小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

一毒二役

INDEX|4ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 と答えた第一発見者に対して、一瞬、怪訝な表情をしたのを、第一発見者の男は気づいたようで、言い訳がましく、
「刑事さんは、どうしてそれまで通報しなかったのかと言われるわけでしょう?」
 というと、刑事二人は一瞬顔を見合わせて、毅然とした表情で、頷いて見せたのであった。
「最初は、本当に気づかなかったんです、こんなに蓮の葉が茂っていれば、何かが浮いていたとしても、それが死体だとはすぐに気づかないでしょう。私も、怪しいとは思ったんですが、自分から通頬して、変に警察に疑われでもするのが嫌だと思ったんです。だから最初は無視して歩き始めたんですが、次第に気になるようになってきて、また戻ってきたんですよ」
 といって、男は言葉を途切れさせた。
 刑事二人は、
「まあ、それくらいのことは普通にあることかも知れないな」
 と思った。
「でも、引き返してきてから、見ると、さっきまであったものが、見えなくなったんです。最初は錯覚かと思ったのと、もう一つは、流されたのかなと思ったんですよ、ここは少しいくと、海が近いんです、時間帯によっては、海に流されることもあるようなので、私は、流されたのかと一瞬思ったんですが、少し様子を見ていると、その場所に何かが浮かんでくるのを見て、それが先ほどの物体だと気づいたんです。そこで、放っておけば、魚のえさにでもなって、もし、あれが死体だったらと思うと、放ってはおけないと思って、警察に電話をしたという次第です」
 と男はいったのだ。
 なるほど、男のいうことには一理あるし、当然のことだと思う。最近では、
「関わり合いになりたくない」
 ということで、通報自体をためらう人が多い中、それでも、通報してくれたのだから、ありがたいということであろう。
「そうでしたか、それでこの時間になったというわけですね?」
 と、桜井警部補は言った。
 第一発見者の男の方も、
「やっぱり、通報が遅れたことに、疑念を抱いていたんだな」
 と思うと、
「自分の言い訳が果たしてよかったのかどうなのだろう?」
 と思ったが、
「これはこれでよかったのだろう」
 と考えるしかないと思ったのだった。
 刑事としても、確かに通報してくれてありがたかった。
 もし男の言う通り、死体が流されていったり、沈んでしまって、喪に絡まって上がってこなかったりすれば、死体自体が発見されなかった可能性が十分にあるということである。
 それを思うと、第一発見者の言う通り、
「警察に初めて通報しようと思った」
 というのも、無理もないことだと思えた。
 それでも、
「勇気をもって通報してくれてよかった」
 と思っている。
 死体が毒を飲んでいる以上、他殺の可能性も多いにあることから、
「もし、死体が上がらなければ」
 と思うと、犯人がのうのうと高笑いをしていると思えて、これほど腹立たしいことはない。
 もちろん、自分たちの無能によって、犯人を取り逃がした時もそうだが、
「犯罪が行われた」
 というのが分かっているのに、それを、
「殺人があったということすら知らなかった」
 ということである方が、何倍も悔しいといってもいいだろう。
 そんな時は、
「しょうがなかったんだ」
 と思うしかなく、諦めきれないのは、
「自分の正義感からだ」
 として、
「その正義感に免じるしかないだろう」
 と思うしかないに違いない。
 そんなことを考えていると、
「警察という仕事がどれほど、やり切れない思いが多いのか?」
 ということを考えると、さらに、感じる思いは強いものなのかも知れないだろう。
 そう思っていると、今回の死体発見にて、第一発見者の人が、
「よさそうな人でよかった」
 と感じたのは、桜井警部補だけではなく、三浦刑事にしても同じだったことだろう。
「通報いただきまして、ありがとうございます」
 と三浦刑事がいうと、
「ああ、いえ、やはりあれは溺死死体だったんでしょうか?」
 と聞かれて、一瞬、息を飲み込んだ三浦刑事であったが、
「そうですね、死因に関しては、今調査を行っているところです」
 というと、
「ああ、そうですか、でも、あんなところに浮かんでいるんだから、普通の死に方ではないと思いましてね」
 と発見者はいう。
「それはどういうことですか?」
 と聞くと、
「だって、殺されたにしても、自殺だったにしても、何もこんなところで死ななくてもですね? 自殺だとすれば、自分の家でだったり、逆に自殺の名所というところだってあるわけだから、何をお濠に飛び込むというのも、不自然な気がするんですよ」
 という。
「確かにそうですね」
 と、三浦刑事がいうと、
「普通、私などの素人が考えても、飛び込むのであれば、確実に助からないような、それこそ断崖絶壁の場所から飛び降りたりするのではないかと思うんですよ。だって、濠に飛び込んだって、息苦しいと思えば浮いてきたりするわけでしょう? 身動きが取れないような状態であったらいざしらず」
 と男が言うと、
「ええ、確かにそうですね。昔の、戦時中など、負け戦で、艦長が、「船と運命を共にする」という言葉を聞きますが、そんな時は、錨を重し代わりにして、身体に綱で結びつけて、そのまま入水するというような話を聴いたりしますからね。確かに言われる通り、息苦しかったら、浮き上がろうとするのが本能で、結局死ねないということになりますよね?」
 と三浦刑事がいうと、彼はさらに続けて。
「そうそう、結局、何のための自殺なのか分からないということで、本気で死ぬ気があるのかということを感じるんですよ」
 といった。
 それを聞いた発見者は。
「ということは、自殺ではないということか?」
 と、自分で勝手に頷いていたが、それは、桜井警部補も同じことを考えていたのだった。
 それを聞いた桜井警部補は、
「まあまあ、ここから先は警察の鑑識が調べますから、勝手に先に進まないようにしてください」
 と、少し熱くなりかけている三浦刑事の頭を冷やすという意味も込められていた。
 ただ、
「この事件の初動捜査の核心を突くような話ではあるんだけどな」
 という思いは抱いていたが、下手な想像が先走ってしまうというのは、捜査の上で、先入観に繋がってしまうということであまりいいことではないだろう。
 それを思うと、桜井警部補は、二人を窘めるしかなかったのだ。
 桜井警部補は、確かに、この事件の今のところの最大の問題点として、
「事件と事故のどちらなのか?」
 ということであった。
 言い換えれば、
「自殺か他殺か」
 ということと、似ている。
 ただ、実際には酷似はしているが同じことではない、つまりは、
「どちらからでも、事件に関して入り込むことができる」
 と言えるのではないだろうか?
 ということは、
「まずはどちらから入ればいいのか?」
 ということを考えるのが先決であり、それには、第一発見者の意見は意見として聞いたうえで、先入観を持たないようにしないといけないということは間違いのないことであろう。
 桜井警部補としては、
「私は、これは殺人だと思う」
 というのが、自論であった。
 だが、確証はない。
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次