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飛び降りの心境

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「そのあたりは、うまく調整すればいいんだよ」
 と委員長は言った。
 うまく煙に巻いたかのような口調であるが、言いにくいことを何とか滑らかな口調でなら言えるとでもいうのだろうか?
「うまく調整といって……」
 という委員は、総務部所属であった。
 今までのこういう、会社が内密に行う企画を、
「企画会議」
 という臨時のプロジェクトを作って進めていたのだ。

                 企画会議

 これはあくまでも、会社として危険なことをしている場合に、表から見ると、怪しいと思われることを、この、
「企画会議」
 が、隠れ蓑になって、ごまかしていると言えばいいだろうか。
 総務部に入る以上、それくらいのことは分かっている。
「本当に大丈夫なのか?」
 と思いながら、今までのパターンを思い出していた。
 そもそも、今回のプロジェクトで、何人も
「病院送り」
 になっているというのは、
「それだけ、最初は企画会議に騙されて、有頂天になり、自分がリーダーだという気概をもってやらされるのだが、やってみると、精神的にかなり来る仕事であり、普通の精神状態であれば、まともには生活ができなくなる」
 と言われるほどのプロジェクトばかりであった。
 つまり、会社は、実力があるなしに関わらず、まず最初に、実験台として誰かにやらせ、それでだめなら2,3人くらいは、ダメだということが分かっていることだろう。
 そして、いよいよ四人目くらいに、最後を任せる形でやらせるのだ。
 もし、そこでダメだったら、
「最後の責任者にすべての責任を押し付けて、自分たちは涼しい顔をしている」
 というやり方であった。
 まさか、
「企画会議」
 というものが、こんなひどい組織だとは思ってもいないだろうから、全責任を負わされた人は、精神的に病んでしまって、今回のように病院送りになったり、下手をすれば、自殺者もいたという。
 それも会社がうまくもみ消す形で、ここまで来たが、社員も、この会社のことを、
「胡散臭い会社だ」
 あるいは、
「いつまでもいられる会社ではない」
 と思っていることだろう。
「このまま、松方さんに押し付けることになるだろうな」
 と、会社は思っていた。
 今のままでは、あさみは、
「人身御供」
 にされてしまうことであろう。
 あさみには、自分がそんな危険な状態に置かれているということを、少し分かってはいたが、
「いざとなれば、辞めればいいんだ」
 と思っていたようだ。
 だから、最初から一生懸命にやっていて、次第に途中で、急に冷めた気分になった時があった。
 その時に、無理に仕事を続けてしまったことで、その時の仕事は何とか完成させることができたが、どうもその時あたりから、無理をしようとすると、汗が出てきて、焦りのようなものが襲ってくるとこから、にっちもさっちもいかないというような意識に囚われてしまうような気がしたのだ。
 そのせいもあってか、仕事をしていると、何もないのに、急に汗が出てきて、急に目の前が少しずつ暗くなってきて、頭痛から、吐き気に見舞われるようなことが、時々起こるような気がしていた。
 病院に行くと、
「片頭痛のようなものなのかも知れないですね。お薬を出しておきましょう」
 といって、頭痛薬を処方された。
 眩暈がして、頭痛が襲ってきたあたりで、薬を服用すればいいと聞かされた。
 医者の話によれば、
「薬にはいろいろなものがあって、医者によって処方する薬も違うだろうから、効き目も若干違ってきます。もし、他の医者に罹って薬をもらった時は、私が示した飲むタイミングが違う場合がありますので、気を付けてくださいね。本人にとっては同じような現象でも、意外と原因の違いなどからで、その症状やきっかけによって、処方する薬が違うのは当たり前のことですからね」
 ということであった。
「そんなことは分かっています」
 と言いたかったが、冷静になって考えてみると、
「確かに先生の言う通りだわ」
 と思うのだった。
「なるほど、確かに、同じような症状に見えても、その原因ということを考えると、精神的なものだったり、元々体調が悪いと思っていた時だったりで、原因は一つではなく、無数にありそうに感じる」
 と思うのだった。
 学生時代から、片頭痛の気はあった。特に試験前など、急に追い詰められたかのような気分になることがあった。典型的なパターンであるが、少し胸やけがしたかと思うと、急に汗が出てくる。額からの汗が出たと思うと、背中に汗を掻き始める。背中を掻こうと思うのだが、手が届かない。そんな煩わしさが焦りに変わり、どうにも、身動きが取れないような意識に駆られるのだった。
 すると、指先が痺れてくる。汗を掻きたいのに、手の平に汗が滲んでこない。熱だけが籠る感じになると、その熱が指先に痺れをもたらすような気分になるのだった。
 ただ、それは手の平の感想が招いたことで、
「汗を掻かない」
 という現象を裏付けているような気がする。
 その思いが、身体の奥に熱を籠らせているという意識を呼び、その頃から、
「身体の中の焦りを感じ始め、逃げること、逃がすことができなくなっているような気がする」
 と感じるのだった。
 そういえば、最近まで忘れていたことだったのだが、あれは、小学生の頃だっただろうか。確か友達とどこかのイベントに出かけた時だっただろうか。駅の改札で、切符を買う人が列をなしていた時だった。
 まだ小学生だったので、今のような、
「交通系のカード」
 があったわけではないので、電車に乗るとすれば、定期券か、切符を購入するしかなかった。
 その時は、イベントが終わってその帰りのことで、ちょうど、最寄りの駅はごった返していたのだ。
 今の交通系のカードであれば、切符を買う必要はない。もちろん、前もって、カードにお金をチャージしておく必要はあるのだが、カードを自動改札口にかざすことで、乗った駅と降りた駅を認識することから、降りた駅で、運賃が認識され、カード残高から引き落とされることで、改札を通過できるということになる。
 だから、意識していなければ、自分がいくらの路線になったのか、わかりはしないだろう。
 つまりは、乗った時か、前もってカード残高を把握しておき、降りた時に表示される座高の差が、そのまま運賃になるのだ。
 降りる時に、いくらになっているかということは、意識するかも知れないが、乗る時に、よほどギリギリの金額でもない限り、意識することはないだろう。
 だが、実際に乗る時もそんなに意識はしていなかったかも知れない。降りる時に、残高不足と出ても、駅員に提示し、そこで清算するか、チャージをすれば済むことで、今は改札の近くに、チャージの機械もあるので、そこで何とかなるので、慌てることは何もない。
 最近は、小学生でもそれくらいのことは分かっているようで、慌てることなく、こなしているのだった。
 だから、今は改札も、券売機も混雑することもない。
 ただ、今では券売機で、定期券の更新もできるので、そのため、月末などは、券売機が混んでいるのを見ることもあるが、それ以外で、券売機が混んでいるのをほとんど見たことはない。
作品名:飛び降りの心境 作家名:森本晃次