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タバコと毒と記憶喪失

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 もう一つの捜査としては、彼が服用した毒物の特定からの、入手法皇などであった。
 毒薬なるものは、なかなか入手できるものではない。そこから攻めるという方法だ。
 さらにもう一つ考えられることとして、
「この男が、自殺でないとすれば、自ら毒を呑んだという意識がないだろうから、怪しまれずに、どうやって被害者に毒を呑ませることができたのだろうか?」
 というところの解明も、一つの、事件解明への手掛かりになるのではないだろうか?
 それらの考えをまとめることで、
「これが殺人だ」
 ということへの確認にもなるのだった。
 まことに不謹慎ではあるが、
「被害者の命が助かったというのは、不幸中の幸いであるが、そのおかげで、捜査とすればやりにくくなる。というのは、死んでいるとすれば、司法解剖ができて、そこから謎の部分の解明がハッキリするからだ」
 ということである。
 今の状態であれば、本人が生きている以上、解剖などできるはずもない。
 となると、本人の回復を待って、事情聴取するしかないのだろうが、今のところの絶対安静。しかも、まったくのこん睡状態で、意識もないのだという。
 くれぐれも医者に確認したが、
「命には別条はない」
 ということなので、そこだけが安心だった。
 今の間は、
「できる捜査をするしかない」
 ということで、聞き込みと、医者から、毒物の特定をしてもらうしかないのだった。
「それにしても、医者からの連絡がないのは気になるな」
 と、事件が発生して、丸二日が経ってから、三浦刑事が感じたことだった。
「桜井警部補、ちょっと連絡が遅くはないですかね?」
 と、三浦刑事は直属の上司である、桜井警部補に聴いてみた。
「うん、確かにそうだな。しかし、被害者の命が最優先の医者に、スピードを求めるのは酷というものだろう。警察の鑑識のように、殺人事件を遺体を専門に扱っているような部隊ではないのだから、時間がかかるのは仕方のないことではないんじゃないか?」
 というのだった。
 しかし、さすがに桜井警部補も、三浦刑事に言われて、
「よし、わかった。私が少し聴いてみよう」
 と言ってくれたので、
「ありがとうございます」
 と礼を言って。
「これで、少しは捜査が先に進む」
 と、三浦刑事は喜んだ。
 そもそも、事件というものは、長くやっていれば、どこかで膠着状態になるものだが、最初からまったく進まないというのは、結構珍しかった。それを思うと、三浦刑事が、苛立ちを抱くのも分からなくもない。
「こんなところで膠着していては、事件解決にどれほどの時間がかかるというのか?」
 ということであった。
 それよりも、
「長引けば長引くほど、時間が経つということなので、薬物が検出されなかったり、証拠になるものが劣化していく可能性がある」
 ということを危惧しているのであった。
 もし、犯人が特定されて、いろいろ裏付け捜査を行う際に、証拠能力となるものが、ほとんどなかったら、
「証拠不十分」
 ということで、犯人は分かっていても、釈放しなければならないという、消化不良の状態になると、ストレスが身体を蝕むくらいになるのではないだろうか。
 そんなことを考えていると、三浦刑事は胃が痛くなるのを感じた。
 たまに胃が痛くなることがあるので、時々胃腸科に通っていたが、
「職業病の一種でしょうね」
 ということで、胃薬を処方してもらって飲んでいた。
 なるべく上司に気づかれないようにしてはいたが、桜井警部補には、それくらいのことは分かっていたようだ。
「私だって、若い頃には、胃が痛くなるようなこともあった」
 と言っていたが、それが、医者のいう、
「職業病」
 というものであろう。
 今日も、医者からもらった胃薬を持って給湯室に行って、コップに水を注ぎ、薬を飲んだ。
 その時、ふと、被害者が飲んだと思われる毒のことを想像してみた。
「あの被害者も、こうやって、毒を呑んだのかな?」
 と思ったが、となると、
「即効性のないカプセルのようなものでなければいけないんだろうな」
 と感じた。
 何しろ、煽った毒が、即効で身体に一気に回るとすれば、捜査をしているもっと早い段階で、あの男がいた場所が分かるというものだ。
 ということを考えた。
 すると、もう一つ浮かんできた発想として、
「そういえば、第一発見者の男が、近くの橋でタバコに火をつけているところを見たといっていたっけ」
 ということを思い出すことで、場所的なことも考えて、
「タバコに毒を仕込んでいたんじゃないだろうか?」
 と考えた。
 そこで、彼はさっそく、被害者が担ぎ込まれた病院に行ってみることにした。被害者が意識不明でも、医者に話が聞けるのではないかと思ったからだ。
「先生、毒に関してですが、何か分かりましたか?」
 と言われた先生は、
「そうですね、毒薬の特定に関してですが、今いろいろやってみているんですが、まだ特定とまではいかないんです。いろいろな見地から検査をしているのですが、これといって確証となるものは出てきません。そこが不思議なところなんですけどね。ただ、服用経路ですが、どうも胃からではなく、肺ではないかと思うんです」
 というので、興奮気味に、
「やはりタバコでしょうか?」
 と三浦刑事がいうと、
「そうですね、そう考えるのが自然だと思います。この人はどうも、かなりのヘビースモーカーのようですね。それも、禁断症状を示すくらいのね」
 というではないか。
「そうですか、じゃあ、引き続き、毒薬の特定を急いでいただくことを我々としては、願うばかりです」
 と三浦刑事がいうと、
「ええ、分かりました。我々も医者としての意地がありますからね」
 と医者は言った。
「ところで、被害者の様子はいかがですか? まだ意識不明の状態ですか?」
 と言われた医者は、少し暗い顔になって、少しうつむいたまま。
「それなんですが、患者さんは、意識はある程度までは取り戻したようです、目が覚めると意識がハッキリするまで、それほど時間はかかりませんでしたからね」
 といって少し間を置いた。
「それで?」
 と促すように三浦刑事がいうと、
「患者は、どうも記憶喪失になっているようなんですよ。それも、まだ夢の中にいるような状態ですね。一見して記憶喪失だということが分かる雰囲気なんですが、この様子をいかに考えればいいか? それは、あくまでも、医者としての範疇を今のところ超えているんですよね」
 という、どこか曖昧な言い方を医者はしたのだった。

                 依存症

 それを聞いた三浦刑事は、少し落胆したが、逆に、この事件は今のところ曖昧な感じで推移しているが、それがすべて逆に作用していると考えると、
「一つ何かが判明すれば、事件は意外とスムーズに進むかも知れない」
 と考えた。
「なるほど、これは逆に停滞しているだけで、堰を切って事件が解決する可能性もあるということか?」
 と、今度は楽天的に考えたのだ。
作品名:タバコと毒と記憶喪失 作家名:森本晃次