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平和な復讐

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 しかし、それだけに、下手なものを書いては、盗作とみられることもあるだろう。
 だが、逆にいえば、それだけ、世にたくさんの本が出回ったということであり、それらをすべて読破できている人だっていないだろう。
 そうなると、どこから、そして、どこまでが盗作なのかということは分からない。ネットなので、一般大衆が見るということで、盗作を看破してくる人もいるかも知れないが、しょせんは、
「無料投稿サイト」
 である。
「もし、どこかから何か言われれば、投降を取り下げればいいんだ」
 というだけのことである。
 本当にこれまでに、ミステリー、推理小説、探偵小説と言われるものが、どれほど発刊されてきたものか、似たようなトリックは山ほどあるだろう。そういう意味では、
「バリエーション」
 の問題ということになり、極端な話、一語一句、まったく同じでなければ、盗作でも何でもないといってもいいかも知れない。かなり乱暴な言い方ではあるが、それくらいに考えておかなければ、何も書けなくなってしまうというものであった。
 そんな刑部を、実に久しぶりに訪ねてきたのが、椎名君であった。彼は、大学を卒業し、今では、大学院から、研究員として、大学に残っているという。
「結構、優秀なんだね?」
 と聞くと、
「いえ、そんなことはありませんよ。就職して、一般企業でやっていける自信がないので、大学に残っただけです」
 というが、一般企業で、やっと自分の立場が見えかかって、将来を見据える余裕が出てきた刑部にとっては、余裕があるゆえんなのか、目の前の椎名君が眩しく見え、
「彼は彼で輝いている」
 ということが分かってことで、自分が社会に貢献できる人間になったことを、椎名君を見ることで実感させられた気がした。
 いい意味での、
「人のふり見て、我がふり」
 ということである。
 治す必要のない我がふり、椎名君との、懐かしい会話も、弾むものだと思うのだった。
「ところで、刑部さんは、小説を書いているんですか?」
 と聞かれた。
 前に彼と話をしていた時は、ちょうど書いていない時期で、彼に対して、
「いずれ、書きたくなったら書くよ」
 という曖昧な答えを返したが、そこに彼が触れたということは、
「あの時の俺は、また書き始めるという意識で、話をしていたのかも知れないな」
 と刑部は感じていた。
 椎名君は、今、商店街の近くにいい部屋があるということで、そこに住んでいるということだった。本当は、刑部に出ていくことを言いたかったのだが、逃げ出すようになってしまったことで、言い出すことができなかったといって、平謝りをしていたが、刑部としても、その時は、少しショックだったという皮肉を一言言ったが、すぐに笑みを浮かべることで、笑い話にしてあげたのだった、
 ただ、その時、椎名君が、
「自分の住んでいる部屋には、自分と同じような考えの人が結構いるんですよ」
 といっていたことが気になったのだが、却って、それを聴き出すのは失礼な気がして、それ以上聞くことができなかったのだ。
 椎名君としては、もし、言いたくなれば自分からいうという思いがあり、せっかく訪ねてきてくれた彼に、嫌な思いをさせるのは嫌だと思っていたのだった。
 刑部が、小説の話をしている時、椎名君は、刑部がミステリーを書いているという話をした時、実に嬉しそうにしていた。
「僕もミステリーが好きなんですよね?」
 といって、今まで見せたことのないような前のめりの態度に、一瞬、たじろいでしまった刑部だったが、喜んでいる椎名君を見て、どこか微笑ましさが感じられたことで、刑部自身も、嬉しくなっていたのだった。
 ミステリーの話になった時、
「刑部さんは、フィクションであっても、ミステリーを書く時、殺人事件を扱わない人だと思っていたんですが、どうなんですか?
 と、椎名君が斬り出してきた。
 それを聞いた刑部は、目を見開いて、
「これは驚いた。よくわかったね。ああ、僕は、昔、ホラー関係の小説を書いていた時も、自分がオカルトチックな話が嫌いだということで、同じホラーでも、サイコ的な話よりも、情景のドロドロした話を書くことが多かったからね」
 というと、
「ええ、昔読ませてもらった、刑部さんの昔の作品が乗った冊子を見て、そう思ったんです」
 という椎名君の話に出てきた小説というのは、大学時代に定期的に発刊していた機関紙の一つのことだったのだ。
 確かに言われてみれば、刑部君に見せたことがあった。それをいまさら覚えてくれていたということに、刑部も有頂天になっていたのだ。
「本当に、そんな昔の話を覚えてくれていて、嬉しいですよ」
 というので、刑部は、調子にのって、
「今はどんな作品を考えているんですか?」
 と、椎名君に聞かれたことで、有頂天の刑部は、そのストーリーの一部と、その一部に関わるトリックについて話して聞かせた。
「どうせ、投稿サイトに載せる程度の作品だ。人に一部を話したところで、盗作もないだろう」
 と思った。
 もっとも、もし、盗作されても、それが印税が入るほどのベストセラーにでもならない限り、
「盗作だ」
 などといって騒ぐつもりもない。
 それくらいのつもりで趣味として書いているのだし、他の投稿サイトを利用している人は、ほぼ同じくらいの感覚で書いているに違いない。
 だから、椎名君が、前のめりであっても、それはただ、懐かしい人を訪ねてきたというだけのことに違いないと思っただけだった。
 そんな会話をして帰っていった椎名君だったが、刑部は、有頂天な気分の余韻を残しながら、懐かしさに半分酔っていたが、それが冷めてくると、今度は、少し不安になってきた。
 何に不安なのか、自分でも分からない。
 何か分からない胸騒ぎがしてくるのだったが、その正体を分かる由もなかったのだ。
 ただ、前のめりだった椎名君が、途中で一度話の腰を折ったかと思うと、まるでそそくさとした態度で、慌ただしく帰っていったような気がして仕方がなかった。
 まるで、置き去りにされたという感を否めない刑部は、急に、言い知れぬ不安に襲われたのであった。
 その不安というのが、どこからくるものなのか分からず、ふいに襲ってきた感情に、身を任せるしかなかったのだ。
 そんな状態で、しばらく、悶々とした精神状態となっていたが、それは次第に、椎名君が、
「なぜやってきたのか?」
 ということが気になり始めたからだった。
 その理由を考えていたのだが、気になっていると、普段気にもしないことにぶち当たるもので、そのおかげというわけではないのだろうが、ある新聞記事が気になったのだ。 
 それは、尾坂壁も気になっていたことの延長線上にあることだったので、気になって当たり前のことなのだろうが、その内容というのが、見出しを見ると、
「小学生の子供が数人、誘拐される」
 というものだった。
 そして、脅迫も何もないまま、数日後に解放されるというものであったが、その内容というものが、刑部が考えた内容の話だったのだ。
 微妙に変えているが、タイトルだけを見ると、明らかにその話で、しかも、その話をネットに公開する日の1日後に、事件が発生していることになる。
作品名:平和な復讐 作家名:森本晃次