえ感じたほどだった。
 最近、頭痛の元というと、会社での、あの、
「最終電車までの、持て余す時間」
 に起こっていた。
 そういえば、急に身体に熱がこもってくるのだったということを、いまさらながらに思い出すのであった。
 公園のベンチに座っていると、脚を少し広げて、そこに肘を置くかタッチになるので、どうしても前屈みになってしまう。そのせいもあってか、顔を正面以上に向けることができず、ずっと下を向いている感覚になってしまうのは、今に始まったことではなかった。
「いつも下ばかり向いているんだな」
 と、普段は考えないようなことをその時、初めてといってもいいくらいに感じると、今度は、足元の地面の部分を凝視してしまっている自分に気づいた。
 元々、フラフラしているせいなのか、足元までの距離の遠近感が取れないような気がした。
「俺って、こんなにフラフラしていたっけ?」
 と、意識が朦朧としているくせに、そんなことを感じるのだった。
 目の前に見えているものの焦点が合わないということは、よくあることだが、一度きつく目をつぶって、再度に開くと、ハッキリしてくるものだが、この時は、本当に焦点が合わないのだった。
 今度は、
「一度前も見て、目線を変えてみようか?」
 と感じたのだが、頭が重たくて、頭を上げることができなかったのだ。
「目だけでも前を向こう」
 と思ったが、余計に頭痛がしてくる。
「普段だったら、これくらいのことに気づかないはずがないのに、どうしてこの日は、いばらの道を進もうとするのだろう?」
 と、
「やることなすことが、裏目に出ている」
 という感覚になっているのだった。
 たまに、すべての歯車が狂う時というのはあるものなのだが、この日は、歯車が逆の意味で狂ってるのだ。
 なぜかというと、
「すべての歯車が狂うというのは、元々のリズムが合っているだけで、一つが狂うと、全部が狂うわけなので、どこで狂ったのかを究明し、そこを治すだけでいいのだった」
 それが分かっているくせに、すべてにおいて変えようとするのは、明らかにおかしな発想だといってもいいだろう。
 頭を上げると、そこに、一人の女の子がいた。
 さっきまではいなかったはずなのに、ブランコに乗っていて、遊んでいるのだ。
「一人で珍しいな」
 と思っていると、その女の子は、小学生であろうが、大人っぽさも感じられ、ブランコが窮屈に見えるくらいだった。
 女の子は、こちらを見てはいるが、意識しているというわけでもない。まったくの無表情で、ただ、同じ力で、ブランコを漕いでいるだけだった。
 ブランコを漠然と漕いでいるという雰囲気ではなかった。手には明らかに力が入って絵いて、脚も空中を掻いているかのようだった。
 まるで、そのまま飛び出そうとしている時の助走のようで、そのタイミングを計っているかのように見えたのだった。
 その女の子は、やっと佐藤の視線に気づいたようだった。
 その視線を見た時、一瞬、ニコリと笑ったように見えたので、思わず佐藤も微笑み返した。
 しかし、また彼女が、無表情に変わったので
「気のせいだったのか?」
 と思うと、笑みを返してしまったことを、恥ずかしく感じてしまったのだ。
 それとも、
「女の子に遊ばれているのか?」
 と思うと、少し癪だったが、なぜか悪い気がしなかった。
「今までであれば、こんな気分になったことなどないのにな。それだけ、会社の上司に対して感じている心境が苦しみしか生み出さないということか?」
 と感じたのだ。
 楽しいわけではないが、恋愛対象とは関係のない女の子を見て、恋愛感情ではない気持ちであっても、
「自分の中で、何かを求めている」
 と感じたのは、久しぶりの気がした。
 ということは、この感情は今に始まったことではなく、
作品名:違和感による伝染 作家名:森本晃次