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平和な復讐

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 小さな営業所は廃止したりして、ネットでつないだ事業を考えているところもあるだろう。
 だが、そんなに簡単にいくものでもないし、部署によっては、
「出社しないと業務が回らない」
 というところもあるに違いない。
「テレワーク推進」
 と政府が言っているくせに、地方の自治体であったり、都心部でも、一部のところは、患者数の把握を、厚生労働省に報告しなければいけないところ、
「いまだに、ファックスや、フロッピーなどを使っているところがある」
 ということで、ワイドショーが取り上げたりしたことで、
「説得力がないではないか」
 と言われるようになったのだった。
 数年前にあった事件として、
「業務の手違いから、町民一人に1万円という給付にしていたものを、間違えて、一人に4千万以上の金を振り込む」
 というとんでもないことをした街があった。
 そこは、人的ミスであったのだが、そのシステムの煩雑さが浮き彫りになり、しかも、このような大切な仕事を、新人に任せるというようなことで、とんでもない醜態をさらすことになったのだ。
 本人が返却をごねたりしたことで、全国的な問題となったのは、数年が経っていながらも、大きな問題となったのだった。
 それを考えれば、
「国は何を偉そうなことを言ってやがるんだ。お膝元をしっかりしないとダメだろうに」
 と言われる。
「なるほど、パニックや有事になった時、日本は、まともに政府が機能しないわけだ」
 と言われるのも、無理もないことだ。
 そもそも、政府のお偉いさんである、
「ソーリ」
 が、
「検討に検討を重ね」
 と、検討らしいことは何もしていないくせに、口でだけ言っているのだから、
「けんとうし」
 などという言葉で揶揄されることになるのだ。
 その前の、またその前のソーリも最悪だった。
「だから、元ソーリが、暗殺されるような国だということだ」
 といえるだろう。
 本当に、
「平和ボケ」
 というのが、よく似合う国である。
 そんな時代のあるマンション、刑部雅人が住んでいるマンションで、刑部の隣の隣の部屋の住民と比較的仲良くしていたのだが、実際に引っ越されてしまうと、刑部は、魂を抜かれたようになってしまった。
 その人以外に、マンションで顔見知りがいないからだというのも事実だが、それだったら、最初から、マンションに顔見知りがいなければ、それでよかっただけのことである。
 しかし、その人が引っ越していった理由も実は分かっている。ただ、気になるのが、
「自分に何も言わずに引っ越した」
 ということであった。
 別に、刑部に断りを入れないといけないという理由はどこにもない。しかし、刑部が引っ越していった理由が分かっているだけに、
「何で、相談してくれなかったんだ?」
 と思うからだった。
 実は、隣の隣の人と知り合いになった理由と、その人が引っ越していった理由というのが、同じところにあることで、そういう意味で、刑部も、
「無関係だ」
 というわけではないのだ。
 その人は、実は大学生だった。
 正直、このマンションは、
「大学生が住むには、少し贅沢だ」
 と言われるような間取りで、新婚夫婦か、子供が一人いるくらいでちょうどいい間取りだった。
 いわゆる、
「2LDK」
 という間取りだった。
 ただ、その大学生は、親からお金を出してもらっているわけではなく、自分でアルバイトをして稼いだお金で部屋を借りていたのだ。彼は、理学部の研究員ということで、部屋が広ければ広いほど、いろいろ使えるということだった。
 別に、危険な薬品を使うわけではなく、ただ広ければいいというだけだったので、ある意味ちょうどいい部屋だったのだ。
 彼は、元々このあたりに部屋を借りたのは、
「閑静な住宅街で、静かな街並みのおかげで、静かに研究に勤しめる」
 というところから、不動産屋との話の中で、
「このマンションがちょうどいい」
 ということになったのだ。
 彼は、大学で研究が忙しくなると、大学に泊まり込むことが多いので、遅くなった時、「家までが遠い」
 ということを意識する必要はなかった。
 それよりも、
「静かにゆっくりしながら、研究に勤しめる」
 ということの方がありがたかった。
 刑部も、同じような理由で、
「会社には、仮眠室というか、当直室があるので、遅くなった時は、会社に泊まればいいんだ」
 ということで、少々駅から遠くても、あまり気にならなかった。
 彼も、
「静かなところがいい」
 ということを所望していたので、そういう意味でも、
「お互いに気が合うな」
 と思っていたのだ。
 会社からは正直、結構時間が掛かる。朝の通勤は、逆にラッシュに遭わずに行けるので、ある意味、気が楽だった。何とか、このあたりの役からであれば、座っていくことも可能だった。
「通勤で疲れることはない」
 というと語弊があるが、短い時間であっても、ラッシュに飲み込まれるというのは、ありがたいことではない。
 それを思うと、閑静な住宅街ということで、休みの日は、会社とは隔絶された感覚で、仕事も忘れることができる。それが嬉しかったのだ。
「毎日の通勤だけだな」
 と、いくら、納得できているとはいえ、結局最後は、そこに行くのだった。
 マンション住まいをしていると、時々一人が寂しくなって、友達を連れてくることもあったが、今はまったくなくなっていた。
 学生時代の頃から、よく友達を連れてきていたものだった。
 もちろん、今のような部屋ではなく、一般学生が住む、コーポのようなところだったので、少々うるさくなることはあっても、そこは皆学生ということもあり、それほど苦情が来ることもなかった。
 しかし、大学を卒業し、今の会社に就職してから、会社の近くの安い部屋を借りていた。ワンルームか、1DKという、若い独身社員が住むにはちょうどいいところだったのだが、そんな部屋を借りると、一歩間違うと、
「たまり場」
 のようになるのだろう。
 実際に、他の部屋の連中も友達を連れてくるようになっていたりして、
「こっちは疲れているのに」
 と思いながらも、気持ちは、
「いい加減にしてくれ」
 というものだった。
 学生時代は、もっともっとうるさかったはずなのに、それほど、鬱陶しいと思わなかったのは、
「自分も学生、相手も学生」
 ということで、立場が同じだと思っていたからだろう。
 しかし、就職してからというもの、
「早く学生気分が抜けるようにしないと」
 と感じていたのだ。
 というのも、
「今のままの学生気分だと、全然、仕事も覚えられないし、上司からも、何を考えているとでもいうように思われてしまう」
 ということで、わざと、大学時代の友達と、距離を置くようにした。
 そのことは、皆も分かっているようで、
「またしばらくしてから、連絡するから、しばらくの間はすまない」
 といって、連絡を絶っていた。
 実際に、会社に慣れてきたからといって、いまさら大学時代の友達と連絡を取ろうという気持ちにはなれなかった。
作品名:平和な復讐 作家名:森本晃次