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一毒二役

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 と三浦刑事がいうと、
「それはその通りです。もちろん、男もそんなことは百も承知だと思います。自分一人で何ができるのかということでしょうね。だけど、彼は、もうこの世に未練などなかったのかも知れない。最後に何か、爪痕を残そうとして、あのような、デスペラードな行動に出たのかも知れない。ただ、それが彼の覚悟なのか、今までの何か自分としての罪滅ぼしの気持ちなのかですね。でも、その彼のおかげで、こちらも解毒には何とかなりそうだと思うんです。今回毒に触れてしまった人には気の毒だったですが、命も助かり、これからリハビリは必要で、実際に前のようになれるかどうかは、今のところ、五分五分というところでしょうかね?」
 というのだった。
 それから、三浦刑事を中心に捜査が行われ、お濠に浮かんでいた男の身元も判明した。そこから、組織も自然と浮かび上がってきて、
「元々、いろいろな犯罪に手を染めている、集団で、やくざというところまではいかないが、とても危険で過激な集団という認識は、公安部の方でも持っていた」
 というところであった。
 近い将来、やつらを一網打尽にできるような証拠を持っているのだが、
「もう少し泳がせておこう」
 ということだったのだが、ここまで犠牲者や、毒の被害者が出てしまうと、そうもいっていられない。
 今回の事件も、緘口令によって、世間に漏れないようにしているが、いつまでできるかということになると保証はなかった。
 何といっても、今回の事件は、毒に纏わることと、それを扱う組織との問題だったのだ。
 ただ、一つの毒で、まったく違った二つの面を持っているというのは、衝撃的な事実だった。
 ものによっては、
「毒を持って毒を制する」
 というような、毒である反面、解毒剤となるものもあったであろう。
 しかし、この毒は、どちらを取っても毒であり、その威力はかなりのものなのだったのだ。
 それを思うと、濠に浮かんだあの男は、
「自殺だったんだろうな?」
 としか思えなかった。
 ただ、本当に世の中すべてに失望しての自殺だったのかどうか分からない。未練はあったのかも知れないが、追い詰められていれば、その未練も、意識がないのかも知れない。
 そんなことを考えていると、
「あの男にも、今回の毒薬のように、正反対の面があったのかも知れないな」
 と三浦刑事は考えたのだ。
 何にしても、彼の自殺は、この毒の正体をこの世に知らしめるには十分だった。そういう意味では彼の死は、ムダなことでは決してなかったことだろう。
 城門の前でタバコを吸うなどというのは、本当に非常識であったが、ああでもしないと、毒を世間に知らしめることはできなかったと感じたのだろう。
「あの男は、毒が開発されたことで、自分なりに、この世への未練を断ち切ったのかも知れないな」
 と、三浦刑事は考えた。
「そう、あの男のような状態になれば、誰もが、この世がどっちにいっても、先が見えていると思うのだろうが、自分なら、どうするだろう? ということを考えると、果たして彼のように、一刀両断で自殺、さらに、自殺のやり方を真剣に考えたりするだろうか?」
 と、三浦刑事は考え、死んでいった男が、自分たち生きている人間のための礎になってくれていることを知ることもなく、本当のバカなやつはいるもので、誰も見てないのをいいことに、その日も、F城の御門の下で、タバコに火をつけているやつがいるのだった……。

                 (  完  )
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作品名:一毒二役 作家名:森本晃次