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一毒二役

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                 空き巣事件

 だが、どうやら、息子の、
「言い分」
 というか、
「言い訳」
 は、的を得ていたようだ。
 だから、通帳がなくなった翌日にはすでに被害届が出ていて、その日に空き巣の捜査ということで、鑑識が入って、調べられるものは、調べていったようだ。
 ずっと、夫婦の二人暮らしの中で、もう一つの、摂取できない指紋が、いたるところにあったのは、その息子の指紋だったのだ。
 警察は、これ以上、犯人が特定されていて、しかも、犯人が簡単に捕まるような事件に、関わっているのは、時間のムダだった。
 取り調べをさっさと済ませて、あとは検察官が起訴すれば、こちらとすれば、終わりだったのだ。
「一つの犯罪で、判決が出ると、二度と同じ犯罪で裁かれることはない」
 ということで、
「もう、この事件は、起訴が決まった時点で、二度と警察に戻ってくるものではない」
 ということである。
 執行猶予がついたのだが、息子は、いくらかをすでに使っていた。
 というのも、息子は親と喧嘩をして家を出てから、仕事をしていても、長続きしなかった。
 それだけ、一所懸命に仕事ができる性格ではなかったのだ。
 飽きっぽいし、人からの命令に、ついつい逆らってしまう。
 これは、親と喧嘩をして家を飛び出したという性格からも分かることで、かなりの短気だったのだ。
 それでも、仕事を転々としながらの、
「転々虫」
 だったとしても、収入もあり、何とか生活できていたのだ。
 しかし、そのうちに、ストレス解消という意識からか、フラット立ち寄ったパチンコ屋で、その面白さに触れたことで、今までのストレスが一気に消えた気がした。
 それと同時に、
「ギャンブルを辞めてしまうと、またしても、鬱状態に入り込んでしまい、まったく前が見えない将来について、夢も希望もない、そんな毎日が待っている」
 ということで、
「引き返すことはできないんだ」
 ということを思い知らされることになるであろう。
 そして、
「ギャンブル依存症」
 と呼ばれるまでになっていたのだ。
 彼の目的は、
「ストレス解消」
 ということのための遊びであり、
「金もうけをするための、ギャンブル」
 ということに走っていないと思っている分、
「俺はまだマシな方で、ギャンブル依存症になんかなっていないんだ」
 という思いだった。
 だが、実際には、
「立派なギャンブル依存症で、しかも、
「自覚がない」
 という分、たちが悪いのだ。
 つまり、意識がないということは、罪の意識がないということで、借金をしてでも、パチンコをしていても、
「そのうちに借金を返せるさ。逆にここで辞めてしまうと、今までつぎ込んできた分が水の泡になってしまう」
 と考えていたようだ。
 だから、何度も消費者金融の会社で簡単にお金を使うようになり、いつの間にか、数百万という借金に膨れ上がっていた。
 ギャンブル依存症のために、パチンコ屋でもいろいろな工夫が行われている。
 パチンコ屋にあるATMでは、一度に下ろせるお金の上限を厳しくしたり、利用回数に制限を設けたりはしているが、近くにはコンビニやスーパーなどのキャッシュコーナーがある以上、そこでの利用回数制限はない。
 少々遠くなって面倒にはなるが、
「抑止力」
 という意味ではまったくの効果はないといってもいいだろう。
 だから、息子は、さらにパチンコにもめり込む。
 他に、パチンコ屋が精神的な面で抑えるようなシステムがあるようなのだが、それも結局、
「本人次第」
 ということで、抑えにはならないということだ。
 そのせいで、気が付けば首がまわっていない。
「ギャンブル依存症」
 であっても、ここまでくれば、どうしようもない状態になっていて、
「まずは、借金をどげんかせんといかん」
 という形になっていたのだった。
 そこで思い立ったのが、
「親がしていた、自分名義の通帳」
 だったのだ。
 親の性格をよく分かっていたので、
「どうせまだ、あの場所に通帳をしまっているに違いない」
 と思っていた。
 問題は、玄関から、今持っている、家を出てきた時のカギが通用するか?
 ということであった。
 確かに、無頓着の親だとは思ったが、本当にカギが合うとはおもわなかった。
 親がでかけてから、5分ほど待ったところで、部屋に入ってそそくさと手帳を持って出たのだが、その間、5分も経っていない。計画通りだった。
 通帳の親名義に手を付けていないのは、ただ単に、押し入るのに、
「時間がなかった」
 というだけのことであった。
 別に他意があったわけではなく、
「親に気を遣ったなどというものでもない」
 ということである。
 そうなると、
「計画的ではあるが、ところどころに間抜けさというのが露呈しているのは、犯人が、一つのことしか見えていなかった」
 ということと、
「目的は借金返済というものだけだった」
 ということになるのであろう。
 これなら、罪に問うという考えから、どんどんかけ離れて行っているといってもいいだろう。
 そんな空き巣だったが、さすがに、パチンコにのめりこんでいるとはいえ、我に返ってみると、数百万の借金、笑い事ではなかった。
 仕事も定職を持っているわけでもない。臨時バイトを探しても、あるわけもない、あったとしても、一日いけば、そこから先は保証がない。
 借金まみれになった時点で、すでにマイナスの人生なので、どうすることもできなくなった。
 それでも、何とかなると思ったのは、
「いざとなれば、実家がある」
 と思ったのかも知れないが、いざ実家ということになると、頼みに行くということが想像もできなくなっていた。
 実際に、喧嘩をして家を出てきたわけである。その時の事情を思い出そうとしても、思い出せないのは、
「明らかに自分の方が悪かった」
 という自覚があり、
「それを認めたくない」
 という思いなのか、それとも、
「大人げない」
 という思いが強いのか、とにかく、いまさら、家に頭を下げたとしても、どうなるものではないと考えたのだ。
 それが、いきなり、
「実家に空き巣に入る」
 という発想に行き着いたというわけでもないだろう。
 極力、穏便に済ませたいというのは当たり前のことだったが、どうしても、借金取りの存在が浮き上がってきて、恐怖がリアルに感じられるようになると、
「もう逃げられない」
 という思いが強くなってきて、最初から、
「空き巣に入ろうとまでは思わないまでも、家を意識しないわけにはいかない」
 ということだったのだ。
 実際には、
「実家に帰る」
 という意識だった、
「カギが、入るということは、いつでも帰ってきてもいいぞということなので、家に帰るまでは、別に悪いことではない」
 と思うのだった。
 さらに、家に帰って、自分名義の通帳が、昔あった場所にあるとするならば、それは、自分が、
「自分のものだから、貰ってもいい」
 ということだろうと解釈する。
 もちろん、身勝手な解釈なのは分かるが、息子はそれ以外の解釈を思いつかなかった。
「尻に火がついている」
 ということは間違いなく、
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次