小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

一毒二役

INDEX|11ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 警察は、そのお金が引き出された銀行で張っていると、再度引き落としに来た犯人を逮捕することに成功したのだが、何と、その犯人というのは、その夫婦の息子だったのだ。
 息子は、数年前の大学2年生の時に、親と喧嘩して、出て行ったということであった。
 その後どうなったのか、夫婦もその消息を知ることもなく、結果、
「息子は家出をした」
 ということで、探すこともしないまま、放っておいたのであった。
 そういう意味で、同じ年代の三浦巡査が頑張っているのを見て、
「まるで息子のよう」
 と感じることが、夫婦にとっての、癒しとなっていたようだ。
 心配をしないと言えばうそになるが、けんか別れで出ていった以上、帰ってくるのを待つしかないと思っていたようだ。
「自分の息子のように思えたのが、警察官というのも、皮肉なものだ」
 と思っていた夫婦だったが、その息子が、まさか、空き巣というような、
「ブサイクな犯罪」
 で戻ってくることになるとは、思ってもいなかっただろう。
 夫婦は、元々、
「息子のために」
 ということで、息子名義で、貯めていた金があったという。
 それを息子は思い出したのだ。
 だから、警察の取り調べの際、
「俺の金を俺が貰って、何が悪い。それにあの家だって、俺の家なんだ」
 と、一度は喧嘩をして出て行ったのに、この言い草は、言い訳と言っていいのだろうか?
 確かに、男の言い分を認めないわけにはいかない。そうなると、問題は、被害届が出ている以上、被害を受けた夫婦がどうするかということになるだろう。
 裁判になれば、有罪になるかも知れないが、それはやってみないと分からない。ということになると、夫婦の出方が問題になってくる。
「被害届をそのまま生かして、取り調べの跡に、起訴することになるのか、あるいは、老夫婦が、息子のやったことなので、として、被害届を取り下げるか?」
 ということの二択にしかならないだろう。
 被害届を取り下げると、何もなかったことになり、後は財産的な問題として、民事の問題になってくる。警察というのは、
「民事不介入」
 という原則があるために、被害届が取り下げられたら、その時点で、事件は終わりになってしまうのだった。
 夫婦がどうするかと見ていたが、夫婦は、被害届を取り下げることはしなかった。
 かなりの葛藤が夫婦二人の間にあったようだが、
「このまま、何もなかったことにするのは、息子のためにも、自分たちのためにもならないことで、後は司法の手に委ねるということを考えました」
 ということをいって、被害届を取り下げなかったことで、検事は起訴したのだった。
 裁判としては、事件が大きなものではなく、誰かが殺されたというわけでもなかったので、すぐに結審がついたようだ。
 被害者が肉親であること、裁判にはなったが、別に息子を犯罪者にしたかったわけではないが、このまま見逃せば、今度はまた繰り返すことになり、今度はもっとひどいことになるだろう。
 明らかに、人様に迷惑をかけることになり、さらに、また捕まれば、今度は容赦のないリアルな犯罪として、厳しい沙汰が下るに違いない。
 それを思うと、
「ここでハッキリさせるしかない」
 と考えたのだろう。
 親の方が考えたのは、どうしても、親子としての情があり、贔屓目に見てしまう自分がいるのを分かってもいた。
 特に、警察もであるが、親は気になったこととして、
「なんでこんなにあからさまなことをしたのか?」
 ということである。
 犯罪からすれば、
「クソのような犯罪」
 といってもいいかも知れない。
 そもそも、空き巣に入って盗んだものが、
「自分名義の通帳とハンコ」
 ということであれば、犯人は自分以外にはないということだ。
 本来なら、簡単に盗まれるような場所に通帳を置いていたことも、
「無防備も甚だしい」
 と言われても仕方のないことであろう。
 しかも、通帳一式を同じ場所に保管していたのだ。そして犯人が持っていったのは、自分名義のものだけで、親名義の通帳もあるのに、そっちには一切手を付けていないのだ。
 確かに、裁判になった時、
「自分のものを取りに来た」
 ということであれば、犯罪にならず、無罪の可能性もあるだろう。
 しかも、入った家が自分の家なのだ。空き巣と言っても、実際には、
「持っていたカギで普通に玄関から入り、通帳の場所から、自分の分だけを持っていったのだ」
 ということであった。
 だから、これを本当に、
「空き巣」
 と言えるのかということであり、裁判も略式起訴のような形であった。
 ただ、無罪というわけにはいかなかった。執行猶予がつく中で、かなりの情状酌量があり、刑としても、
「最も、軽い刑だ」
 ということであったのだ。
 それにしても、事件としては、いろいろ情けないようなポンコツと言ってもいいものだった。
 そもそも、夫婦が、息子が出て行ってからでも、カギをそのままにしておいたというブサイクなこと。夫婦とすれば、
「息子が自分の私物を取りにくることもあるだろう」
 ということで、わざとそのままにしていたということであった。
 まさか、通帳を取りにくるなどということは、まったくといって考えていなかったということであった。
 さらに、
「通帳を、別々に保管もせず。さらには、印鑑もそばにあった」
 ということであった。
 いかにも、
「取ってください」
 というような無防備さであったが、正直、警察も、
「これほど無防備だったら、いつ誰に狙われるか分かったものではないですよ」
 と忠告したくなるのも、当然であった。
 さすがに夫婦も、自分たちの無頓着さというものを反省していたようだが、息子の方としても、
「この親にしてこの子あり」
 というべきか、
 一度、お金を下ろす時、普通に下ろして、さらに、二度目に下ろす時も、同じ銀行に来るなど、本来であれば、
「開いた口が塞がらない」
 といっていいほどの、情けないものであった。
 警察も呆れていた。
 取り調べの時、
「何で他の銀行に行こうとは思わなかったんだ?」
 と聞かれると、
「前の時に、捕まらなかったし、お金を凍結もしていなかったので、てっきり、このお金は俺が自由に使っていいものだということなんだろうと思った」
 というのだった。
 なるほど、息子とすれば、盗まれたということが分かっているにも関わらず、止めていないということは、自分のお金だということで、普通に使っていいものだと思ったとしても、無理もないだろう。ただ、警察が気になったのは、
「お前は、お金を盗まれたことを、両親が知っているはずだという話し方をするが、どうしてそうハッキリ言い切れるんだ?」
 というと、
「あの親は、ああ見えても守銭奴だからな。結構ケチなところがあるので、趣味として、毎日預金通帳の額面を見ることだというような人が、盗まれて数日経ったにも関わらず、通帳がなくなったことに気づかないなどありえないと思ったんですよ」
 というのであった。
 三浦巡査も、まさか、あの夫婦が、そんな守銭奴だとは思わなかった。だから、それに関しては、
「息子のウソ」
 だとしか思えなかったのだ。
作品名:一毒二役 作家名:森本晃次