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一毒二役

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 ということになるのかも知れない。
 父親の方としては、その思いを強く抱いていた。だから、こうなることは分かっていたと思っている。
「もう、どうしようもない」
 と思いながらも、それでも、
「どうすれば、改心するだろうか?」
 と考えるのであった。
 だから、通帳がなくなっているのを見た時、母親は、この世の終わりを見たかのように、気を失ってしまったが、父親は、
「来るべき時がきたか」
 ということで、
「遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた」
 と思っているのだった。
 銀行には手配をして、
「もし、息子が来て、多分、自分の金だとかいうでしょうが、容赦なく、警察を呼んでください」
 というのだった、
 そして、
「私は銀行には顔を出しませんので、事実関係だけご連絡ください。事情は警察から来るでしょうからね」
 と父親は言った。
 そして、まさにその通りになったというわけである。
 父親からすれば、
「しょせん、ただのチンピラに成り下がっただけの息子」
 としか思っていなかった。
 父親がここまで、非情になれるというのも、この父親も、極端な、
「勧善懲悪な人間だった」
 ということである。
 息子が警察に連れてこられた時、ちょうど、刑事になりたてだったことであった三浦刑事は、まだ、捜査一課ではなく、防犯課に当時は勤務していた。
 最初は、
「捜査一課ではないのか?」
 と思ったが、勧善懲悪を守るというのであれば、何も一課でなければいけないわけではない、
 むしろ、社会生活に直轄しているということであれば、防犯課であっても、少年課であっても、そこは変わりないということである。
「やっぱり、刑事ドラマの見過ぎなんだろうか?」
 と思うのだった。
 そんな時に、目の前に鎮座しているこの息子に、三浦刑事は、
「勧善懲悪の影も形も感じられない」
 と思うと、すぐに思ったのが、
「親の顔が見てみたい」
 という感覚であった。
 確かに、
「この親にしてこの子。この子にしてこの親」
 というのはいえるのだろうが、ここまで腐っているのを見ると、
「もはや、親の性だということを超越しているように思う」
 ということであった。
 そう思っていると、警察からの呼び出しで、男の親、つまりは、被害者が駆けつけてきた。
 すぐに面会というわけではなく、まずは被害者として、息子であるという確認をマジックミラーから面通しさせたのだ。
「別にいきなり会わせてもいいのではないか?」
 と思ったが、
「二人の関係が、親子であるということと同時に、被疑者と被害者であるということも理解しておかないといけないぞ」
 と先輩に言われ、
「なるほど」
 と、三浦刑事は感じたのだった。
「間違いありません」
 と言った父親のその表情は、もはや息子を見る目ではなく、凝視知った先にいる男に対し、何らかの意地と覚悟のようなものを感じるかのように見えることだった。
「覚悟というものを持てるようになった人間は、自分だけのことだけでなく、相手のことも分かっているので、全体を見ることができる人間ではないかと思うんだ」
 と言っていた人がいたが、
「まさにその通りかも知れない」
 と感じたのが、その時の、
「父が子供を、被疑者として見なければいけない」
 という覚悟なのだろうと、感じるからであった。
「親子関係も、えてして、ここまで厳しいものなんだな」
 と、三浦刑事は、いまさらながらに感じたのだった。
 親は、
「泣いて馬謖を斬る」
 とでもいうような感覚だったのだろうか、それとも、
「千尋の谷から子供を突き落とす、親の気持ち」
 だったのだろうか、子供に、覚悟のようなものを見せなければいけないと思っていたのかも知れない。
 そのうちに、裁判も進んでいき、結局は、情状酌量から、刑としては、罰金刑くらいに収まったのだった。
 ただ、
「親が子供に示した覚悟」
 というものの存在が大きかったということは確かで、それだけがこの裁判において、重要なことだったようであった。

                 脅迫事件

 裁判が終わってから、罰金も払い、結果、この事件は落着したことになった。
 息子は家に帰り、結局借金は、父親が立て替え、少しずつでも、親に返していくということで決着がついたのだ。
 仕事も父親の紹介で就職が決まり、ここまでであれば、完全に、
「ハッピーエンド」
 だといってもいいだろう。
 しかし、世の中、そんなにうまくいくものではない。
 一度、踏み外した人生、そう簡単に建て直すことはできないもののようで、どうしても、一度狂った方に、自然と流れていくようになっているようであった。
 まず、せっかく決まった仕事だったのに、対人関係でうまくいかずにすぐに辞めてしまった。
 理由は些細なことだったにも関わらず、息子は決して謝ろうとはしない。
 どちらかが、少しでも折れればまとまっていたものを、
 相手は、
「何だ、あの生意気な態度は。先輩を先輩と思っていないではないか?」
 と思っていた。
 普通は確かにそうであるが、息子の方とすれば、
「せっかく、仕事をしてやっているのに、教えてやっているという上から目線の態度は何なのだ」
 と思っているようだ。
 そうなってしまっては、決して交わることはない。どんどん差が広まっていって、それこそ、
「その開きが徐々であるほど、地球を一周しないといけないのだから、まず生きているうちに交わることなどあるわけもない」
 というわけである。
 一度拗れてしまうと、難しかった。
 実は先輩社員も、以前に、
「粗相をして、一度人生を踏み外しかけた」
 という男なので、一度人生を踏み外した人間の気持ちは分かるのだ。
 だから、意地を張っているというのも分かるし、その気持ちを、
「こっちが分かっているのに、なぜ、お前たちは分からないのか?」
 と、自分が立ち直った時のことを思い出すと、それが腹立たしいのだ。
 そう思ってしまうと、何もできなくなり、相手が逆らう理由も分かるだけに、
「下手に意地を張っては、生きていけない」
 ということが分かるのだった。
 そんな先輩に逆らうのは、先輩とすれば、
「数年前の自分を見ているようだ」
 と思うので、どうしても、相手に逆らえなくなる。
 しかし、実際には、
「相手に流されてはいけない」
 ということである。
 自分がしっかり受け止めなければ、その力を逃がすことはできず、うまく教えることなど、できるはずもないだろう。
 どうしても、一度、人に気を遣うということをしなければ、それを忘れてしまったとでもいえばいいのか、決して、二度と人に気を遣うようなことはしなくなる。
 できないといってもいいだろう。
 トラウマのような形になるのであって、特に最初に先輩ともめてしまうと、収拾がつかなくなる。
 もう、そうなると、辞めるのも時間の問題だった。
 そのうちに、
「俺が頭を下げて、入れてくれと頼んだわけではない」
 と思うのだ。
 自分がなぜ、ここにいるかということを忘れてしまい、すべてを人のせいにするようになってしまうと、
「悪いことがあれば、それはすべてが、人のせいだ」
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次