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平和な復讐

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「まったく正反対の意味でも、一周回って、同じ言い方をするということもあるというののだ」
 と、いえるのではないだろうか?
 椎名君と話をしていると、いろいろなことを教えられる気がしてくるのだった。彼はその気はないのかも知れないが、自分の思いが相手に伝わっている時というのは、意外と意識しないものなのかも知れない。
「俺の思いが伝われる」
 と思ったり、
「相手が何を考えているか、意地でも知りたい」
 などと思っていると、意外とうまく本音が伝わることはないのではないだろうか?
 椎名君は、結構話をしていると、時々、話が飛んでしまうことがあり、
「精神喪失症なのかな?」
 と考えてしまうことがあった。
 だが、それよりも、もっと気になったのが、
「思ったよりも、勧善懲悪のところがあるな:
 と感じたことだった。
 彼のように、おとなしくてまわりと話がうまくできない人は、一歩下がって、結局何も言えなくなるものなので、自分で抱え込んでしまう人が多いだろう。
 そうなると、抑えられない気持ちが、体調に及ぼす影響がどうしても出てきて、自分では抑えが利いているつもりでいても、実際には、何もできなくなってしまうということは得てしてあったりする。
 それが、自己嫌悪につながったり、疑心暗鬼に繋がったりすることで、
「どれが本当の自分なのだろうか?」
 と考えるようになるのだ。
 そうなると、余計に自己嫌悪、疑心暗鬼という、一見正反対の感情が入り混じってしまい、二進も三進もいかない、
「前にも後ろにも進むことができない」
 ということになってしまうのだろう。
「つり橋の上で、足がすくんで動けない状態に似ているかも知れない。あなたなら、前に進むか、後ろに戻るか、どっちですか?」
 というようなことを、別の話の時に、椎名君が言っていたのを思い出した。
 刑部は、
「せっかく、そこまで行ったんだから、前に進むんじゃないかな?」
 というと、
「この設定は、あくまでも、吊り橋の中心、本当の中心まで来た時、来た道を戻るか、先に進むか? という発想なんですよ」
 と再度念を押された。
「じゃあ、椎名君、君ならどうするんだい?」
 と聞くと、彼は、少し考えながら話をしたが、見ている限り、明らかに、考えは最初から固まっていたようにしか思えない。
 そうでなければ、他人に聴けるような性格ではないだろうと思ったからだ。
 「僕の場合はですね。先には進みません。絶対に前に戻ると思います」
 というのだった。
「どうしてなんだい?」
 と聞くと、
「だって、その橋を怖い思いをして渡るわけでしょう? 帰り道が別にあるのであれば、それはそれでいいんだけど、もし、それがないのだとすれば、結局、また同じ道を通らなければいけない。となると、もう一度勇気を振り絞らなければいけないわけでしょう? 普通ならそれでいいのかも知れないけど、帰りがけは事情が変わっているかも知れない。まわりが真っ暗になっているかも知れないし、風がメチャクチャ強いかも知れない。もっといえば、行きの人数よりも帰りが込み合っていて、許容人数以外の人でごった返したとすれば、下手をすれば、吊り橋がもたずに、皆、奈落の底に転落するということになるかも知れない。僕はそこまで考えるんですよ。ただ、帰りがけも同じ怖い思いをしないといけないということを、どうして誰も思わないんだろう? っていうのが、一番の疑問なんですけどね」
 というのだった。
 それを聴いて、最初に感じたのは、
「そこまで神経質になる必要あるのか?」
 ということであったが、次の瞬間には、
「そうだよな。確かに彼の言う通りだ」
 と思ったのだ。
 こんなに一瞬にして、前の考えを一気に打ち消すようなことは、今までにはなかった気がする。
「これが、椎名君という人間の考え方なんだ」
 というよりも、
「こんなことを考える人間がいるんだ」
 という、一歩進んだ考えに至ったことは、ある意味、新鮮なインパクトがあったのだった。

                 クソガキ

「なるほど、確かにそうかも知れないな」
 と思うと、彼が言ったいくつかのパターンを反芻してみた。
 ことごとく、納得のいくことであった。
「それはきっと、一旦考えをそこまで自分の中で持っていって、そこで我に返るかのようにならないと、次が出てこないようなことだった。
 理論詰めで、一つ一つ先に進むという考えが、刑部には、今まで欠けていたことのように思えた。
「いや、それは、俺だけにいえることではないんだ」
 と、刑部は考えるようになった。
 そういう意味で、
「椎名君は、論理的に考えることが得意なんだな」
 と思った。
 得てして、論理的に話を進める人は、
「お堅い人間」
 ということで、嫌われることが多い。
 しかし、椎名君というのは、そこに嫌みがないのだ。
 そもそも、
「お堅い人間」
 のどこが悪いというのだろう?
 しょせんは、
「お堅い考えを理解できない人が、せっかく理論で説明してくれているのに、自分には理解できないというレッテルを、他の人にも貼ろうとするからまずいのだ」
 といえるだろう。
 その人は、理解しようと努力をしていて、そんな自分が健気だと思ったとしても、隣で、
「そんな理屈っぽいことは、俺たちには不要だ。そんな考えなければいけないのであれば、付き合わなければいい」
 という思いが伝わったとすれば、
「人間というのは、楽な方に進むのを本能だと思っている」
 と考えると、
「考えないことが楽なんだ」
 と思うと、そっちに流れてしまうことになるだろう。
 そう思うと、楽な方に流されるという流れを、知らず知らずに、自分の中で作ってしまうということになる。
 それを、いい悪いは別にして、自分の中で気づいてくるようになると、椎名君のような青年を、
「無視してはいけない」
 と思うようになり、それが、椎名君に対して自分が興味を持ったということの証明のようなものではないだろうか?
 椎名君は、そこまで感じているわけではないだろう。
 椎名君にとっての考えというものがあるだろうから、それが、他の人にどのように影響してくるのか。刑部も分かったような気がした。
 橋の上での話もそうであるが、椎名君の話には、いちいち、理屈がある。
 それは、毎回同じに思える時もあるし、まったく違っていると感じる時もあるが、それは、思ったよりも、考え方が狭い中で起こる、
「椎名君の、考え方の渦巻きのようなものではないだろうか?」
 と感じた。
 すると、人の考え方というのは、こちらもいい悪いは別にして、
「渦巻きのようにグルグル回っているもので、結局、同じところで止まるようになっているのではないだろうか?」
 ということであった。
 その時から、刑部は、椎名君と仲良くなったのだった。
 椎名君とすれば、
「初めてできた友達だ」
 という、
「本当なのか?」
 と聞くと、椎名君は、親友を、友達と表現しているようだったのだ。
 椎名君が最近、嵌っていたのは、パチンコだった。
 彼は真面目なところがあり、さらに、精神的なものなのか。あまり難しいことは苦手だった。
 だから、
作品名:平和な復讐 作家名:森本晃次