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マルチリベンジ

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 もちろん、口には出さなくとも、ハッキリと分かる場合。リリーフに出ていって、逆転ホームランを打たれたなどという、いかにもそれが原因だと言わんばかりの時には、マスゴミは、疑惑だと言わんばかりに、
「?マーク付き」
 で、理由を書いている。
「どうせ、憶測で書くというのならいちいち監督に聞くこともないだろう?」
 と思われるかも知れないが、理由がケガによるものなのかということだけは、確かめておかなければいけない。
 いくら、はてなマークがついているとはいえ、まったくのお門違いのことを書いてしまうと、いかにもである、倫理やモラル違反であるということが分かっているので、簡単にデマと思えることを書くわけにはいかない。
 スポーツ紙の中には、
「デマの内容が面白い」
 ということで、売れている新聞もある。
 芸能ニュースなど、あたかもありえないような見出しで客の目を引き付けて、デマカモ知れないが、いかにして、その結論に至ったかということを、いかに論理的に書くことこそ、
「ジャーナリストの醍醐味だ」
 と、担当記者も思っているのか、要するに、
「ちょっとしたウワサを、あたかも本当のことに書くというのは、ちょっとした穴から、どれだけ大きな穴をほじくり出すことができるか?」
 というような、テクニックと、さらには、
「読者が見出しを一目見て、読んでみたいと思わせたことに対して、読み終わった後に、デマだということを感じた読者が、それでもまだ、まったくのデマではない」
 と、つまりは、
「火のないところに煙は出ない」
 という信憑性を、最後まで信じることができるような記事に仕上がっているかということが、問題だったのだ。
 この時、1軍からお呼びが掛かったことは、もちろん、嬉しいことであったが、ある意味、大きな不安でもあった、
 もちろん、
「1軍に上がるため」
 ということで、練習を重ね、2軍戦にも望んできた。
 かつての、これまでを考えると、日の当たる場所ばかりをあゆんできた自分の人生を振り返り、正直、
「ここまで落ちるとは」
 と思っているに違いないが、2軍に落ちてから、必死のもがいている期間は、すでに数年あり、
「かつての栄光」
 というものは、
「夢物語でしかない」
 としか、言えないだろう。
 そんな精神状態で、すでに、過去の栄光が遠い昔のことだということを感じるようになると、
「落ちるところまで落ちたんだな」
 と思うと、ある程度の開き直りがあり、
「後は這い上がるだけだ」
 という気持ちで、気も楽になっていた。
「ひょっとすると、今回の昇格は、その開き直りを見てくれたのかも知れないな」
 と思ったが、実際に、監督、コーチの考えとしては、その気持ちは間違っているものではなく、
「半分当たっている」
 といってもいいだろう。
 確かに、開き直りというのは、大切なことで、今までどんなにいい投球をしても、1軍に上がれなかったのは、その覚悟が欠けていたからだった。
 抑えることはできたが、それはあくまでも、
「逃げ」
 の投球であり、
「何とか、こじんまりとまとめたことで、抑えることができていた」
 というだけだった。
 それは、
「2軍だから通じることだった」
 と、監督、コーチは思っていた。
 そもそも、2軍に落ちてきたのは、調整という意味と、それよりも、
「覚悟を持った投球ができるようになること」
 という問題があったのだ。
 そんな彼が、こじんまりとまとまった投球をしていたのでは、
「1軍に上がれるはずなどないではないか」
 ということであった。
 だが、それと関連ではあるが、
「彼に、自分の一番の長所を思い出してほしい」
 ということであった。
 つまりは、彼の一番いいところは、言わずと知れた豪速球だった。けがをしたわけでもない。年齢的に投げられなくなったわけではない。それこそ、精神的なものであり、それさえ克服できれば、
「最初から彼に求めていた」
 という豪速球が戻ってくるのだ。
 そのことを本人に自覚させるということが一番だった。
 だが、今はまだ、自分が上がった理由を分かっていないことで、疑心暗鬼が残っているのは仕方がないことだろう。
 それでも、一軍に行くということは、不安がさらに募らせるのだ。
「今回が最後なのかも知れない」
 という思いで、そっちの方が気になってしまったのだとすれば、まだまだ、精神的に復活したとは言えないだろう。
 それでも1軍に上げるということは、
「一軍のマウンドを思い出させる」
 ということでの、
「精神的な自分への開放を、自分でしてくれるのではないか?」
 ということを、監督コーチは望んでいることだったのだ。
 最初は、なかなか、フロントの考えが分からなかったが、1軍に合流すると、すぐに分かる時がやってきた。
 1軍に合流したその日は、ちょうど、
「ローテーションの谷間」
 と言われるタイミングで、そこでいきなり、監督が、
「今日の先発はお前に任せた」
 というではないか。
 さすがにビックリして、監督に対して、
「えっ」
 というリアクションを示したが、いつも、
「奇襲作戦を考えるのが好きな監督」
 ということで評判だっただけに、
「今日もいつもの作戦か」
 ということで、気楽になっていた。
 しかも、今日は、
「ローテーションの谷間」
 ある意味、気楽にいける場面ではある。
 そういう場面を監督が演出してくれたのだと思うと、意気に感じるくらいでないといけないとも感じたのだ。
 実際にマウンドに登ってみると、
「ああ、懐かしい」
 と感じた。
 同じマウンドには、毎回登っているのに、1軍のマウンドだということで、懐かしさを感じるということは、やはり、
「1軍は特別なんだ」
 という意識なのだろう。
「懐かしい」
 と感じたことがよかったのかもしれない。
 先頭打者を、三振に切って取るという最高のスタート取れたことで、完全に、自分で1軍のマウンドを思い出せた気がした。
「ここは、俺がいる場所なんだ」
 と思いながら投げていると、自分でも伸び伸び投げられている気がした。
 初回と、2回はさすがに、監督の横顔が気になるのか、ベンチにいると、ソワソワした気持ちがあったが、それ以降は気にならなくなった。
 それまで、久しぶりの一軍のベンチということで、遠慮のようなものがあったが、次第に慣れてきて、声も出るようになっていたのだった。
 監督もコーチも、決して戸次を見ることはしなかった、じっと、ベンチから前のめりのようにしながら、グラウンドを見ているだけだった。
「これが、この監督の普通の姿なんだ」
 と、昔1軍にいた時は、気にもしなかったのに、今回初めて、遠慮がちではあったが、ベンチの中を見渡せるようになったことで、新鮮さがあったのだ。
 マウンドを思い出し、ベンチを思い出すと、いよいよ、
「1軍に戻ってきた」
 ことを感じ、さらに、
「ここが俺の居場所なんだ」
 と思うことで、自信もよみがえってきた。
 それがよかったのか、試合でも、
「打たれる気がしない」
 と感じたことで、1軍のバッターを、なで斬りにしていったのだ。
作品名:マルチリベンジ 作家名:森本晃次