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一毒二役

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 と思うようになるのだった。
 ある人の言葉で、
「悩むとは、物事を複雑にすることであり、考えるとは、物事をシンプルにすること」
 と言われているという。
 なるほど、
「ものは考えよう」
 であり、考え方としては、
「ポジティブシンキング」
 ということになるのであろう。
 シンプルに考えることは、ある意味、人間の本質であり、難しく考えると、それがこんがらがってくるというのは、まさに、そういうことになるのだろう。
 この男は、きっと、
「すべてを難しく考えるのだろう」
 と思った。
 考えすぎて、ループから抜け出せない。それが、先に進めない一番の原因なのだ。
 先輩に逆らっても、どうしようもないということに気づかない。
 それは、考えすぎて、ループしてしまい、それを悩みだと思うからなのかも知れない。
 人によっては、
「悩むということと、考えるということを同じものだ」
 と思っているのかも知れない。
 確かに、悩むことは考えているから悩むと思えるし、考えることは、悩みからの派生に見えるからだともいえるだろう。
 悩むということは、
「俺は考えているんだぞ」
 ということをまわりに示すための、
「ポーズ」
 だといえるのではないだろうか?
 悩んでいると、考えているように見えるのは、その格好にもよるのかも知れない。
 たとえば、ロダンという人の、
「考える人」
 という彫刻があるではないか。
 あれを見て、
「この人は何をしている人なんでしょう?」
 と聞かれた時、知らない人だったら、何と答えるだろうか?
 果たして、
「考える人」
 皆思うだろうか?
 むしろ、
「悩んでいる人」
 という答えが返ってくるのが、普通ではないだろうか?
 確かに、手のひらの甲を顎に当てて、前屈みで、背筋を丸めている姿を見ると、
「考えているというよりも、悩んでいるという姿に見えるといっても過言ではない」
 と言えるであろう。
 物事を考えるということと、悩むということは、一見して、格好としては、
「同じに見える」
 といってもいいかも知れないが、
「これは考える人だ」
 と言われるから、皆がそう思い込むだけなのかも知れない。
 仕事を辞めてしまった息子は、しばらくしてから、失踪したようだ。
「二度目の家出」
 といったところであるが、さすがに前の時、戻ってきたのが、
「空き巣事件の犯人」
 としての最悪の形での帰還だっただけに、今度は、捜索願を出しておいた。
 といっても、夫婦としても、
「警察が動いてくれるわけがない」
 ということは百も承知であろう。
 しかし、一応、
「前科者の失踪」
 ということで、事件性はないかも知れないが、帰還してきた時が、空き巣だったということを考えれば、まったく無視ということもないだろうと、夫婦は思ったのだ。
 とはいえ、どのような形であれ、いなくなったのが、息子だというのは、心配しないわけにはいかない。それでも。過度な心配をしていれば、自分たちの身体を壊すことになるので、なるべく気にしないようにしていた。
 そのあたりは、最初に喧嘩して家を出た時と同じであった。
 今回の、お濠に浮かんだ男が発見される2年前の出来事であった。
 死体が発見されてから、自殺、事件の可能性から捜査が行われた。遺書が残っている以上、事故ということはありえない。しかも、服毒していたのだから、ただの事故ということは、本当に考えられないだろう。
 鑑識の結果、服毒したのは、青酸カリで、
「苦しみながら、濠に落ちたのではないか?」
 ということであったが、そこもハッキリとしない。
 そもそも、被害者が、
「なぜあの場所で毒が回ったのか?」
 ということである。
 自殺であったにしても、殺しであったとしても、
「なぜ、城址公園のお濠なのか?」
 そこに、一つの事件の謎があるのだと思っていた。
 その死体が発見されて2週間くらいが経った頃であろうか? 警察に、一本の電話がかかってきた。その内容というのが、
「浄水場に毒薬をぶちまける」
 ということであった。
 同じ内容の脅迫が、市の水道局の方にあり、水道局の方では、警察に通報しようか、迷っていたところだったという。
 彼らが脅迫を受けたのは、2日前であり、最初に掛かってきた電話というのは、
「我々は、毒薬を浄水場にぶちまけるという計画がある」
 というのだ。
「どういうことだ。そんなことをすれば、大量無差別殺人になるんだぞ」
 というと、それを聞いた職員たちは一斉に電話を掛けている職員の方を振り向き、さっと緊張が走った。
 職員のほぼ全員の顔は青ざめていて、
「何やら、状況は最悪の方へ向かっている」
 ということを、ほぼ同時に、瞬時にして、皆気づいたようだった。
 電話口の男は、その状況を分かってか分からずか、ほくそえんでいるように思えてならなかった。
 そもそも、電話の相手が男なのか女なのか分からない。相手はボイスチェンジャーをかましていて、聞こえないのだ。
 この電話の内容は、すべてが録音されるわけではなく、録音が必要だと思った時だけ、手動で録音する形になっている。
 したがって、最初の肝心の脅迫部分を録音することはできなかったが、それを知ってか知らずか、相手は。もう一度、しかも、一言一句変わることなく、同じ言葉を吐いたのだった。
 警察がやってきて、録音を聴いた時、
「このタイミングで脅迫を入れるというのはおかしいですね」
 と刑事がいうと、
「ああ、これは、相手が二度目に発した脅迫だったんです。この録音は、児童で行われるものではなく、録音が必要だと思った時、手動で録音するようになっているんです。もちろん、プライバシー保護の観点からですが、そのせいで、肝心の脅迫部分の録音ができなかった。残念だと思っていると、相手が、それを見透かしたように、再度、脅迫を仕掛けてきたというわけなんですよ」
 と水道局の役員は言った。
「もちろんだとは思いますが、このような脅迫を受けたこと、今までにはなかったんですよね?」
 と刑事が聞いた。
 それは、今回のように、2日も経っているのに、警察に通報もしないということは、
「悪戯だ」
 と思っているのか、それとも、
「相手が見返りの条件をつけてくるのを待っているのか?」
 という、
「これだけでは悪戯かも知れない」
 という思いから、すぐに警察に通報するということをしなかったのだろう。
 いや、刑事が考えたのは、それよりも、
「今までに何度か同じような脅迫があり、脅迫があるだけで、実際に何もなかったというのが続いていることで、次第に、狂言だと思うようになった」
 とも考えられなくもない。
 刑事は、そう考えたのだ。
 職員の方では、さらに戸惑っていたが、それを見越した刑事が、
「あったんですね? ただ、今まではそれが、本当に悪戯だったということで、今回も、悪戯に違いないと思ったんでしょうな。だから、警察が来た時は、本当にびっくりした。寝耳に水状態だったのが、急に現実味を帯びてきたということでしょうね」
 と刑事がいうと、職員は、それぞれに顔を見合わせて、
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次