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平和な復讐

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「今までは私の力で編集会議に掛けていたので、共同出版の話もあったが、今度は、その会議にすらかからないがいいか?
 ということであった。
 その人は、
「これは怪しい」
 と思い始めて、
「いいですよ。私はあくまでも、企画出版を目指します」
 というと、相手が完全にキレて、
「企画出版というのは、有名人でないとありえないことです。有名人というのは、芸能人などの著名人か、犯罪者のように名前の売れた人だけだ」
 という本音が出たようだ。
 こっちもそこまで言われると、喧嘩腰になり、電話を切ったが、その人は、その時、
「ああ、やはり、完全な詐欺なんだな」
 と思い、よくよく考えると、カラクリが完全に見えてきたということであった。
 当然のごとく、裁判では敗訴し、似たような出版社も同じような末路を描き、あっという間に、
「自費出版社ブーム」
 は、消えてなくなったのだ。
 最後の、
「本を出せるのは、有名人で、芸能人か、犯罪者しかいない」
 というのを聴いた時、
「何言ってるんだ。皆にチャンスはあるからといって、おだててきたのは、どっちだ?」
 と言いたかった。
 そして、続けるとすれば、
「まるで、出来レースじゃんか」
 という思いであった。
 なるほど、確かにそう考えると、もう一つ胡散臭いことが頭に思い浮かぶものがあった。
 これを認めてしまうと、
「出版界は、出来レース、あるいは、バーターのようなものしかなく、素人であれば、まったく望みがない」
 ということを言われているのと同じであった。
 要するに、
「出版社系の新人賞も、あれだって、出来レースなんじゃないか?」
 ということである。
 まだ実力のある出来レースだったら、まだしも、まさかとは思うが、
「裏口入学的なものだったら」
 という考え方もあるのではないだろうか?
 たとえば、昔、
「替え玉受験」
 というのもあったくらいで、今であれば、
「本人確認もしていないのか?」
 ということである。
 あの時、本人確認についての問題も上がったのかどうか分からないが、特に今だったら、
「個人情報保護」
 という観点もあり、
「本人確認というのは、絶対に必須だということは、誰が考えても分かることである」
 といえるだろう。
 どちらにしても、今と昔では、そこまで違っているということであり、
「昔がよかった」
 とか、
「いや、今の方がいい」
 などということは、一概には言えないのではないだろうか?
 そんなことを考えると、
「今の大学生を見ていると、だいぶ、自分たちの頃とでも、かなり違うのではないか?」
 と感じるのだった。
 椎名君に、
「椎名君は、何を目指して勉強しているんだい?」
 と聞くと、
「ハッキリと、何かを勉強したいということではないんだけど、大学に入れば、何を勉強したいのかというのが分かりそうな気がして」
 というではないか。
 自分たちの時にもそういう学生はいただろうが、それを聞いた時、ちょっとショックではあった。
 自分もハッキリ何になりたいというわけではなかったので、何も言えないが、勉強をしようとすると、自分が何をたりたいのかが見えていた気がした。それを、椎名君に話すと、
「いや、それでも、ピンとこないんですよ。勉強しているという意識はあるんですが、それが、どこに繋がっているのか分からない。きっと、自分なりに、どこかで急にリアルな心境になるんじゃないかって思うんですよ」
 というのだった。
「十年ちょっとで、こんなに違うんだろうか?」
 と感じたが、それだけ、20代が結構、長かったような気がするのであった。
 曖昧なことをいう椎名君だったが、見ている限りでは、芯がしっかりしているように思えた。
 話を聴くと、どうやら、精神的なところが不安定だという。病院で薬を処方して飲んでいるのだが、どこか精神喪失症的なところがあるが、それに気づいたのは、
「物忘れが激しいこと」
 だという。
 ただ、だからと言って、学業に影響するものではなく、逆に、余計なことを考えない分、勉強はすればするほど、身につくのではないかというのが先生の見解だという。
「だから僕はあまり難しいことを考えず、今は先生を信じて、毎日を過ごしている感じです」
 と言った。
 だから、将来何になりたいかということも、最初から決めつけず、次第になりたいものや、目指すものが見つかるだろうというのが先生の見解だという。
 そういう意味で、何を目指すかということを、曖昧でもいいから、漠然とでも考えていればそれでいいということだった。
 最初から、一つしか目指すものがなければ、集中すればするほど、気が散るようになって、自分の目指していたものが分からなくなる。それが、彼にとっての、一番の問題だということであった。
 大学の勉強は、結構ややこしいところが、専門だという。
 しかし、それは、自分の能力に十分当て嵌まるものだから、問題ではない。今のところの問題とすれば、
「対人関係で、ふとしたことで受けるショックが、立ち直れないようなことになれば、感情が錯乱してしまい、想定外のことを起こすのではないか?」
 と言われているのだった。
 刑部も、大学時代、自分から難しいところに手を出して、結局、出口が分からず、その道に進めなかったことで、一般企業への就職となった。
 だから、椎名君のように、
「自分のことを分かっているがゆえに、精神喪失に近づいている」
 という人がm案外と多いという。
「そもそも、他に言いようがないから、精神喪失という言い方にしかならない」
 といっているだけで、実際に、重大な病気なのかも分からない。
 幼児が、落ち着きのない態度を取って、何を考えているのか分からないが、行動パターンは、
「頭がよくなければ、できるものではない」
 と言われるものであった。
 そんな時、医者は、
「自閉症の一種」
 と言ったのだ。
 母親はビックリして聞き返す。
「この子は、ハッキリとした意思を持っていて、それに伴って行動しているのに、自閉症というのはどういうことなんですか?」
 と聞くのだった。
「他にいいようがないからですね。お子さんが自分をいかに表現していいのかどうか、わかっていないわけなんです。だから、表に出す気持ちを持っていながら、まわりが分かってくれないという意識から、せっかく抱いた気持ちを内に籠らせる。それを一種の自閉症という言葉で表すことになるんですよ」
 ということであった。
 だが、その病気は、気がつけば治っていた。いつしか、冷静になっていて、誰よりも、自分のことが分かるという意識を載っているわけである。
 だから、椎名君にも、
「心配しなくてもいい。気が付けば治ってるよ」
 と言ってやりたいのだが、主治医でもない自分に何の権利があるというのか、精神的な病気というものが、いかに曖昧で、説明がしにくいものなのかということを考えれば、今の椎名君の態度や医者が見ての考え方であれば、それほど心配することもないような気がしていた。
「僕は、自閉症と言われるのが、一番分からないんですよ」
 というが、まさにその通りだろう。
作品名:平和な復讐 作家名:森本晃次