小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

マルチリベンジ

INDEX|10ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

 と思う友達も少なかったのではなかろうか?
 なぜなら、最近までやっかみでしか見ていなかったのに、すぐに同情するなどできるはずもないではないか。
 それを思うと、複雑な心境になったことだろう。
 だが、よくよくかんがえてみると、そんな生徒ができるということは、
「そもそも、野球留学などという制度があるから、こんな悲劇が起こるのだし、それに対して怒りを覚えなければいけない自分たちが、こんな複雑で嫌な気持ちにならなければいけないんだ」
 ということである。
 それを思うと、かたや、育成選手を育てる独立リーグや、プロ球界も、育成枠を設けるなどして、工夫をしているにも関わらず、学生野球などでは、いまだに、
「悪名高き」
 と言われる、
「野球留学生」
 などというものが、旧態依然として存在しているというのは、本当にいいことなのだろうか?
「だから、高校野球は嫌いだ」
 という人も多いことだろう。
 ただ、やっている選手に罪はない。
 罪はないどころか、罪にさせられているということになっているといっても過言ではないだろう。
 そんなことを考えると、結局、
「上位集団と、下位組織との溝は、狭まるどころか、どんどん広がっているのではないだろうか?」
 ということであった。
 それが、野球界の実態だと思うと、
「なるほど、野球界に魅力がなくなってきたと思うのも、無理もないことではないか?」
 といえるのではないだろうか?
 戸次は入団に際して、かなり悩んでいた。球団は、あまり評判がよくなかった。選手の質というか、それを見ていると、自分が望んでいるようなチームというわけではなそうさそうだったので、それが、チームへのイメージと重なって、イメージが悪かったといってもいいだろう。
 それを考えると、入団を迷うのも、無理はないことなのかも知れない。
 正直、戸次は天狗になっていた。
 ただ、その反面、プロの評価というものに、疑問を感じていたのも事実であった。
 というのも、
「本当に自分の実力を考えてのことなのか?」
 ということが気になったからだった。
 彼の懸念は何なのかというと、
「自分は両手投げという特殊な能力を持っていることからの評価なのか、それとも純粋に、豪速球投手としての実力を評価してくれてのものなのか?」
 ということであった。
「両手投げ」
 という評価であれば、まるで人寄せパンダか、あるいは、中継ぎや抑えも考えての、一種の、
「便利屋」
 としての利用を考えてのことなのか?
 ということを考えると、
「そんな球団の都合を考えても指名であれば、実に舐められたものだ」
 ということになる。
 もちろん、本人としては、豪速球投手として入団したいと思っている。
 ただ、半永久的に豪速球が投げられるということはないというのも分かっている。
「投手の肩は消耗品だ」
 と言われている。
 当然のことながら、年齢を重ねれば、豪速球を投げられなくなり、おのずと、イメージチェンジをいないと、生き残っていけない世界だということも覚悟はしている。その時になって、
「軟投派に転身」
 を考えないといけないだろう。
 それは、
「並みの投手に成り下がる」
 ということであり、美学としては、
「剛速球を投げられなくなれば、自分はそこまでだ」
 といえるのではないだろうか?
 しかし、実際になげられなくなって、引退ということで、その先を考えると、
「ただ、野球を立っていたというだけの、社会人としては何もない」
 というだけの男の可能性もある。
 つまり、豪速球投手としての地位はあるかも知れないが、
「どこにでもいる投手」
 なのかも知れない。
 コーチでフロント入りするには、微妙であれば、転職した際に、どんな仕事につけるかというと、イメージが浮かんで切るわけもない。
 最初から、そんなにネガティブになる必要はないのかも知れないが、考えておくことは大切なことだと思っている。
 特にいままでが、順風満帆すぎたことも怖いのだ。
 野球選手としては、大胆な投球術と言われてはいるが、実際の、
「中の人」
 は、ネガティブに考える方で、入団してからの彼の性格を、
「あいつは二重人格だ」
 ということで、気持ち悪がられていたくらいだった。
 チームには、
「新人いびり」
 という悪しき伝統が、普通にあったのだが、
「あいつはヤバい」
 と言われ、苛めの対象にならなかったのは、彼としては幸いだったのかも知れないだろう。
 戸次は、一年目こそ、12勝を挙げて、新人王と、奪三振王のタイトルをモノにしたが、二年目以降は、二年目は、
「二年目のジンクス」
 がそのまま生きてか、5勝にとどまった。
 三年目に至っては、初めて二軍落ちを経験するなど、転落人生をあゆんでいた。
 ただ、それでも、豪速球は健在で、ただ、肝心な時にボールの勢いとコントロールが甘くなって、痛打されることが多かったのだ。
 あからさまに、マウンドで落ち込むシーンが目立ち、監督も、
「これではまずい」
 と思ったのだろう。
「あんなにうなだれられたら、まわりに対しての印象が悪いし、士気が落ちてしまって、試合が壊れてしまう」
 とあくまでも、
「監督として、試合を作る」
 ということで、これ以上崩れる前に、結構早い段階で、交替させていた。
 二年目まではそこまでひどい落ち込みはなかったが、三年目から顕著になった。
 本人としては、
「今年は、二年目のジンクスなので、仕方がないんだ」
 と思っていた。
 しかし、実際に三年目は、言い訳が通用しないということで、現実を受け入れるしかなく、あからさまな落ち込みを表に出すことで、言い訳の意識だったのだろう。
 そんな姿をまわりは、敏感に感じる、ファンというものも分かっているので、打たれ始めると、味方応援団からも、
「交替させろ〜」
 というヤジが飛ぶ始末だ。
「味方応援団からやじられるようになると終わりだ」
 ということで、監督も、すぐに見切りをつけて、交替を命じる。
 完全に、ノックアウトなのだが、同じノックアウトでも、これほど情けないことはない。
 味方応援団からも、
「契約金泥棒」
 と言われるが、その通りであった。
 完全に、本人が小心者だということでの、
「バイオリズムが悪い方に進んでいる」
 ということになるのだろう。
 それを思うと、完全にチームから浮いてしまい、二軍落ちも致し方ない。
 ただ、オーナーが戸次に期待していたので、これでもギリギリ待ったのだった。さすがに、ここまで情けない態度をオーナーも見たくないということで、やっと、二軍落ちが決定した。
「遅きに失した」
 というのは、まさにこのことだっただろう。
 しかし、二軍では、結構な成績を残した。
「自信を持ちさえすれば、戸次投手もまだまだいける」
 ということで、二軍では、まずまずの成績であった。
 特に自慢の剛速球がよみがえり、試合によっては、三振の山を築いていたのだ。
 彼は、ストレートだけで三振が取れるという数少ない投手で、貴重でもあり、誰もがうらやむくらいだったのだ。
作品名:マルチリベンジ 作家名:森本晃次