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マルチリベンジ

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「いまさら」
 といってもいいことを、まるで、
「初めてのことだ」
 と言わんばかりに感じていることを予感していたのだった。
 リハビリが成功し、二軍で復帰を果たすと、最初は、
「これで、後は慣れてきさえすれば、一軍復帰も時間の問題だ」
 と思っていたのだ。
 そもそも、その時は、
「二年目のジンクス」
 ということがあったということを失念していた。
 忘れたわけではないのだが、頭の中になかった。
 というのは、
「それを思いだしてしまっては、弱気になってしまい、せっかく上昇気流に乗りかかっているところを水を差すことになってしまう」
 と言っても、過言ではないだろう。
 二軍のマウンドに上がっていると、一軍での一年目を思い出す。
「三振に取ろうと思えば、いくらでも取れる」
 というくらいの自信だったのだ。
 確かに、スピードボールは、昔納得しながら投げていた時に戻った気がした。コントロールは、生まれついてのものだったので、ケガの前と後で、かわりはない。だから、復活まで、あと少しだと思ったのも、当然のことだった。
 そして、ケガが治って、何とか2軍の片隅で、復帰のための練習をしている時であった。
 いつも、戸次のことを意識しているファンがいることに、最初は気づいていなかった。
 復帰のために大切なこととして一番の問題が、
「下半身の強化」
 だったのだ。
 子供の頃に
「プロ野球選手になりたい」
 ということで、必死になって練習していたあの頃を思い出させるのだった。
 ずっと毎日、走り続けていた。自分が、マウンドに立っているという意識は、そこまではなかったはずだったが、おぼろげにそれが見えてくると、努力が報われてきていることを自覚できるようになったのだった。
 今度は、投球練習に時間をかけるようになると、毎日、自分が上達していることを分かるようになった。
 日に日に増してくるように見えるスピード、
「有頂天になるな」
 というのが、無理だというもので、すでにその時は野球部に所属していて、キャッチャーから、
「すごいぞ、どんどん速くなっている」
 と言われて、またしても、有頂天になったものだった。
「これだったら、全国大会出場も夢じゃない」
 と言われ、その話が次第に大きくなり、新聞社が取材に来るほどだった。
「今年の夏の地区大会の目玉」
 ということで、写真入りで記事になった。
「全国大会への切符のカギを握るのは、戸次投手」
 などと書かれると、もう有頂天の絶頂にあった。
 身内からであれば、
「お世辞」
 という可能性が十分に高い。
 しかし、それが、マスゴミの手によるものであれば、その信憑性はかなりのものではないだろうか?
「戸次君は、最近にない剛速球を投げているから、他のチームも打ちあぐねるんじゃないか?」
 と漠然と言われたが、その中で一人の記者から、
「戸次君の球は、ただ早いだけはなくって、他の人にはない回転があるから、打ちにくいのさ。ただ、回転数が早いというわけではなく、グイグイスピードが乗ってくるので、その分、不利送れるし、バッターには力が入らない。三振が取れなくても、重くて、遠くには飛ばない特殊なボールを投げるのさ」
 と言われた。
 しばらくは、ずっと三振奪取が続いていたので忘れていたが、復帰するようになって、その時の言葉を思い出した。
 すると、タイミングよく、ある一軍の強打者で、新人の年に、比較的よく打たれたバッターがいたのだが、彼が、雑誌取材で、
「どの投手の球が打ちにくいですか?」
 と聞かれて、
「戸次投手」
 と答えていた。
「戸次投手ですか? その理由は?」
 と聞かれ、
「彼は、不思議な球を投げるんです。ここぞという時に相手を討ち取るボールなんでしょうが、三振を取りにくるボールじゃないんですよ。それよりも、相手のバットごと粉砕してくるかのようなボールなんです」
 と答えていた。
 記者は、意味がよく分からないということであったが、選手の方も、
「どう説明していいのか分からないが」
 ということであった。
 確かに言われてみると、そのバッターは一年目には結構討たれたが、2年目以降、つまり成績が悪くなってから、逆に対戦成績はよくなっていたのを思い出していた。
「でも、戸次投手相手には結構打っていた印象があるんですけどね」
 というと、
「それは、彼が一年目の時ですよ、でも、2年目以降は、ほとんど打てなかったんですよね」
 というので、
「えっ、そうだったんですか? それは意外でしたね」
 と答えたのは、戸次の成績が一気に下がったからだろう。
「今まで抑え込んでいた選手に、ことごとく撃たれていた」
 という印象があったからだ。
 しかし、彼はいう。
「これは私だけではないですよ。きっと、一年目に結構打った選手は、2年目以降は、戸次投手を苦手にしているはずです。特にホームランバッターによく言えることじゃないですか?」
 といっていた。
 実際に、調べてみると、その通りだということが分かったようで、その雑誌に、またそのことを書かれていたのだった。

                 結婚

 そんな言葉を思い出すようになった頃、女性の存在に気づいたのだったが、その女性のことを、
「どこかで見たことがあるような気がするんだけどな」
 と思っていたところ、同僚の2軍選手から、声を掛けられた。
「戸次さんをいつも見ている女性がいるでしょう?」
 と言われ、一瞬、ドキッとしたが、彼はお構いなしに喋ってきた。
「羨ましいと思うんですよ」
 というではないか。
「女性ファン一人にそんなに羨ましいのかい?」
 と聞くと、
「何言ってるんすか。戸次さんは、彼女を知らないんですか?」
 というではないか。
「ああ、知らない」
 と、まるで知っていることの方が変だと言わんばかりだった。
「彼女は、数年前まで、アイドルとして、よくテレビの歌番組に出ていましたよ。いわゆるアイドルグループの一人ということですね」
 という。
「今は、引退したのかい?」
 と聞くと、
「ええ、卒業しましたね。グループを卒業しても、芸能界に残る人も結構いるんだけど、彼女の場合は、完全に、芸能活動も辞めてしまったので、結婚なのか? と騒がれたりしたものですよ」
 という。
「結婚したのかい?」
 と聞くと、
「いいえ、それからしばらくはマスゴミが張っていたようですが、結婚はしていないということでした」
 と言われ、
「そんな女の子が、このキャンプに来ているということは?」
「そりゃあ、戸次さんのファンなんじゃないですか?」
 と言われた。
 嬉しくないわけがない。思わずニンマリとすると、そいつも同じようにニッコリして、
「戸次さん。ファンは大切にしないと」
 と言われたことで、戸次も彼女に対して、
「自分のファンだ」
 として意識をし始めた。
 今までファンというと、自分に群がってくるファンはたくさんいて、次第に億劫に思えてくるほどだったので、
「ファンなんていらない」
 と思っていた。
 一人を贔屓にしてしまうと、他のファンが暴動も起こしかねないほどだったので、
作品名:マルチリベンジ 作家名:森本晃次