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タバコと毒と記憶喪失

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 それ自体は間違いではないのが、それによって、極端な人流抑制を強いられたことで、緊急を要する店舗としての、食料品スーパー、薬局、生活必需品を購入できる店、以外では、軒並み休業要請が出て、街の繁華街は、ゴーストタウンと化してしまっていたのだった。
 そのせいもあって、その期間が続けば続くほど、店舗経営がおぼつかなくなるのだ。
 というのも、休業期間中であっても、人件費は発生するわけで、店舗が貸店舗であったりなどすれば、家賃だって発生する。
「2、3日休業しただけで、営業継続の危機なのに、これが一か月ともなると、どうしようもないではないか」
 ということで、休業期間中に、閉店を決めるところも少なくなかっただろう。
 しかし、中には、世間の風当たりを覚悟で営業をしていたわけでもまい。
 当時の法律では、国家からの休業要請を破ったからといって、罰則などは何もなかったのだ。
 つまりは、国家からは、
「命令ではなく、要請しかできない」
 ということであった。
 だから、中には営業を続けるところもあった。自治体からの、再際に渡る休業勧告も守ることはない。
「こっちだって、従業員と家族を守る必要があるんだ」
 ということでの、究極の選択だったわけであろう。
「何もせずに、潰れていくのを待つのか、あるいは、国家や自治体に逆らってでも、従業員の生活、さらには命を守るか」
 ということが、問題だったのだ。
 ただ、彼らにも言い分はある。
「今までに自分たちの中から、蔓延を発生させたことはない」
 というのだ。
 ただ、それは事実だった。
 それは、その店だけではなく、その業界すべてに言えることであったのだ。
 だから、
「うちが営業しても、何ら問題はないのではないか」
 というのが言い分であった。
 しかし、世間は自粛ムード、もっともっと、困っている人もいるわけで、そんな中、そういうルールを守れない一部の人たちに対して、SNSなどでの、誹謗中傷などということが起こってきたのだった。
 そんな連中を、
「自粛警察」
 というのだ。
 今回の問題は、その行政の勧告を守らずに営業を続けた業界があ、
「パチンコ業界だった」
 ということが一つの問題だったのだ。
 パチンコ業界というのは、どうしても、昔から言われている、
「三店方式」
 と言われる換金方法が、いかにもグレーであったり、昔から、その収益の使われ方が、こちらもグレーだったりしたこともあり、世間から、どのような目で見られているのかということが、パンデミックによる自粛生活を余儀なくされた精神状態の中で、爆発したのかも知れない。
 確かにパチンコ屋のいうとおり、
「自分たちは他の業界よりも、たくさんルールを守っている」
 ということで、統計を取っても確かに、パチンコ屋がいうように、守っている店の、業界別の比率を見ると、
「なるほど、トップクラスだ」
 と言えるだろう。
 つまり、パチンコ業界が、それだけ努力をしたということであろう。
 しかも、実際に、
「クラスター」
 と呼ばれる集団発生が起こっていないのも事実だった。
 そういう意味では、パチンコ業界というのは、他の業界に比べても、
「優良企業」
 といってもいいはずだった。
 しかし、そんなことにはお構いなく、
「自粛警察」
 と呼ばれる連中は、容赦なく攻撃をするのだ。
 それは、もちろん、自分たちの強いられている自粛というものに対しての、
「ストレス発散によるものだ」
 といってもいいかも知れない。
 少し違うのかも知れないが、思わず、平家物語に出てくる、
「禿(かむろ)」
 と呼ばれるものと似ているような気がする。
 禿というのは、平安時代末期に、平家が幾多の戦に勝利することで、朝廷内で、武家としての出世を続けていく中で、平家が権力を集中させていた時代のことであった。
 そもそも、
「禿」
 という言葉は、
「頭に髪の毛のないこと」
 あるいは、
「神が偏り短い状態で、今でいう、お坊ちゃまカットと呼ばれるような、子供のことをいう」
 と言われているのだが、平家物語においての禿というのは、
「平家に逆らったりする連中に対して、禿と呼ばれる、諜報警察のようなことをするために組織された密偵集団」
 といってもいいだろう。
 公家などは、平気で陰で平家の悪口や、下手をすれば、
「平家討伐計画」
 を練っているかも知れないということで、その対策として考えられたのが、この禿という制度であった。
「相手も、子供であれば、安心して秘密を漏らす」
 と考えたのだろう。
 その功があってか、相当数の公家が、禿の密告によって、暗殺されたり、遠くに飛ばされ、その領地を奪われることで、さらに平家は強大になり、逆らう人もいなくなってきたというのが実態であろう。
 平家物語というのは、そのあたりをちゃんと描かれているようで、当然、権力を持った人間は猜疑心から、密偵を組織して、市中に放つというのは、当たり前のことなのかも知れない。
 実際に、
「平家討伐」
 ということで、
「鹿ケ谷の陰謀」
 というものが発覚したりもした。
 この時は、禿による密偵の成果ではなかったが、実際に、そういう陰謀が渦巻いているということが分かると、平家側でも、安心はしていられないだろう。
 そんな時代の、禿などによる
「密偵」
 と、今回の、
「自粛警察」
 とではいろいろな面で違いはあるだろうが、それは時代という時間の隔たりがもたらしたもので、発想としては、変わりのないものなのかも知れない。
 今の時代における、
「自粛警察」
 というものは、ある意味、パンデミックによって緊急事態宣言が出された時点で、ある程度くらいには、その出現が想像できたかも知れない。
 だが、自粛警察というものを予測できたとすれば、やはり、パンデミック関係なく、世間に蔓延してきた、
「コンプライアンス問題による弊害」
 といってもいいかも知れない。
 この自粛警察が、
「世界的なパンデミックによる弊害だ」
 と言われるのであれば、弊害という意味では、自粛警察も、痴漢などの冤罪問題も、同じように、
「コンプライアンスによる弊害」
 として、一緒くたにできるのではないだろうか?
 そういう意味で、
「今の世の中、自分のことは自分で守らなければならない」
 という時代に突入しているといっても過言ではないだろう。
 特に、今回の、
「世界的なパンデミック」
 と呼ばれる事態になってから、数年が経っても、その伝染病の本来の姿が見えてこない。
 そもそも伝染病をもたらすウイルスというのは、
「変異」
 というものを繰り返すことで生き残ってきた。
 つまりは、
「波というものが何度も押し寄せて、その波がいったいどこで収まるかということは想像がつかない」
 と言われている。
 しかし、今までのウイルス性の伝染病で言われていることは、
「変異を繰り返すことで、蔓延力は高まることが多いが、重症化と言われる、本来の力は、徐々に弱まっている」
 と言われている。
 つまり、
「生き残るために、必死になっている分、弱くなっている」
 ということになるので、
作品名:タバコと毒と記憶喪失 作家名:森本晃次