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平和な復讐

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 と思っていたが、どうやら、逆だということに気づき始めたのだ。
 というのも、遠くを見るのに、近くを感じられるということは、
「本当に近くのものが見えていない。あるいは、意識をしていないからだ」
 と、感じるからだった。
 近くのものを意識しないということは、まるでカメレオンのように保護色で、それで意識がない」
 と考える方が、よほど自然である。
 しかし、その自然と思えることに蓋をして、意識しないようにしているのは、そこに何かの意識があるからに違いない。
 意識しないのは、ただ、距離の遠近だけだと思っていると、大きな間違いである。間違いだということを感じるまでもなく、
「時間の感覚というのは、距離なんかじゃない」
 という意識を持っているから、余計に、
「遠い過去のことを近くに感じた時、違和感となって襲ってくるのではないだろうか?」
 と感じるようだった。
 大学時代が、かなり遠くに感じられることで、その中のピンポイントの時代を思い出すと、今度は、
「遠いと思っていることが却って近くに感じられる」
 という、二段階の感覚が襲ってくるのだ。
 しかも、それは、
「マイナスにマイナスを掛けると、プラスになる」
 という不規則な、ある意味、理不尽にも思える理屈が自分の中にあるからだ。
 それを分かっているからこそ、
「理解してしまってはいけないんだ」
 と感じるのではないだろうか。
 あれは、大学2年生の頃だっただろうか?
 刑部というのは、友達が多かったが、親友というと、周りから見て、
「変わった人」
 と呼ばれる人が多かった。
 それも、何か言われると黙ってしまい、自分の殻に閉じこもってしまう人が多かったのだ。
 実際に、高校時代までの刑部もそういうところがあった。大学に入学し、その時に知り合った一つ上の先輩を見ていると、今までの自分の性格が、いかに閉鎖的で、まわりが近寄れないだけの性格なのかということを思い知らされた。
 だが、その人と一緒にいると、まわりは、
「先輩の知り合いなんだから」
 という目で見てくれて、一目置かれるようになった。
 その時、
「どうして先輩がそれだけまわりから慕われるか?」
 ということを考えたが、正直、理解できるものではなかったのだ。
 しかし、先輩は口では何も言わないが、
「背中で語る」
 という人だったのだ。
 そのおかげで、先輩を見ていて、
「我が振り直す」
 という言葉通りに、見ることができた。
 そのおかげで、
「人の長所は、短所を補って余りある」
 ということを知ったことで、
「短所を指摘して、そこばかり治そうとするのではなく、せっかくいい長所を持っているのであれば、長所を伸ばすようなことをすれば、その人は伸びるだろう」
 ということが言えるのではないかと、思うようになったのだ。
 先輩を見ていると、決して、皮肉なことは言わない人だった。しかし、実はそれは間違いで、まわりの人には、皮肉は言わず、差しさわりない言葉でごまかしていたのだ。
 しかし、もっと内堀内にいる親友とでもいっていいような人には、言葉遣いが容赦ない。
「誰もこんなきつい言い方はしないだろうな」
 と思うようなことを平気でいう。
 しかし、そんな言葉を言われた本人が、すぐに感謝をするような成果が上がるのであった。
「人に気を遣うというのは、言わないことではなく、言ってやる、つまり、指摘をしてやることなのさ。だけど、普通にいえば、相手に嫌われたり、せっかくの助言を無視されたりして、すべてが水の泡になってしまう。だけど、そういうことが言える関係になっておけば、少々のことを言っても、相手が、助言をしてくれているということが分かるというものだ」
 というのだ。
「そうですね。やはり、土台作りというものが大切なんですね?」
 と、聞くと、
「そうさ。何事もそうさ。だから、子供の時代があって、思春期があって、徐々に成長し、今の大学時代があるのさ。それは、当たり前のことなんだけど、分かっていない人は結構いるのさ。だから、俺は当たり前のことを当たり前にしているだけだと思っているんだよ」
 という話をしていた。
 刑部も、その先輩の話を思い出し、
「俺も、先輩のようになるんだ」
 と思ったのだが、同じ人間になれるわけもなく、一人で突っ走ってしまった感じがあった。
 そのため、同じようにしても、同じになるわけがないということを意識していなかったことで、対人関係がおかしくなった。
 その相手というのが、自分の中の殻に閉じこもるタイプで、今の椎名君を彷彿させるような感じであった。
「椎名君は、その時の友達にそっくりだ」
 と感じたのだが、あえて、どんなやつだったのかを思い出そうとすると、思い出せない。
 というのも、それが最初に感じた、
「中学時代の方が、大学時代よりも、最近に感じる」
 というおかしな感覚が身についてしまったからではないだろうか?
 要するに、
「遠いものと近いものの遠近感が狂ってくると、自分の身体が不安定になり、一歩も動けなくなって、恐怖とともに、自信喪失が、激しくなるということではないだろうか?」
 ということであった。
 社会人になって忘れていた感覚だが、もし、今同じような状況になれば、
「まるで昨日のことのようだ」
 と感じるに違いない。

                 復讐機運

 椎名君が、それから少しして、部屋を引き払った。それを聞いたのは、椎名君が部屋を引き払ってから、半月ほどが経ってのことだった。
「最近、見かけないな」
 と思っていたのは事実だったが、まさか引っ越したとは思わなかった。
「いや、椎名君なら、ありえるか?」
 と、彼の性格を思い出してみた。密かに悩んで、自分一人で結論を出すタイプなのかも知れない。
 刑部は、
「椎名君なら、最後にはこの俺に相談してくれるはずだ」
 という思い込みがあっただけに、少し残念な気がしたが、だからと言って、実際に相談されたとすれば、
「どんな助言を俺ならするだろうか?」
 と考えてみたところで、結果何も思い浮かぶはずがないと思うだけだった。
「相談してほしい」
 と考えるのは、
「相談されなかったら、寂しい」
 というだけで、相談された場合の答えを用意しているわけではない。
 自分も同じ悩みを抱えていて、実際に、どうしていいのか、考えあぐねているからだ。当然、自分も椎名君のように、
「逃げ出せるものなら逃げ出したい」
 という気持ちを持っていた。
 しかし、椎名君と違うのは、そこから先を考えていることだろう。
 というのも、
「もし、ここの引き払って、どこかに引っ越したとしても、隣にどんな人がいるか分からない。下手をすれば、今よりももっと悲惨なことになるかも知れない」
 と感じるからこそ、迂闊なことはできないのだ。
 もし、最悪なところに引っ越してしまった場合に、
「やっぱりやめた」
 とは簡単にはいかないからだ。
 特に、マンション契約などは、最低でも、どれくらい住むというのが決まっていて、いきなり引っ越すと、違約金を取られることも少なくはないだろう。
作品名:平和な復讐 作家名:森本晃次