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飛び降りの心境

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 ただそれは、彼女が、
「子供の時のいいつけを、しっかりと守る」
 ということを分かっていてのことだと思っていた。
 しかし、実際には、いいつけを守るわけではなく、運動部に入部すると、そんな体質のことを言ったとしても、言い訳だと思われるので、何も言えない。だから、部活の間で気を付けるといっても、そうもいかない。
 特に花粉の時期とか結構きつかった。
 といっても、それは自分だけではなく、他の生徒も同じ条件ということで、それこそ先輩が大目に見てくれるはずなどないのであった。
 そのせいで、高校2年生の頃までに、悪い方に体質が戻ってしまった。
 医者からは、
「気を付けながらするものだと思っていた」
 と言われるし、学校で先生からは、
「どうして、医者から注意を受けていたのなら、自分で気を付けないんだ?」
 と言われ、
「何なら先生にいえばよかったのに」
 という始末である。
 まず最初の言葉を言われた時は、
「そんなの後からなら、何とでも言える」
 と言いたかった。
 そして、とどめの、
「先生にいえばよかった」
 と言われた時は、
「何を言っているの? そんなことが言える環境でもなかったくせに。本当なら、先生がそれを作るのが当たり前なんじゃないの?」
 と言いたかったのだ。
 
                 時間の錯誤

 そんな帰宅路をなるべく人込みを避けて歩いていたのは、その時にいわれたことが癪に触って、
「いいわよ。私が気を付ければそれで済むことでしょう?」
 とばかりに、もう。人に気を遣うことなく、
「自分の身は自分で守る」
 と思うようになった。
 自分のことを分かってくれているひとだったら、そのことはよくわかっているので、いうまでもないが、そうではない人は、
「あの人、まったく人に気を遣ったりしないわね」
 と言われたとしても、気にならない。
「どうせ、そんな人は自分に聞こえないようなところでウワサしたり、陰口をたたいているだけなのよ」
 と思っていた。
 却って、好都合だ。
「こっちに聞こえてこなければそれでいいだけで、陰口だったら、いくらでもほざけばいい」
 という感じであった。
 だから、あさみは、
「結構冷めたところがある」
 とまわりからいわれるようになった。
 それでもいいと思っている。下手に気を遣って、まわりが嫌な思いをしたといって、勘違いをしたりされるのであれば、最初から、
「自分は自分だ」
 と思った方が、自分の身を守る時も、大っぴらにできるというものである。
 だから、もう部活に入ることもなかった。
 高校時代の部活も、先生に対して、いいたいことを言って退部届を叩きつけてやった。
 ちょうど、顧問の先生が、理数系が専門の先生で、自分が文系を目指していたこともあって、都合よく、
「何を言っても、自分の成績に響くことはなかった」
 のである。
「先生は、医者から注意されているのなら、どうして自分で気を付けなかったっていいましたよね?」
 というと、先生は、少しビビったように頷くと、
「あの部活の雰囲気でそんなことができるとお思いですか? だったら先生は、本当に何も見えていないのと同じですね? 先生がそんな何も知らない人だから、今までの伝統だとかいう悪しき伝統が蔓延るんはないですか。監督不行き届きも甚だしいんですよ」
 と言った。
 さらに、
「どうして先生に言わなかったかって言いましたよね?」
 というと、完全に先生はビビッてしまっていて、今度は分からないくらいに頭を下げたが、
「先生にいったら、どうにかしてくれました? どうせさっきの言葉を繰り返すだけでしょう? 自分の身は自分で守れって。結局先生は、後からだったら、何とでも言えるんですよ。卑怯ですよ。そうやって、時分は相談されなかったから分からなかったなどといって逃げるんでしょう? だから、ブラックだって言われるんですよ。生徒が悪いだけじゃなく、先生から腐っているんですよ」
 と、吐き捨てるようにいうと、先生は何も言えなくなった。
 あさみの退部届を受理するしかなかったのだ。
 そして最後の脅しで、
「これを訴えて、大きな問題にすることもできるんですよ。先生の出方次第ですね」
 と言ってやると、完全に何も言えなくなっていた。
 今の教師は、
「問題にする」
 というと、ビビッてしまう。今の時代、一番ブラックな世界の教員というものは、問題になって、責任を取る形で辞めさせられるしか、自分で辞めるという選択肢はないだろう。
「教師でしか食っていくことができない」
 と思っている教師にとって、あさみの脅しは、かなりのものだったに違いない。
 高校生の頃までは、なるべく人込みを避けていた。医者に言われたからというのもあるが、自分の中で、人込みがトラウマになっていたのだ。
 だが、それはあくまでも、高校時代までおことで、大学生になると、友達が自分で作ろうとしなくとも、勝手に増えていった。それが嬉しくて、ついつい開放的な気持ちになり、最初は、人込みを意識していても、
「友達が行こうというのだから、断ることはできない」
 と、気が楽になったことで、
「今の自分なら、大丈夫だ」
 と、変に意識しないようになっていた。
 そのおかげなのか、大学時代の四年間は、人込みが苦手だという意識を持つことはなかった。ただ、スポーツ観戦のようなところや、ライブイベントなどはダメだった。せめて、遊園地や百貨店くらいなら大丈夫で、行けるところといけないところがあるのを、大学の仲間は理解してくれているようだった。
 もちろん、中には、
「付き合いが悪い」
 と思っていた人もいただろう。
 しかし、そんなことは、最初から分かっていたことで、そんなことをいうやつは、
「しょせん、心の狭いやつだ」
 ということで、相手にしなければいいだけだった。
 大学生にもなれば、友達の取捨選択くらいできるようになれるものであった。
 そう思うと、一年生の時に、勝手に増えていった友達も二年生になると、ある程度の人数で落ち着いてきていて、気が付けば、十人以下に減っていた。
「これくらいが、友達として、適度な人数なのだろうな?」
 と思うようになったのだ。
 だから、大学三年生の頃になると、敢えて、人込みに行くようなことはなくなった。友達は、みんなあさみが、
「人込みが苦手なんだ」
 と分かっているから、ちゃんと気を遣ってくれているのだ。
 そのうち、数人は、
「あさみは、病気で人込みが苦手なんだ」
 と思っていたようで、あさみも敢えて否定はしなかった。
「病気に罹らないように」
 というのが、本当の理由だが、気遣ってくれているだけで、そんな細かいことはどうでもよかったと思っていたのだ。
 しかし、その中で一人、そのことにこだわった人がいて、
「そういう大事なことは、キチンと説明してくれないと」
 といって怒った人がいた。
「ごめんなさい。そんなつもりでは」
 と言って謝ったのだが、どうにも聞き入れてもらえず、結局、あさみから離れて行ったのだ。
 だが、あさみは、
「これも仕方のないことか」
 とすぐに諦めた。
作品名:飛び降りの心境 作家名:森本晃次