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一毒二役

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 ただ、核戦争ともなると別である、一旦ボタンが押されたら、逃げることも隠れることもできない。万が一、シェルターに逃れたとして、その爆弾で死ななかったとしても、いつまで、地上を放射能が支配しているか分からない。
 地上では、まず、誰も生きていないことは間違いない。下手をすると、突然変異で、巨大な虫や、動物による、
「野生の世界」
 と化しているかも知れない。
「生き残ったことが、地獄なのではないか?」
 という後悔をすることだろう。
 映画なんかでは、サバイバル生活をしてでも生き延びようとするのだろうが、人間に果たしてできるだろうか。
「生き続けなければいけない」
 などという発想は、普通ではありえない。
 考えられることは、
「あの時、皆と一緒に死んでいた方がよかった」
 ということになるかも知れない。
 今回の事件の特徴は、まず、
「脅迫をすることで、相手に警戒させて、そこからミスリードさせる」
 ということだった。
 脅迫を受けた方は、実際にビビってしまって、普段と同じことをしているつもりでも、そこに怯えが入ると、さらに注意しようとして、ちょっとした機転が利かなくなる。しかも犯人は、警察にも脅迫を掛けているので、警察からの圧力もあり、気の弱い人は、すっかり委縮することだろう。
 犯人は、浄水場に、
「水に入れると、膨れ上がる」
 という毒を仕込んだ。
 しかも、その毒は、
「口に入れれば、もちろんのこと、即死するような猛毒であるが、身体に触れただけでも、死に至る可能性のあるもの」
 だったのだ。
 実際に、その毒物を、少なくなった貯水タンクに入れることで、毒が膨れて、溢れてくるということが起こった。
 それに触れた作業員の一人が苦しみだし、救急車で搬送され、緊急手術を受けることで、命が助かった。
 偶然というべきか、解毒剤が病院にあったのだ。
 というべきが、
「偶然など、この場合にあるものなのだろうか?」
 しかし、この病院だけではなく、他の病院にも、解毒剤は届いていた。
「こんな図ったような偶然ってあるんでしょうかね?」
 と、警察だけではなく、水道局の人間も驚いていた。
 しかし、相手も、まさか本当に脅迫が、現実になるとは思っていなかったことで、自粛してしまったのか、それ以降、しばらく犯人から音沙汰がなかった。
 毒物は警察に押収され、当然のごとく、隔離され、科捜研によって、念入りに調査された。
「確かに最近出てきた毒薬の一種ですね。でも、その解毒剤も、脅威のスピードで開発されたんです。まるで、毒薬を開発した人と同じように、その特性を最初から熟知していたのではないかと思えるくらいにですね」
 というのが、科捜研の話だった。
「まさか同じ人物によるものとは思えないけど、解毒剤を開発した人も、この毒薬に興味があったんでしょうね。そして、近い将来において、開発されるかのようなですね。だからこそ、脅威のスピードで開発できたのかも知れない」
 と、さらに科捜研の人が話を続けていた。
 そして、科捜研の人が少し、気になることを言っていた。
「実はですね。今回のこの毒薬ですね。これを所持していた人がいたんですよ」
 という重大な話が飛び出した。
「どういうことですか?」
 と聞くと、
「この間、F城のお濠のところで、死体が発見されたでしょう? あの死体となった人物が所持していたものが、今回の毒薬と酷似していたんですよ。というか、開発途上のものだったといってもいいでしょう」
 という衝撃的な内容だった。
「ほう、それで?」
「実は我々も、その毒薬のウワサは聞いたことがあったので、その解毒方法も、少しは分かっていたんです。何よりも、弱点が分かっていましたからね」
「弱点? そんなものがあるんですか?」
 と三浦刑事が聞くと、
「そりゃあ、どんな無敵に見えるものにも弱点はあるもの。むしろ、無敵なものほど、防御は甘いのかも知れませんね」
 という。
「これは一つ言えることなんですが、今回のあの毒薬を、今回研究していることで、その正体が少しずつ分かってきました。あの物体は、ある植物をその元として、作られたものだったんです」
「それは一体どういうものですか?」
 と三浦刑事が聞くと、
「蓮の葉のような植物の葉から摂取することができるんですよ」
 というではないか。
「ハッ」
 ここで、やっと三浦刑事も頭の中が繋がった。
「なるほど、あそこであの男が死んだのは、組織に暗殺されたということなのだろうか?」
 と考えていると、
「それは何とも言えませんが、もう一つ分かったこととして、あの毒は、火に弱いということなんですよ」
 というではないか。
「じゃあ、燃やしてしまえばいいということですか?」
 ときくと、
「本当はそうなんですが、それになかなか気づかないんですよ。何しろ、毒を含んだ蓮の葉というものは、燃やしたからといって、燃え尽きたりは決してしません。だから、一見、燃えない植物として、火には強いと思えるんですが、実際には、火による二酸化炭素によって、植物の特性は失われるんです、見た目は別状なくても、生身は死んでしまっている。あの毒の側面にはそういうものも含まれていた。つまり、あの毒草には、膨れ上がり、接触だけでも、死に至るというものがある反面、弱点を突かれても、実際には死んでおらず、一種の仮死状態から、いずれ蘇ってくるという、ステルス的な要素が含まれているという恐ろしさですね。片方はステルスなのだから、まさか、そんな恐ろしい植物だとは思わない。あの男がどうして、あの毒を持っていたのかまでは分かりませんが、大きな組織が動いていて、彼は結果的に犠牲者だったのではないかと思えるんですよ。あくまでも、私の勝手な推理ですが、科学的な分析に間違いはありません。検証結果として、近いうちに発表いたしますよ」
 と科捜研の方でそう思っているようだ。
「じゃあ、早いとこ、犯人グループの検挙が必要ですね?」
 という。
「実は一つ気になることがあるんですが」
 と科捜研は言った。
「これは、あるルートから入手したものだったのですが、あの死体が発見される少し前、被害者が、重要文化財である城門のところでタバコを吸っている姿が発見されたんですよ」
 という。
「それがどうかしたんですか?」
 と聞くと、
「あの男は、毒を所持していることで、すでに、毒素を身体に充満させているわけですよ。そんな人間が、表とはいえ、タバコに火をつけるなど、正直自殺行為です。男はその時幸いにも何もなかったですが、わざとあんなところで火をつけるというのは、本当に自殺しようと思ったのかも知れないですね」
「でも、どうしてしなないんですか?」
 と聞くと、
「さっきも言ったように、火がついても、外見上は、変わりがないというのが、あの毒の特徴ですからね。本当に市布であれば、毒にするために、水で膨れさせてからでないといけないと気づいたんでしょう。だからあの男は、青酸カリを服用して、さらに毒を持って、一緒にお濠で入水した。彼の目的は、蓮の全滅にあったんじゃないでしょうか?」
 ということであった。
「蓮の葉を立った一人で全滅させることはできないだろうに」
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次