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一毒二役

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 というのは、いわゆる、
「張作霖爆殺事件」
 と呼ばれるものであった。
 当時の中国は、国民党、共産党、北伐と三つ巴の内乱の時期だった。それぞれに列強がついて支援していたが、北伐には、日本軍が支援をしていた。
 その北伐の最高権力者が、当時、
「張作霖」
 だったというわけだ。
 張作霖というのは、そのうちに、今まで支援してくれていた関東軍に胡散臭さを感じたのか、
「反日」
 というものを、鮮明に打ち出すようになっているのだった。
 特にあからさまに、日本に対して敵対してきて、
「日本が統治する満州鉄道に併設した鉄道を建設し、あからさまに、日本をけん制してきたり、各所で、暗殺事件や誘拐事件といった、治安を乱す行為を起こすようになってきたのだ」
 そんな満州の治安を回復するという目的を持ってか、
「張作霖の暗殺」
 というものが、浮上してきた。
 そこで、関東軍の主導において、政府や、陸軍本部の許可なく、爆殺事件を引き起こしたというわけだ。
 もちろん、政府は軍の動きを把握することも、作戦に口を出すこともできないので、どうすることもできず、ただ、首相は、その事件が発生したという既成事実だけを、上奏して、天皇に報告することだけしかできないのであった。
 だから天皇は上奏してきた田中首相い対し、
「どうなっているんだ?」
 と訊ねると、
「ただいま、調査を行っておりますので、もし我が国の軍が行ったことであれば、首謀者の追及などを行ってまいりたいと思う」
 と答えたにも関わらず、数日後、さらに参内して天皇に上奏した時、
「事件の経過はどうなっている」
 と言われ、首相は、まだ把握できていないというようなことを、いかにもけむに巻くかのような表現でごまかそうとしているのに対し、苛立ちを覚えた天皇が、
「お前の言っていることはさっぱりわからん」
 といって、錨をあらわにしたのだった。
 そこで、首相は責任を感じ、近日中に、内閣を、
「総辞職」
 したのであった。
 これを知った天皇は、後悔したという。
「天皇は、政治に口を出してはいけない」
 という公然の秘密が第二歩帝国にはあり、それを曲げてしまったということでの後悔だった。
 しかし、逆に軍部のことであれば、天皇は、
「自ら指揮を執る」
 と言い出したことがあった。
 それが、
「226事件」
 であった。
「張作霖爆殺事件」からの6年後に起こった事件で、言われていることとしては、
「天皇の側近として君臨している、特権階級の連中が、甘い汁を吸っているから、貧富の差がはげしくなる」
「昭和維新」
 というスローガンで立ち上がった青年将校によるクーデターだと言われているが、実をいうと、
「陸軍内の、派閥争い」
 というのが、本当のところだった。
 天皇はそのことを分かっているようで、しかも、クーデターによって暗殺された人たちは、皆自分に助言をしてくれる大切な人たちだと天皇は思っていたのに、それを、派閥争いというくだらないことで暗殺されてしまっては、天皇とすれば、自分に対しての反乱だと思ったのだろう。
 陸軍内部でも、同情的な意見が多かった中で、天皇の立腹はかなりのもので、
「お前たちがしないのなら、自分が軍を率いて、鎮圧する」
 とまで言わせたのだ。
 それを聴いて、さすがに軍も、
「まずい」
 と思ったのか、決起軍を、
「反乱軍」
 として、鎮圧することにしたのだ。
 天皇をここまで怒らせたことで、投降してきた青年将校だったが、自決しなかったのは、
「裁判で明らかにしよう」
 と思っていたのだろうが、実際には、
「弁護人なし、非公開、当然、上告、控訴などもない、全員死刑」
 ということで、結審したのだった。
 軍隊は、天皇直轄、つまりは、
「天皇に与えられた統帥権」
 というものに含まれるのである。
 だから、大日本帝国が戦争をする時、天皇の名前で宣戦布告を行い、
「宣戦布告の詔」
 の中では、
「陸海軍は、戦争目的に対して、その遂行に邁進するべき」
 という旨の文章がついているのだ。
 ちなみに、
「宣戦布告の詔」
 というのは、対外的な意味というのではなく、自国民に対し、
「天皇が、どういう理由で戦争に踏み込み、何を目的にしているか。そして、その目的完遂に対し、国民が一致団結する」
 ということを呼びかけるものなのである。
 一度天皇が、当時の参謀総長に、
「今度の戦争はどうなっている? 米英蘭と戦争を行って勝てる見込みはあるのか?」
 と聞いた時、
「3カ月で掌握できると思います」
 と参謀総長は答えた。
「だが、中国での戦線では、苦戦しておりではないか?」
 と聞かれたが、当時は、シナ事変が佳境であり、奥地へと誘い込まれているところで、中国と戦闘状態になってから、3年が経っていた。
「中国は、奥が深いので」
 という言い訳をしたとたん、天皇は怒り、
「お前は何を言っているんだ。太平洋は中国よりもよほど広いではないか」
 といって、罵声を浴びせたという。
「3年もかかって中国を屈服させられないのに、3カ月で太平洋を掌握など、どこからそんな出まかせが出てくるというのか?」
 と言いたかったのだろう。
 さすがに参謀総長は何も言えなくなってしまったようで、これが、日本陸軍の最高位、つまり、天皇の次の会社で言えば、
「社長職」
 に相当する人の言葉なのだ。
 どうすればいいというのだろう。
「悪の秘密結社」
 が今回の犯罪を企んだのかどうか分からないが、一つの問題として、
「毒の種類」
 を示さなかったのは、一つの作戦だったようだ。
 一つの問題として、浄水場に、今回、
「新たな製品ができたので、持ち込まれた」
 という情報が回ってきたのだ。
「この情報を疑えば、信じられるものは何もない」
 というほど、信憑性のないものは何もない。
 ということであった。
 この計画のために、相手を信じ込ませようと、長年、問題なくやってきたことが、今回の事件のためだけの作戦だったということは、よほどの恨みがあったのか、それほどの厳しさであったことを、誰が分かっているのだろう。
 昔の探偵小説にて、特に戦前くらいのものには、
「俺は、この復讐に人生を賭けているんだ」
 などというセリフが出てきたりしている。
 その復讐も、
「執念」
 という言葉で彩られ、
「生まれたばかりの赤ん坊を取り換える」
 などという、信じられないことをするのだ。
 普通に考えれば、機械トリックやアリバイトリックのような、頭を使ったり、少し派手めなトリックではないために、地味ということで、そのトリックを示されても、
「これの何が面白いんだ?」
 と考えることだろう。
 しかし、実際には、その復讐を行うのが、子供の世代ということもあり、さらにそこから孫の代に至るまでの、
「子々孫々で、祟る」
 という、永遠のループに、ゾッとしたものを感じるのであった。
 特に、戦前においても、探偵小説、黎明期と呼ばれる時代においては、
「少々の辻褄が合わないことでも、時代ということで、許されるともいえただろう」
 つまり、今の時代は、トリックもほとんど、仕えないほどに、科学技術が発達してしまい、
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次