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城好きのマスター

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「ここはいいよな。開放的だし、仲間もたくさんいるから」
 と常連は言ってくれる。
 マスターは有頂天になって喜んでいるが、それもまんざらでもない。確かにこの店では、居心地がいいのだ。
 何がいいといって、
「露骨なことをされない」
 ということであった。
「Dコーヒーのように、露骨に電源への電気の供給を止めるようなことがないからだ」
 と言えるだろう。
 マスターは、正直がモットーだといっていた。だから、
「嫌なことは嫌だ」
 というので、人によっては、そんなマスターを毛嫌いしている人もいるだろう。
 しかし、それでもマスターは、経営者である。背に腹は代えられないこともあるが、その分を、
「自分のサービスの工夫で何とかしよう」
 と思っていたのだ。
 露骨なことが大嫌いだということは、逆にいえば、
「自分がされて嫌なことは、人にもしたくない」
 ということであり、自分がカフェや喫茶店に入った時、一番嫌で腹が立つのが、
「相手に対して悟らせるような、嫌がらせ的な態度をとるやつだ」
 と思っていた。
 特に、
「この店を常連でいっぱいの店にしたい」
 と、思っている。
 だから、常連は大切にする。
 常連というと、
「俺、いつものやつね」
 といって、ほとんど顔パスということに喜びを感じる人が一定数いる。
 だから、常連の大して、気持ちよくここでは過ごしてほしいので、常連の、
「いつもの」
 というのはキチンと覚えているし、
「店との間でツーカーの仲になっているんだ」
 という有頂天になる気持ちを客に味わわせ、ずっと来てもらおうと考えるのだった。
 しかし、店の中には、もうすっかり慣れていて、こちらが、
「いつものやつ」
 といえば、ほとんどのスタッフは分かってくれる。
 特にいつもの人や、アルバイトは必須なのだが、男性や、
「明らかに店長ではないか?」
 と思えるようなやつには、この、
「いつものやつ」
 というのが通用しない。
 最初は、
「いつものやつって何ですか?」
 と以前にも同じことを言って分かってもらえたのに、二度目からは通用しなくなった。
 しかも、その一回だけかと思いきや、もう一度、
「いつっものやつ」
 ときくと、またしても、同じように、
「いつものやつって何ですか?」
 と聞いてくるではないか。
 さすがに、あからさまだと思ったマスターは、二度とその店に寄らなくなった。
 いや、そいつがいない時は立ち寄るのだが、そいつがいれば、あからさまに嫌な顔になり、睨みつけるようにして、店の前を素通りするのだという。
 自分がマスターとして店で仕事をしている時は、決してしない表情であった。
 だから、常連さんにこの話をすると、
「それはひどいですね」
 と、常連同士、気持ちが分かるので、話が通じるのだ。
 そして、
「いまだにそんな殿様商売をする店があるんだな」
 と、その常連は呆れているようだった。
「別に聞き直すことは悪いことではないと思うのだが、それが数回続いて、あからさまだと分かると、「ああ、この人は、客の気持ちを考えようとはしないんだな」と思い、そんな露骨さが、怒りに変わっていく」
 というのが、マスターの考えであった。
 おそらく、話を聴いてくれた常連さんも同じ気持ちなのだろう。
 だからこそ、マスターにも同調するし、同じ気持ちを持っているマスターだからこそ、この店を常連にしているんだと、常連さんも思っているのだろう。
「この店が好きなのは、やっぱり、そんな相手の気持ちを思いやることなんだよな」
 と思っている。
 マスターは、
「人に気を遣う」
 という言葉は実はあまり好きではなかった。
「気を遣うというのは、意識しているから使う言葉であって、無意識に出ているのであれば、本人はその言葉を使うわけではなく、人が使ってくれるものであり、それこそが気を遣うということなんだろうな」
 と考えていた。
 だから、最近のマスターは、
「どうすれば、客に喜んでもらえるか?」
 ということを考えるようになった。
 ただ、それもできることとできないことがある。
 どうしても、夕方などの、客の少ない時間帯に、他の人を雇うというのは、今の夕方の人数では厳しいだろう。だから、食事メニューは難しいのではないか? と思っていたのだが、
「簡単なメニューで、軽食くらいなら」
 と、一応、カレーとピラフくらいなら作れるということで、夕方のメニューに加えた。
 早朝は、モーニングがあり、ランチタイムはランチだけで十分に回転する。だから、食事メニューができるとすれば、夕方だけとなるのだ。
「せめて、とんかつ定職だったらできるかな?」
 と思ったが、それも少し味気ないと思った。
「どうせするなら、もっと面白い企画になればいいな」
 と思い、昼のランチタイム専用の女の子に、何か数種類の食事を作れるように教わっておいた。
 そして、
「少し給料を上げるから、夕食タイムように、その日のメニューの下ごしらえだけでもしてくれれば助かるんだけど」
 というと、
「いいですよ。ランチが終われば、私は時間まで、少し余裕がありますからね」
 と言っていた。
 それも、マスターが、ランチタイムで出た洗い物は一手に担っていたからお願いできることでもあった。
 最初は彼女も、
「自分もします」
 と言っていたが、
「いいんだよ。これくらいはこっちでできるから」
 と気を遣ってくれているのが分かり、ありがたいという気持ちと一緒に、申し訳ないという気持ちが漲っていたのも事実だった。

                 時間というもの

 そんなこんなで、少しずつ、夕方の食事タイムの準備が進んでいく。
 基本メニューは、カレーと、ピラフ。そして、店長のお任せセットというメニューを作ったのだが、まあ、簡単にいえば、ランチの日替わりのようなものだった。
 普通のランチタイムの、
「日替わり定食」
 というと、
「曜日ごとで決まっている」
 というのが多いのかも知れない。
 そのメリットは、毎回メニューを考えなくてもいいというのと、パターンが決まっていることで、準備も難しくもなく、うまくやれば、野菜にしても肉にしても、
「破棄が少なくてすむ」
 ということになるであろう。
 それを考えていると、
「日替わり定食がいいのかな?」
 と思っていたが、せっかくの夕食なので、当初はハッキリと曜日で決めることなく、自分でできるようなものをしていこうと思ったのだ。
 そしてマスターは、それと同時に、
「新メニューへの挑戦」
 ということも考えていた。
 マスターは性格的に、
「一つのことに熱中すると、時間を忘れるくらいに没頭するところがある」
 と、周りからいわれ、自覚もあった。
「悪いことだとは思わない」
 というように、まわりの人もそんなマスターを、
「いい人だ」
 と思い、そう思う理由が、
「一つのことへの集中力がハンパないところだ」
 と思っていたのだった。
「一生懸命にすることが、俺にとってのベロメーターのようなものだからな。そのためには、積極的な気持ちになって、いつも探求心を忘れないという気持ちになれればと思うんだよ」
作品名:城好きのマスター 作家名:森本晃次