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城好きのマスター

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 今であれば、WIFI環境なるものもそのうちなのだろうが、その当時はWIFIなるものが、言葉として浸透していたわけではなかったので、とりあえず、座席に一つはLANケーブルと、電源を用意してくれていた。
 LANケーブルまではさすがに他の店にはないだろうが、電源は、貸してくれるところもその頃は徐々に増えていたのであった。
 当時はどのような言われ方をしていたかは忘れたが、
「ノートパソコンを持ち歩いて、家の外でも作業をする」
 という人も多かった。
「コワーキング」
 あるいは、
「ノマド」
 と呼ばれる人たちなどに使われる場所である。
 事務所を持たず、会社に行かず、自分で起業したりして仕事をする人、あるいは、作家や、マンガ家、WEBデザイナーなどと呼ばれる人たちもそのうちである。
 今では、一般的なチェーン店のカフェでも、
「電源が使えるスペースや、WIFIが、店内どこでも使える」
 というのが当たり前になっていて、実際に使えないと、
「客が減少する」
 というところもあるだろう。
 それでも、電源というと、元は電気である。基本的に電気というのは、資産になるので、それを無断で使用すれば、
「窃盗」
 ということになる。
 だから、無断で使うのは、本当はいけないことなのだが、今のように、どこでも使えるところがあるのに、
「電源借りてもいいですか?」
 と聞くと、あからさまに、
「ダメです」
 という店もある。
 同じチェーン店、昔からある全国チェーンとして有名な、
「Dコーヒー」
 であるが、友達の話として、
「一度、誰かほかの客が電源を使ってスマホを見ていたので、自分もいいだろうと思い、電源を拝借していれば、何と、最初はちゃんと充電できていたのに、途中から、電源に差し込んでいるのに、充電できなくなっていた」
 ということがあったという。
 たぶん、店の人間が、
「電気の送電を止めるような仕掛けを最初から施していて、送電をその時だけ止めていたのではないか?」
 と言っていたが、状況から考えて、それ以外に考えられることではなかった。
 確かに、無断で資産を借用しようとしたのは悪いことであるが、少々くらいの融通を利かせてくれてもいいものを、正直、それから、もうそのチェーン店にはいかないといっていた。
 その男は、一日に、朝昼晩と3回は利用していたのだから、店としては痛くもかゆくもないかも知れないが、今の時代にそんな露骨なことをしていると言いふらされたら、客足に響くだろうに、それほどの、
「殿様商売」
 をしても、店の経営には関係のないということであろうが?
 そんな店舗もある中で、普通の喫茶店は、昔からの伝統があるのか、基本、電源を借りるのは難しかった。それだけ、まだ表で作業する人も少なかったということであろう。
 さらに、数年前に流行った、
「世界的なパンデミック」
 のせいで、
「会社にいかずに、テレワーク」
 などと言われるようになって、ホテルの部屋であったり、個室でのレンタルスペースというものが見直されるようになっていた。
 それが、今の、
「ノマドスペース」
 と呼ばれるところであり、ネットで調べると、チェーン店のカフェも今の時代では載っていたりする。
 もちろん、
「Dコーヒー」
 は、載っているわけはなかったのだが……。
 さすがに、Dコーヒーは、ノマドスペースとしては紹介されていなかった。
「さすが、殿様商売」
 と思ったが、実際に喫茶店で紹介されているのは、Dコーヒー以外の全国チェーンを展開している店舗のほとんどであった、
 しかも、都会ともなれば、何店舗もある、特に玄関口になるターミナル駅の周辺などは、
「駅前店」
「駅東店」
「駅南店」
 などと、それぞれにある。中には駅構内にもあったりして、実に盛況だ。
 特に最近は、私鉄でもJRにおいても、以前は経営していた店をほとんど撤退し、その場所をコンビニであったり、店舗を貸す形で、販売に関しても委託を行っているというのが、現状のようだった。
 だから、今は、駅の売店というと、おみやけやを開いているくらいで、それ以外は、コンビニになったりしている。
 特に、地域の玄関駅などのなると、5、6店舗もあったりする。
「地下にあって、1回にあり、改札を抜けて、ホームに向かう途中にあったり、新幹線の改札を抜けたところにもある」
 というような感じである。
 コンビニと同じように、コーヒーややファストフードの店も多く、ハンバーガー屋や、ドーナツ屋なども、多かったりする。
 もっとも、ファストフードの店は昔からあった。コンビニが駅構内に目立つようになったのは、ここ十数年前くらいからであろう。
 そうなると、駅構内などで、WIFI環境が充実してくる。特にスマホが流行り出してからは特にそうだ。
 だから、
「WIFI環境のないところ店には立ち寄らない」
 という人も多い。
 電源にしてもそうであろうから、ひょっとすると、Dコーヒーは、殿様商売を辞めないと、それこそ、
「経営の危機」
 ということになるかも知れない。
 それを思うと、実際にノマドスペースは結構広がっていて、そのうちに、以前であれば、ネットカフェでやっていたことが、今では、
「ノマド専用の個室」
 というところを事務所として使う人も多いだろう。
 何といっても、ネットカフェというところは、マンガを読んだり、睡眠に利用する人がほとんどで、いまさら、ノマドに使うには、狭すぎるということもある。しかも、調度が暗いこともあって、正直、ノマドには向かない。何と言っても、空気の悪さは、最悪で、昔など、喫煙禁煙と別れているところに、
「禁煙ルーム」
 といって、喫煙ブースとはかなり離れているのに、相当きつい臭いがしてくることは当たり前にあった。
「喫煙ブースから一番遠いところ」
 と指定してそこにいっても、結局、鼻を衝くくらいのひどい臭いがしてくるのであった。
 それなのに、その頃は、カフェでは、なかなかノマドとして活動はできない。そのために、
「嫌でもネカフェを使うしかないんだよな」
 といって、諦めるしかなかったのだ。
 ちなみに、
「ノマド」
 というと、何かの略語のように思うが、実際にはそのままで、
「遊牧民」
 というような言葉のようだ。
「事務所を持たずに活動する」
 という人間を表す言葉としては、ピッタリではないか。
 マスターは、当時、電気などは、
「使いたければ別にかまわない」
 と思っていた。
 席も空いていれば、コーヒー一杯で、反日くらい粘る客がいてもいいと思っていたのだった。
 確かに、一時間いれば、いくらくらい客がお金を出してくれないと、赤字になるというのは、ある程度の常識として分かってはいたが、それを露骨にいえば、今せっかく来てくれている常連さんが来なくなってしまうことだろう。
 特に当時の常連さんは、
「他のカフェだと、何か味気ないからな」
 といって、この店に入りびたっている。
 他の店は、どうしても、チェーン店ということもあり、
「回転率を上げる」
 ということが至上命令になっていて、粘るというのは、なかなか難しかった。
 それを思うと、
作品名:城好きのマスター 作家名:森本晃次