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一毒二役

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「このままだったら、俺は間違いなく、命を落とすことになるだろう」
 と言えるのではないだろうか?
 家を出てから、数年。自分がどこで何をしていたのか、自慢できないまでも、普通に言えるようなことをしていたわけではないだろう。
 確かに、生きるためということで、少々危険なこともしてきた。底辺にのたうち回っているかのような生活だったといってもいいだろう。
「ギャンブルが癒してくれる」
 という思いも、本当にのめりこむ前からあった。
 だからこそ、のめり込んでいった時も、
「別に悪いことだというよりも、むしろ、気分転換になるという意味で、パチンコも悪いことではない」
 と思っていたのだ。
 それが、あさかのめり込むことになって、二進も三進も行かなくなるとは、想像もしていなかったことだろう。
 そんなこんなで、結局、
「一番安直な方法で、苦しみから逃れる」
 という道を選んでしまったのだ。
「自分の家に空き巣に入る」
 いや、味方によっては、
「実家に帰って、忘れ物を取りに行く」
 という感覚であろうか。
 カギも変えておらず、通帳も同じ場所にあるということは、
「息子が戻ってきたら、息子が使うのであれば、それもいいだろう」
 ということだと解釈したのだ。
 確かに、そう解釈すると、一発で解決することもあり、罪悪感も薄れてくる。
 一度薄れてきた罪悪感が、元に戻るということはほとんどない。それだけ、自分が年を取ってきたということであろうか。
 そんなことを考えていると、いつの間にか家に入っていて、普通にタンスから通帳とハンコを抜いていた。
 そして、そのまま、普通に通帳からお金をおろした。
「もし、何か言われても、自分の運転免許証を示し、本人ですと言えば、それ以上何かを言われることはないはずだ」
 と考えた。
 ただ、両親が気づいて、銀行を止めていれば、ダメだろう。印鑑はこっちにあっても、向こうは、
「こちらが知らない暗証番号」
 と知っているのだから、それは当然、止めることができるだろう。
 もし、そうなると、即行警察に連行されるに違いない。覚悟のうえでの強硬だった。
 幸いと言うべきか、止まってはいなかった。
 怪しまれることもなく、普通にお金をおろすことができたが、さすがに、一気に下ろすと、怪しまれると思ったので、最初は、100万ということにした。
 それでも、借金には、程遠かったが、
「今日は様子見で、明日、もう一度くればいい」
 と思った。
 一度うまくいったことで、
「次からも大丈夫だろう」
 という考えが、果たして甘くないといえるだろうか?
 実際に下ろしてみると、下ろせたのだから、
「今後も大丈夫だ」
 と思い込むのは無理もないことだろう。
 しかし、次回、下ろしにいくと、すでに、口座は止まっていた。案の定、銀行側から質問を受け、息子としては、最初に考えていたように、身分証明と印鑑を提示したが、
「それは、盗んだものではないんですか?」
 と言われると、
「いいえ、自分の家から自分名義の通帳を持って出たことの何が悪いんですか?」
 というと、
「あなたは、この通帳の暗証番号をご存じなかった。ということは、これは、あなた以外の人があなた名義で預金していたということで、確かに、名義はあなたですが、実際にはお金を振り込み続けた人がいるわけで、その人を裏切っているということですよね?」
 と銀行マンが強い口調でいうと、
「我々銀行マンは、そういう人にお金をためてもらっておいて、後になって、自分のものだと主張するのは、理不尽だと思っています。だから、決して許すことはできないということで、銀行側の立場から、毅然とした態度をとらさせていただきます。今の状態でいえば、あなたは、うちのお客様ではないということですね」
 というのであった。
 さっそく警察がやってきて、少し銀行で事情を聴かれ、警察に連行された。
 そこでは、さらに事情を聴かれ、息子としては、ここまでくれば、神妙になって話をするしかなかった。
 この状態で、強気になったとしても、もうどうしようもないのだった。
 だが、救いは、
「名義は自分で、自分の家に帰ったということだけは、何とかうまくいっただけに、それで押し通すしかなかった」
 それを言い張っていると、刑事の方も疲れてきているようだ。
 ほとんど陥落させている相手が、最期の最期で試みる抵抗というものは、そう簡単には、攻略できるわけではないということだ。
 警察は、もうついてこない。事情が聴かれただろうが、あくまでも事務的なこと、警察に引き渡せば、後は、警察に任せるしかないだろう。
 両親の方も、
「息子を売った」
 という意識からか、あまりいい気分になっていることは間違いないだろう。
 ただ、それでも、夫婦はお互いに話し合い、
「このまま庇い続けても、息子のためにならない。あの子が、罪を認め、立ち直ろうという気持ちになったのであれば、お金はあの子のものだから、普通にあげてもいいと思っている」
 と感じていたのだ。
 そういう意味で、
「断腸の思い」
 で、あえて、
「ライオンの親が子供を千尋の谷につき落す気分」
 になっているのかも知れない。
 ただ、それでも、かなり甘い采配である。いくら親子の間であっても、金銭が絡むととたんにシビアになる親だっていることであろう。
 実はこの親もそうであった。
 それまでは、
「子供のために、できるだけのことはしよう」
 と思っていたのだが、子供と喧嘩別れをしてはいたが、
「改心すれば、許してやろう」
 と思っていて、お金も息子のものだということも思っていたのだが、
「もし、悪いことに手を出すのであれば、息子とはいえ、容赦はしない」
 と、父親は思っていた。
 母親は、それでも、
「もう少し、柔軟であってもいい」
 という思いがあったが、旦那の思ってることが正しいので、逆らうという気にはならなかった。
 だからこそ余計に、
「わざと家にも入れるようにもしておいたし、通帳も前の場所においておいた」
 ということなのだ。
 それは、
「勝手に使ってもいい」
 ということではなく、
「そうしておけば、息子がまさか、それを盗むようなことをせず、親の気持ちを察してくれるだろう」
 という、親バカだったといってもいいだろう。
 そもそもが、親子喧嘩になったのも、息子との考え方に、激しい温度差があったからであり、父親の厳しい考えと、息子の甘い考えが激突したからだったのだ。
 父親も息子も、相手との温度差はハッキリと分かっていた。
 それは、
「相手の考えが分かるレベルの温度差」
 であった。
 だから、お互いに相手が考えそうなことは分かるのだ。それだけに、
「どうして俺の考えていることを分かってくれない」
 とお互いに感じていると、すでにすれ違ってしまった考えが、お互いに、
「一度すれ違ってしまった直線は、もう一度地球を一周しない限り、戻ってこない」
 と言えるのではないだろうか。
 しかも、すれ違った以上、もう一度地球を一周して、同じ軌道上にいることができるという保証はない、
 つまり、
「すれ違ったところで、すでに終わっているのだ」
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次