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タバコと毒と記憶喪失

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 つまりは、電車に乗っている時、飛び上がっても、
「電車の中だけの同じ場所に飛び降りる」
 という、
「慣性の法則」
 というものを想像させるかのように、
「光速で飛んでいるロケットであっても、カプセル内で睡眠している間は、時間の歪みが生じない」
 という考え方だった。
 助かった男の方は、ちゃんとカプセルの中で、2カ月を過ごしたのだが、もう一人はカプセルから弾き出されて、表に出ていた。
 それを抱え起こすと、思わず宇宙飛行士は、
「ひーーっ」
 という大声を出して、ブルブル震えだした。
 白骨となる寸前の一番醜い姿の同僚が、そこに転がっているではないか。
 すぐに状況を把握するのは無理であった。当然、宇宙飛行士も、頭が停止してしまい、頭脳が固まってしまったのだ。しかしすぐに、
「そうか、何かの原因で、表に出されて、光速の時空をまともに受けてしまったに違いない」
 と理解した。
 ただ、状況だけを、管制室に連絡をしたが、その時、本当の状況を理解できたのは、いや、自分の考えが実証されたと思った研究員は、思わず、ほくそえんでいたくらいであった。
 ロケットは、どんどん地球の軌道に入ってきた。だが、政府は、
「実験が失敗だった」
 といってしまった手前、本当はロケットに戻ってこられたは困る。
「戻ってきたら、身柄を拘束して、とりあえず、監禁することにしよう」
 という手筈まで整えられていた。
 当然のことながら、行方不明のロケットが帰還してくるなど、管制室の中と、一部の政府要人しか知らないことだったのである。
 しかし、そうもいっていられなくなった。ロケットが地球の軌道に入ってくる近くになって、当初の予定の位置と若干の違いがあることが分かった。
 それによって元々の大気圏突入の場所が変わることで、地球への到達地点が変わってしまった。太平洋上だったものが、どこに落下するのかを再計算しなければいけない。
 いくら、若干の違いといっても、それは宇宙でのことであり、地球が時点していること、さらに、公転も考えると、さらに精密な計算が必要になり、この若干が、まったく別の場所、想像もしていないところに落下してくるとなると、
「無視して、公表を怠る」
 などということは許されないだろう。
 それを考えると、急いで管制室からは、落下場所の計算を行うのは当然のこと、
「いかに世間に説明するか?」
 ということも問題だった。
 最初にロケットを打ち上げる時、そして打ち上げ成功までは、華々しいものであったが、通信、追尾不能となって、レーダーから消えてしまったことを、世間に通知を行ったことで、
「今回の国産ロケット計画は、失敗に終わった」
 ということで、世間的には決着したのだった。
 だが、そのロケットがまた戻ってきた。普通なら考えられないことだ。地球からの分かる範囲を逸脱したのだから、どうしようもなかった。
 確かに、宇宙から帰還するまでのスケジュールはしっかりと施されていたロケットではあったが、そのロケットが追尾できなくなるところまで飛んでいくというのは、まったくの想定外だったので。その時点で、普通であれば、
「地球への帰還は絶望的だ」
 と言われても不思議のないということであった。
 それでも、地球に戻って来ようとしている。当初の着陸地点と違うのは当然のことで、何しろ本来であれば、地球への帰還は、すでにされているというのが、当初の計画だったからだ。
 だからこそ、
「地球への軌道を通って戻ってくる」
 ということ自体が奇跡なのであって、そのコースの若干の狂いなど、誤差の範囲でしかないのだろう。
 しかし、時間の差はいかんともしがたく、結局、
「地球上のどこに落ちるのか、再計算をしないと分からない」
 ということになったのだった。
 それを考えると、
「今回の帰還には、分からないことが多すぎる」
 ということもあってか、宇宙研究所の方も、迂闊にロケットの帰還を公表するわけにはいかなかったというわけである。
 しかも、政府の意向もあったわけで、今のボンクラ政府に、この状況を判断し、いかに公表するかなどということを考える頭があるわけもない。
「意味のない会議を延々と続ける」
 ということを、
「小田原評定」
 というが、
 それは、織豊時代、羽柴秀吉による天下統一の最期の過程における、
「小田原征伐」
 にて、小田原城に籠った、後北条氏の家臣たちが、
「取り囲まれた状態で、どうすればいいのかということを、延々と会議をしていた」
 という状況から、
「小田原評定」
 と言われるようになったとおい。
 そんな会議が、政府の中で話し合われ、とっくに、研究所の方では、
「国民はおろか、全世界に公表するしかない」
 といっているにも関わらず、政府は煮え切らないので、業を煮やした研究所は、政府をすっ飛ばして、公表に踏み切った。
 さすがに、他の国は怒っている国もあったが、そのあたりは、国連がうまく纏めていた。
 そして早急に、国連や、各国も軌道計算に躍起になり、日本側からも、分かっている範囲での情報提供を行い、共同で軌道計算を行っているのだった。
「面目丸つぶれ」
 となったのは、日本政府だった。
 世界各国からは、コテンパンに言われ、日本国内世論でも、9割近くの人が、
「政府の対応には、反対」
 というものであり、個々の意見として、
「政府のやり方には、怒りを通り越したものがある」
 あるいは、
「どこに落ちるか分からないなんて、政府は人の命を何だと思っているんだ。世界に対しても恥晒しだ」
 と言われ、元々低かった支持率は、さらに低下していき、これ以上やっても、
「史上最悪の支持率を更新する」
 というのも時間の問題だった。
 さすがいここまでくれば、
「ソーリの座」
 にしがみついていた人間も、内閣総辞職ということにしかならなかった。
 即日の内閣総辞職となったが、これにも国民は総すかんだった。
「あいつらは、支持率最低と言われるのが嫌で、今一番しなければいけないことを放棄して、総辞職したんだ」
 と言われ、支持率こそ、最悪を更新はしなかったが、世間からは、
「内閣制度発足後の、ダントツで最悪の内閣だった」
 と言われた。
 大日本帝国時代に、戦争に突入した当時の内閣よりもひどいということだった。もっとも歴史を知っている人は、戦争突入の経緯を分かっているので、
「史上最悪の内閣」
 というレッテルを貼っているわけではない。
 あの時代の内閣による戦争突入は、無理もないことであった。問題は、
「陸軍の暴走」
 であり、政府はむしろ、
「外交による戦争回避」
 というものを、ずっと模索していた状態だった。
 ただ、時代と陸軍がそれを許さず、しかも、アメリカの、
「ヨーロッパでの戦争介入」
 を画策するための、世論捜査のために、
「わざと日本に、先制攻撃をさせた」
 のだから、それだけ情勢が日本に不利だったのかということである。

                 社会と自然への反発
作品名:タバコと毒と記憶喪失 作家名:森本晃次