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平和な復讐

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 実際には、3つの都市が一緒になったのだが、その中心部は、元々新幹線も止まる駅であり、こだましか止まらなかったものが、今では、ひかりものぞみも止まる駅になったのは、それだけ、
「地域一番」
 という看板があるからだろう。
 新幹線の駅に滑り込む前に、最終のトンネルを抜けてから、ずっと、工場が続いていた。夜景であれば、かなりキレイだということの分かるところで、石油関係の会社なので、コンビナートの様相を呈していた。
 元々、昭和の頃から、
「3つの市が合併すれば、県庁所在地をこっちに移して来れるくらいの大都市になるのにな」
 と言われていた。
 だが、そのうちの一つの市が、頑なに合併を拒否していたことで、なかなか実現には向かわなかったが、
「平成の市町村合併」
 では、その市を無視して、もう一つの市をターゲットにすると、スムーズに合併ができた。
 だが、もう一つの目的の、
「県庁所在地の移転」
 というのは、実現しなかった。
 ただ、
「副都心」
 といってもいいほどの大きなところができたのも事実で、
「県内に、百万都市規模のところが二つもあるというのは、すごいところだ」
 と言われたものだった。
 実際に人口だけでは、
「県庁所在地よりも多い」
 と言われていた。
 ただ、県庁機能を移すには、かなりの長い間の構想は必要で、その間に、
「今の県庁所在地が、さらに他を吸収する」
 ということがないとはいえない。
 ということで、
「県庁所在地の移転計画」
 というものは、ご破算になったのだ。
 それを思うと、今はどちらの市も、
「これでよかったんだ」
 と思うようになった。
 それがどういうことなのか、ピンとは来なかったが、今の3市が合併後の副都心には、「先進的なビルであったり、学校が多くできるようになり、施設の移転が、県庁所在地から、こちらに移ってくるということが多くなった」
 ということになり、
「経済効果は、想像以上にあったのではないだろうか?」
 と言われるのは有難いことだった。
 全国でも、
「新興都市」
 として、注目されるところでもあったのだ。
 そんな新興都市であったが、地下鉄もできたのだが、私鉄は結局一つしかなかった。
 本当はもう少しあってもよかったのだろうが、そもそも、この都市の中心部に存在しているところから発展した私鉄の力が強かったのだ。
 前述のように、
「殿様商売」
 となっていることもあり、私鉄沿線、または、バス沿線などの利益により、かなりの収益と、利権を持っているということだった。
 ただ、ここの会社はあまりいい話を聴くことはない。
「都心部の市を脅して、自分たちも市政に加わって、儲けに預かろうと思っている」
 と、実しやかに囁かれている。
 だからと言って、市が気の毒というわけではない。市の方だって、利用しようと思っているのだ。
 お互いに、
「どっちもどっち」
 といってもいいだろう。
 市役所の中でも、この私鉄が運営している多角経営の中での宣伝ポスターなどが、まことしやかに掲げられている。
 実態を知っている人は、
「ああ、どうせ、市が頭が上がらないだけだ」
 ということを分かっていて、
「いつものことだ」
 ということが分かっているのであった。
 最近では、その私鉄が不動産業にも手を染めるようになっていて、不動産業というと、昔から、
「少し怖いお兄ちゃんが出てくる」
 などというイメージもあったが、実際には、ニコニコした営業の人が出てきて、必要以上の笑顔を振りまいているのを感じると怖くなってきた。
 実は、今刑部たちが住んでいるマンションも、この私鉄系列の、会社が建設を請け負っているようなところで、
 一見、土建屋風の感じがしたが、実際には、普通の建設業で、そもそも、土建屋という雰囲気は、昔のドラマの見過ぎということで、反省しないといけないレベルだと思ったのだった。
 ただ、その印象が崩れてきたのは、椎名君と仲良くなってから、少ししてのことだった。
 実は、椎名君と仲良くなる少し前だっただろうか? 椎名君と刑部の部屋の間の空き室に、引っ越してきた家族があったのだ。
 年齢的には、自分よりも少し若い人っぽくて、奥さんは、まだ女子大生といってもいいほど若く見えた。
 実際には、身長が低かったこともあって、奥さんが若く見えたのは、まるで、女子大生のような、屈託のない笑顔に、思わず、
「可愛らしい」
 と感じたからだった。
 しかし、その思いが一気に冷めたのは、彼女のそばで立っている旦那と思える男が、小さな赤ん坊を抱いていたことだった、
 小さな赤ん坊といっても、
「首が座ってくるかな?」
 と思うほどの、7,8カ月くらいであろうか。さらにその横に、父親の足元にしがみついている男の子がいて、見ると、3歳か4歳、
「幼稚園生かな?」
 と思われるくらいであった。
 ということは、奥さんは、25前後くらいで、旦那が、20代後半くらいの、一般的な若夫婦といってもよかった。
 幼稚園生の方は、完全に引っ込み思案のようで、父親にしがみつきながら、こちらの方を、見上げていた。
 半分は、何がおもしろいのかというような冷めた目に見えたが、正直、
「何を考えているか分からない」
 と感じたのだった。
「本当にこいつ一体……」
 と、思わず声に出そうなのを、必死にこらえたのだ。
 可愛らしいと思った奥さんに対し、冷めてしまったことを悪いとは思わなかったのは、その後を自分で予感していたのかも知れない。
 実際に、それから、しばらくすると、やはりというか、想像通りというか、となりのガキがうるさく感じられた。
「このマンション、外見はキレイで立派そうに見えるが、声は駄々洩れだし、走り回る音も、めちゃくちゃ響くじゃないか」
 と思わせた。
 それは、椎名君も同様のようだったが、椎名君は、元々物静かで、余計なトラブルは起こしたくないという性格なので、
「ああ、この子は耐えるんだろうな」
 と感じた。
 実際に、我慢しているのが分かった。確かに、椎名君は、余計なことは言わない。それどころか、ただでさえ口数が少なかったものが、っほとんどしゃべらなくなった。見ていて、
「これは、自分の中で抱え込んでいる証拠だな」
 と思ったのだ。
 刑部にも、学生時代、同年代の友達で似たような奴がいた。
 椎名君を見た時、
「学生時代のあの友達を思い出させる」
 と感じたのだ。
 なるほど、
「俺にとって、同じように見える相手でも、付き合ってみると、少しの違いが分かるようになってきた」
 と考えたが、それは、
「自分が年を取り、わかるようになってきたからかも知れないな」
 と感じたからであったが、学生時代ではなくなって、社会人になると、
「あの時の友達はどうしているだろう?」
 と思うこともあったが、自分もそれどころではなくなってくると、どんどん昔の記憶は、忘却の彼方に消えていくのだった。
 たまに、
「中学時代くらいの方が、大学時代よりも、近い過去に思えてくるくらいだな」
 と感じることがあった、
 最近までは、
「それだけ、中学時代の自分が、その頃に似ていたからだろうか?」
作品名:平和な復讐 作家名:森本晃次