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一毒二役

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「他殺と考えるとすれば、矛盾する部分もおおいにあるのではないか?」
 と思っている。
 つまりは、
「毒を飲んでまで苦しむ必要はない」
 という思いと、
「毒を盛られたのであれば、池に沈めるべきであり、安易に浮かんでくるというのは、まるで、死体を発見させたいがためということであり、そこに何らの理由が存在するというのだろう?」
 と考えるのだ。
「俺なら、もし人を殺すのであれば、他の方法を考えるだろうな?」
 と思ったが、他にいい方法が思いつかなかったとすれば、
「この方法しかないんだろうな?」
 と思うに違いない。
 とにかく、
「鑑識がどのようなところまで発見できるかというのが、今のところの真相に近づけるかどうかという分かれ目であろう」
 と考えられるのであった。
「桜井警部補」
 と鑑識員の一人に呼ばれた。
 この鑑識員とはよく一緒になるので、気心も知れていて、性格も分かっている。
「少し変わったところのあるやつだが、ウソを言わない」
 ということと、
「勧善懲悪の気持ちが強い」
 ということに変わりはないということは分かっていた。
 鑑識員に呼ばれた桜井警部補は、
「どうしたんだい?」
 と聞くと、死体が発見されたところから、少し離れた濠のふちに当たるところに、被害者のものと思われる靴と遺書のようなものが置かれていた。
「私は人を殺しました。この男は殺されても仕方のない男だとは思いますが、やってしまったことに対して私も責任を取らなければいけません。ここで毒を煽って死ぬことにします」
 とだけ書かれていた。
「これが遺書だというのか?」
 と、桜井警部補は、その手紙を訝しそうに読んで、
「どう思う?」
 と、第一発見者の人には、
「また伺うこともあるかも知れませんから」
 といって、今日のところは、ここまでの聞き込みとなった三浦刑事に、今の遺書を見せた。
 すると、三浦刑事は一読し、みるみるうちに顔が険しくなっていくのを見て、
「俺もあんな顔をしていたんだろうか?」
 と思った桜井警部補だったが、読み終えた三浦刑事に対して、
「どう思う?」
 と聞くと、
「どう思うって、言われても」
 と一瞬、言葉に詰まったが、
「なんといえばいいのか、一言でいって、何とも中途半端な遺書でしかないですよね?」
 と答えた。
「例えば?」
 桜井警部補は、三浦刑事の返ってくる答えが分かっていると思いながらも、わざと聞いたのだった。
「例えばって、何といっても、人を殺したはいいけど、誰を殺したというのですかね? それに殺されるべき人間と書いているけど、どういうことなのか。そして何よりも、人を殺した自分がどうして死なないといけないのかということが、相手を説得しようとまったくしていないという意味で、遺書でも何でもない気がします。本当い自分が書いたんでしょうかね?」
 と三浦刑事が言った。
 まさに、桜井警部補も同じ意見であった。
「この男がまずは何を根拠にこれを描いたのかということだよな。だけど、それよりも、ここにあったからといって、本当にこの死体の男の遺書なのかということだよな。逆にここに浮かんでいる男は、この男がいう、死ななければいけない男で、その男を殺して自分は他の場所でということであれば、毒を煽っていたということの理屈は通るよな」
 というのであった。
「ええ、そうなんですよ。やはり、この死体が毒を煽っているということが何かを意味しているように思うんですよ。それに、この手紙、あまりにも都合のいい内容に思うのは、俺だけなんですかね?」
 と三浦刑事が言った。
 それに関しても、桜井警部補は、遺書を見たその時から感じていたことだった。
「この死体が、自殺なのか、被害者なのか、どちらにしても、ここに書かれていることが事実だとすれば、もう一体どこかに死体がないと理屈が立たない。ということは、まずは、この遺体が誰なのかということを確定させる非梅雨があるということだな」
 と三浦刑事にいうと、
「ええ、まさにその通りです」
 とばかりに、何度も頷いている。
「何か、身元を表すようなものが、この死体から発見されたりしたかね?」
 と、桜井警部補が聞いたが、
「今のところありませんね」
 と返ってきた。
「遺書まがいのものがあんなにこれ見よがしに置いていたにも関わらず、身元を示すものを持っていないというのも、何かしらのわざとらしさのようなものがあるような気がするな」
 と、桜井警部補はいうのだった。
 そういえば、昔の事件で、
「これみよがし」
 と言えるような時間があったのを思い出したのは、三浦刑事だった。
 その事件というのは、今から思えば、まるで、推理小説のようなもので、
「事実は小説よりも奇なり」
 というような話を、思い出すような話だった。
 逆に、トリックというか、小説のような事件だったので、逆に、
「ミステリー小説の逆説をいけば、真相に辿り着くのではないか?」
 という、ミステリー好きの刑事がいて、そもそもが、
「自分は、ミステリーを読んで、刑事に憧れました」
 と公言している人であり、普通だったら、
「おいおい、警察や本物の事件を舐めるんじゃないぞ」
 と言いたくなるような人だったのだが、話を聴いてみると、どうやらかなりの勧善懲悪の男だったのだ。
 だが、昔であれば、
「熱血刑事に憧れて、刑事にありました」
 というのが、毎年一人や二人は含まれているものだが、最近ではどうなのだろう?
 そもそも、熱血刑事などというものは、今存在しないかも知れない。
 せめて、
「警察というところの、縦割りであったり、階級社会の官僚制というものに挑戦するかのような刑事がいる程度」
 ということで、まったく違った刑事になっているのではないだろうか?
 つまり、主人公であるその刑事の敵というのは、昔であれば、
「犯人」
 ということになるのに、今の主人公の敵は複数なのだ。
 それもまったく正反対の立場が相手であり、下手をすれば、
「両方から責められる」
 というものなのである。
 つまり、今の場合は、
「まず、昔と同じように、基本的には勧善懲悪で、敵は犯人」
 なのである。
 しかし、今の世の中はそれでは済まされない。
 警察は昔の警察の
「負の遺産」
 を今に受け継いでいる。
 まるで、
「国鉄時代の借金を、JRが引き継いだ」
 あるいは、
「中国王朝を、新たな国家が継承したということで、対外的に結んだ条約に縛られる」
 というような感じである。
 つまりは、
「警察組織の昔の捜査方針が起こしてきた冤罪の問題であったり、被害者を追い詰めて、自殺に追い込んだり」
 などという警察捜査のつけが、今回ってきて、
「社会が求めている警察像というものに縛られてしまい、警察が委縮するかたちでの捜査になってしまう」
 ということだ。
 警察のように、犯人を追い詰めたり、犯人を威嚇するような力があるからこその、警察権なのに、それがまったくの無力となれば、警察は、
「何のために警察がいるか?」
 ということになってしまうのだ。
 それを考えると、
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次