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一毒二役

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「ええ、おっしゃる通りです。こう何度もあると、次第に相手が悪戯で、その目的は、自分たちの脅迫によって、市の職員が慌てふためくのを見たかった」
 ということかも知れないことを、刑事は話した。
 職員も、
「そうです。まさにその通りだという意識もあって、下手に慌てないようにしたんです」
 というと、
「なるほど、皆さんは、愉快犯だと考えたわけですね?」
 と刑事がいうと、
「ええ、そうなんです。下手に慌てると、相手の思うつぼだってですね。だから、職員には慌てないようにさせ、ここに掛かってくる電話のことは、本当に一部の人しか知らない状態で、いたんです」
 というではないか。
 それを聞いた刑事たちは、少し苦み走った状態で、
「皆さんは、オオカミ少年の話をご存じないんですか?」
 と聞かれると、
「もちろん、知ってます。それも考えてみました。でもですね。相手は最初に一度脅迫しては来るんですが、その見返りを何も求めないんです。見返りを求めてくれば、手の打ちようもあるんでしょうが、見返りがない以上、悪戯だと思っても仕方がないでしょう? 変に慌てて、仕事に集中できなかったりするのも、悔しいですからね。だから、職員のほとんどが、過去に脅迫があったということは知らないんじゃないでしょうか?」
 と言っていた。
 実は、この後、職員にも聞き込みをしてみた。
「実際に、警察にも同じ内容の脅迫があったので、皆さんだけの問題ではないので、職員には、過去に脅迫があったということを、時と場合によっては言いますが、構いませんよね?」
 と言われた。
「それは仕方のないことでしょうね」
 と、半分他人事だった。
 職員が苦み走った顔をしたのは、
「これで、職員たちからの信用を失うかも知れないな」
 ということが一番の危惧だった。
 この職場は比較的、上司と部下がうまく行っているところのようであった。
 それは、
「刑事の勘」
 というもので、雰囲気から察することもできた。
 しかし、それが、ちょっとした亀裂であっても、大きなひびが一瞬にして入るのではないかと職員は思ったのだった。
 職員に聞き込みに行くと、意外な答えが書いていた。
「ああ、脅迫事件ですね」
 といって、やけに落ち着いていた。
「どうして、そんなに冷静でいられるんですか?」
 と聞くと、
「職員は皆少々のことは知ってますよ、上の連中は知らないとでも思っているのかも知れないけど、こういうウワサというのは、本当に小さな穴でも、開いていれば一瞬にして、伝わるもので、それこそ、ウワサというものなんですよね」
 と知ったかぶりに近い様子で、比較的若いその職員は、ニンマリとしていたものだったのだ。
「上の連中は、取り越し苦労をしていたわけか」
 と刑事は思ったが、
「それだけに、職員の考え方が、本当に役所仕事を思わせることなんだろうな」
 と妙な納得をしたのだった。
 その納得ということが、どこか、警察の組織に似ていると思うと、刑事の立場から、顔が苦み走った気持ちになるのも、分からなくもなかった。
「部下の気持ちも分かるし、上司の気持ちも分かる」
 ということであった。
 本当はそれがいけないという思いがあるからこそ、顔が余計に苦み走ってしまうのであろう。
「脅迫の録音を聴いた時、ボイスチェンジャーではあったが、言葉のくせなどから、犯人は、同一犯ではないかと思いますね」
 と、警察に掛かってきた脅迫電話を聴いた刑事がそういった。
 すると、他の刑事たちも一様に頷いたが、驚愕電話だと思った瞬間、録音と同時に、受話器を、スピーカーにしたのだった。
「今までに、このような脅迫電話はどれくらいあったんですか?」
 と聞かれた職員は、
「分かっている限るでは、5回くらいでしょうか? 昨年の年末くらいから、2カ月に一度くらいに掛かってきた脅迫電話だったんですよ」
 というので、
「2カ月に一度というのは、図ったようにという言葉で解釈してもいいんでしょうか?」
 と訊ねると、職員は、一度頷いて、
「ごっくん」
 と喉を鳴らして、
「ええ、そうです」
 と答えた。
 職員は、冷静さを装っているが、さぞや喉の奥はカラカラに乾いていることだろう。
 それを察した刑事は、少し質問をタイミングを開けた。
「それにしても、2カ月に一度とか、異常ではあるが、結局何も起こらないということは、やっぱり、相手が慌てているのを見て楽しむという愉快犯なんでしょうが、実際には緘口令をしいて、誰も、表に出すようなことはしないだろうな」
 と刑事は思った。
「でも、本当に愉快犯なんでしょうかね? 私は、2カ月に一度というのが何か気になるんですよ。それ以下だと、警察に通報されるだろうし、それ以上だと、本当に信憑性のない話として、悪戯と思われて、相手にもされないというようなことになりかねませんよね?」
 と若い刑事は言った。
 そう、そうなのだ。問題はそこだったのだ。
 犯人は、脅迫の感覚が長くても短くても、信憑性にかけ、まったく相手にされないことが分かっているのではないかと思えた。
 そして、そろそろ一年が経つというこのタイミングで、脅迫というのも、
「次の段階に入った」
 ということになるのだろう。
「一体、犯人は何がしたいというのだろう?」
 ということを思うと、警察の方も、それが分からないだけに、
「下手に動けない」
 というのが、本音だったといってもいいだろう。
 そんなことを考えていると、刑事は、警察に掛かってきた電話のことを思い出していた。
 ただの脅迫電話だと思っていたが、何やら、少し違うというのを感じたのが、
「上水道に毒薬をぶちまける」
 という、完全に、
「無差別な大量虐殺」
 であり、もし、これが現実になると、そこに見えてくる犯人像は、
「テロリスト集団」
 ということだということである。
 かつて、今から四半世紀前のことであったが、ある新興宗教の団体が、組織ぐるみで毒ガスを作り、それを地下鉄内部でぶちまけたことがあった。
 それを、警察は、
「テロリストによる犯行」
 と位置付けて、捜査が行われた。
 国会の方でも、
「テロ防止法」
 などというものが制定され、
「我が国は、本格的なテロ対策を講じる国にならなければいけない」
 と言われ始めた。
 幸いなことに、あの時ほどの凶悪な、大量殺戮事件は起こっていない。
 さらに、
「毒を仕込む」
 ということであれば、昭和の頃に起こった、
「青酸カリ入りチョコ事件」
 というのがあった。
「ある会社の製品に毒を仕込んだ」
 ということで調べていると、いくつかの製品から、本当に青酸カリが発見され、
「陳列台からチョコが消えた」
 という事件もあった。
 それが今から20年くらい前だっただろうか?
 さらに、そこから二十年くらい前になるだろうか?
 その事件は、国内でも、いよいよアメリカから、コーラというものが入ってきた時に起こった事件だった。
 その事件では、青酸カリが入ったコーラを飲んで、死んでしまう人がいたということで、その後に起こった、
「青酸カリチョコ事件」
 よりも、衝撃的だっただろう。
 実際に人が死んでしまうと、こうなると、
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次