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タバコと毒と記憶喪失

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 と言われるものがあり、
「天守風の建物を作り、資料館であったり、別の目的で使うと言った、一種の町おこしのようなものの一環として建てられたもの」
 というものである。
 F城は、そういう意味では、再建するとすれば、
「模擬天守」
 にしかならないだろう。
 ただ、ここは、
「天守台」
 と呼ばれるものも残っていて、屏風風の絵画も残っているようだった。
 それを思えば、
「模擬天守として再建してもいいだろう」
 と言えるのではないだろうか。
 なぜなら、
「今の日本にある天守のほとんどは、模擬天守である」
 からであった。
 そういう意味では、
「資料が足りない」
 というのであれば、別に、
「模擬天守でもいいのではないか?」
 と思うのだが、もしこれを専門家であったり、有識者の人がいっているのであれば、納得はいくが、いっちゃ悪いが、別に城のことなど知らないだろうと思われる市議会の皆が、いっているのだ。
 確かに、市長一人であれば、
「私は城に興味があって、基礎知識はバッチリです」
 というのは分かるのだが、それ以外の市議会の人間全部、いや民主主義だから過半数でいいのだろうが、それだけの人が、
「私は城にはうるさい」
 というわけでもあるまい。
 もしそうだというのであれば、それこそ、
「市の議員で、城郭研究会でも作ってください」
 と言いたいくらいであろう。
 しかし、さすがにそんなわけもない。
 だとすれば、
「市のトップである市長が城に詳しくて、その市長が、模擬天守ではダメだといっているから、議会で否決した」
 などというのであれば、それこそ、本末転倒である。
 それこそ、
「民主主義への挑戦」
 とでもいうべきか、市長一人の意見で、すべてがひっくり返るような市であれば、それこそ、独裁政治だと言われても仕方がないだろう。
 そういう意味で、
「市議会で、満場一致で否決されました」
 ということだったわけなので、ここまでくれば、理由というものが、
「学術的な話ではない」
 ということになるだろう。
 つまり、
「市には、そこまでのお金がない」
 というのであれば、まだいいが、それを隠そうとするということが、
「俺たちの私利私欲に使える金がなくなるから、それは困る」
 といっているようなものではないか。
 それを考えると、
「市でわざわざ城のようなものを作る必要はない。分からないといっていれば、それでいいんだ」
 というだけのことである。
 だから、逆に、
「市民だって、城のことなんかわかりゃしないんだ」
 ということで、大多数の市民が、
「そんなもの再建しなくてもいい」
 と言えばそれまでである。
「それこそが民主主義だ」
 といってしまえば、
「再建を」
 といっている連中も、民主主義を持ち出されると、ぐうの音も出ないと思っているに違いない。
 だが、難しい問題でもある。市民の中には、特に商売人の中に、
「城を再建することで、観光客を呼ぶことができて、観光産業が潤う」
 という意見もある。
 城があるというだけで、
「行ってみたい」
 と思う観光客も結構いる。
 実際に、観光シーズンなどは、城がメイン会場になり、イベントをしたりしているではないか。
「ゆるキャラを使ったイベントなど、家族連れの観光客には大きな目玉になるのは間違いないだろう」
 というものであった。
 それなのに、実際に天守の再建を考えないということはどういうことなのだろうか?
 考えられるとすれば、
「市にお金がない」
 ということであろう。
 まさか、
「御門を再建したために、天守の再建のお金がない」
 などという理由ではないだろう。
 と思われたのだが、実際のところは、そのあたりがグレーだったようだ。
 そういう意味でも、
「これ以上は、F城の再建に関しては、これ以上、市はお金を出さない」
 と言われている。
 一つ面白い話があるのだが、これは、今実際に進められている計画に、
「中央公園計画」
 というものがある。
 これは、そもそも、F城というのは、
「内濠の内部である、本来の防御の城の部分の公園を、F市が管理していたのだが、その隣にある、外堀、つまり、総構えに位置しているところが公園として整備されているところを県が管理しているという、歪んだ管理方法になっているのだが、その管理を一本化して、そこを、中央公園として整備する」
 と言われるものであった。
 その計画は、今から十数年くらい前から話し合われてきて、ここ5年くらいの間で、オープンとなり、計画が進んでいる様子だった。
 ただ、この計画が水面下で進んでいる時に、
「下の御門焼失事件」
 が起こったのかどうかは分からないが、実際にこの時、
「天守を再建しないという話が出たのに、なぜ、霜の御門の再建を、市が行ったのだろうか?」
 ということで、一部で話題にはなっていたようだ。
 市役所や県庁の職員の中で少し叫ばれていたことであったが、
「変に詮索をして、自分が不利になってはいけない」
 ということで、誰も何も言わなくなったのだった。
 だからこそ、その後に市と県との間で、緘口令は敷かれていたが、そんな中、
「あのF市が金を出すとはね」
 と、御門の再建に関しては、きな臭いウワサが流れていたのも事実である。
 実際に、F市が金を出して再建したことで、他の城の部分を再建したりはまったくなかった。
 そのうちに、
「中央公園計画」
 というものが、浮かび上がってきている。
 ということで、F県の方でも疑惑があったが、誰も口には出さなかった。
 そもそも、緘口令が敷かれているのだから、口に出してウワサになるわけには、いかない。
 それを思うと、F県とF市の間で、
「密約」
 のようなものがあるのではないかと思われた。
 逆に、今回の、
「中央公園計画」
 というものを提唱してきたのは、F市の方だったという。
 しかも、かなり強硬に話を進めてきて、
「県の方としてはメリットがない」
 といって最初は二の足を踏んでいたのだが、市の方のアタックに負ける形で、この計画が始まったという。
「どうやら、市には何かウルトラCのようなものがあるらしいぞ」
 と言われているが、それがどうやら、市が保有しているものとの提携のようであった。
 これは、市にとっても潤う話だが、何と言っても、県の方が圧倒的に利益を得ることができる。市のプライドとしては、それが許せないはずなのに、それでも話を持ち掛けてきたのは、
「中央公園計画」
 を何としてでも成功させるというのが、一番の目的だったのだ。
「なんといっても、お互いに損のない話で、しかも、パンデミックで冷え切った経済問題を解決する手始めとしてはいいんじゃないですか?」
 と、県に持ち掛けると、
「じゃあ、少し時間をください。持ち帰って吟味します」
 ということであった。
 もちろん、即答はないということは分かっていた。だが、F県とF市に関しては、昔から仲が悪かったという。他の県でも、似たようなことはあるのだが、F県内に関しては、その仲の悪さは、継続的なもので、伝統的だったといってもいいかも知れない。
作品名:タバコと毒と記憶喪失 作家名:森本晃次