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殺人前交換の殺人

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「国営企業だったんだよ。それが、昭和が終わるのと同じタイミングくらいで、民営化されてしまった。特に、国鉄が抱えていた慢性的な赤字は、今も暗い影を落としているという問題があるんだけどね」
 ということであった。
 その人は続けた。
「今では考えられないけど、昔の国鉄職員は、そのすべての職員に、国鉄の利用は乗車券に限っては、ただで、フリーパスが与えられていたんだよ」
 というではないか。
「そんなものがあったんですか?」
 と聞くと、
「ああ、私は見せてもらったことがあるよ。その時は、別に可笑しいとは思っていなかったんだけどね。当時はまだまだバブル景気の時代で、事業を広げれば広げるほどに、儲かっていたと言われる時代だったらしいんだけどね。さすがに私も子供の頃のことだったので、話に聞いたことがあるという程度で、詳しくは分からない」
 と言っている。
 その人は、50代くらいの人で、会社の上司にあたる人だった。
 その人のいうことには、いちいち信憑性があるので、話を聞いているだけで楽しかったということであるが、どこまで楽しかったのかというと、何とも言えなかった。
 そもそも、
「世界的なパンデミック」
 の流行と、
「受動喫煙禁止」
 の法律の施行は、ほぼ同時であった。
 本来なら、受動喫煙防止の法律が始まれば、少なからずの混乱が発生するのは、必定だと思っていたが、実際には、大きなトラブルにはならなかった。
 なぜなら、ちょうど同じ時期に、国は、
「緊急事態宣言」
 なるものを発令し、国民生活や、自由を制限したのだった。
 つまりは、
「外出自粛」
 あるいは、
「店舗や公共施設」
 の休業などがそれであり、
 タバコを吸おうにも、表はどこも開いていない。
 コンビニ、一部のスーパー、薬局などの、必要最低限のものを営むところは開店していたが、それ以外はほとんど閉まっているという感じだったのだ。
 百貨店も締まっている。下手をすれば、ビジネスホテルもしまっているところもあった。
 最悪なのは、
「コンビニも半数近くが閉まっていた」
 ということであったが、政府はコンビニには休業要請をしていない。
 ということは、
「街を歩いている人がいないのだから、店を開けるということは、開けているだけで赤字になっていく」
 というわけなので、閉店を勝手にコンビニ側で決めたということで、ある意味、
「客を欺いている」
 といっても過言ではないだろう。
 さらには、それまで、利用でき手いたトイレも、
「昨今の諸事情で使用禁止とします」
 ということであったが。蔓延のピークがなくなっても、トイレを解放しないという、正直、いい加減な経営をしているコンビニがあったが、案の定、すぐに潰れていったのだった。
 そんなコンビニに対しては、
「ざまあみろ」
 としか思わない。
 パンデミックを理由に、
「客はバカだから、簡単に騙される」
 というような考えで経営していたのだとすれば、バカでない客は、そんな店の魂胆を見抜いているだろうから。わざわざそんな店で買う必要もないということである。
「客を欺こうなんて、店側がしようものなら、客も簡単に見破るというものだ」
 と言えるだろう。
 それだけ、コンビニは、
「便利」
 ということから名前がついたわけで、客からすれば、
「そんなあからさまな、嫌がらせを、露骨に客に見せるようなところは、どうせ長くないといえるだろう」
 と思うと、まさにその通りだったのだ。
 それは、程度の低い店長のいる店ということで、コンビニに限ったことではない。
 ただ、コンビニなどは、店長が、
「経営のプロでも何でもない」
 と言える。
 適当に、
「幹部候補」
 として雇い、ちょこっとの教育ですぐに店長になるのだ。
 今の時代のように、店員が、日本語もロクに分からないかのような、
「外人ども」
 を雇うのだから、程度が低い店になるというのもうなずける。
 そんなことを考えていると、今の世の中というものが、いかに程度の低いものなのか、分かるというものである。
 そんなことを考えている場合ではない。あるマンションで、人が殺されたのだ。ナイフで刺されての刺殺のようだが、最初に発見した新聞配達員のにいちゃんが、腰を抜かしてひっくり返ったというのも、無理もないことであろう。
 何しろ、早朝、時間的には、午前三時くらいであろうか。時間的には丑三つ時を少し通り過ぎた時間。
 新聞配達員であれば、
「丑三つ時」
 などという発想はないだろう。
 どちからというと、
「夜行性」
 の方である新聞配達員は、逆に静寂の方が慣れているといってもいいだろう。
 しかし、その静寂を破るような、想定外であり、造像を絶するような出来事に出会えば、その感情は、本来であれば、腰を抜かす程度に留まったりはしないのではないだろうか?
 何しろ、誰かを呼ぶわけにもいかない。大声を出したり、叫んだりすると、人は飛び出してくるかも知れないが、その状態において、何もできない状態であれば、
「俺がこのままであれば、疑われる」
 という発想までは浮かぶのだった。
 もっとも、いつもであれば、
「最悪の事態」
 を考えるのであろうが、その想定をはるかに超えているので、余計に、
「冷静にならなければいけない」
 と感じるのだった。
「人生で、死体と遭遇するなど、そう何度もあることではない」
 と、肉親の死に遭遇することはあっても、人の死体を発見するなど、普通であれば、まずないことだろう。
 ただ、考えてみれば、新聞配達のような立場であれば、誰もいない早朝のマンションのエントランスに入る毎日なので、可能性としては、かなり高いということだろう。
 それを思うと、今から思えば、
「そういえば、今年は、何か最初から、何か発見するような予感めいたものがあったような気がするな」
 と思ったのは、初詣に出かけた時、引いたおみくじに、
「普段、見つけないようなものを見つける」
 というようなことが書いてあったような気がした。
 それが、
「失せもの」
 という項目ではなかったので、
「遺失したものが見つかる」
 ということではないのは確かなようだった。
 それを思うと、
「まさか、それが死体だったなんて」
 と思うことで、まさか、この発見が、さらにオカルトチックな発想となり、さらに怯えを与えるのだった。
 死体を発見してから、少しの間にそこまで頭を巡らせることになった。
 時間的には、5分程度だったが、それが長いのか短いのか、自分でもよく分かっていなかったのだ。
 あれが、年始だったので半年以上は経っているはずなのに、まるで昨日のことのように思い出されたのは、それだけ、考え方に、何らかの偏りがあるような気がするのだった。
 発見した死体は、どうやら後ろから背中を刺されているようで、まだ、背中に刺さっているナイフが、生々しい気がした。
「声を立てることもなく、即死だったのだろうか?」
 と思ったのは、ナイフが刺さっているとはいえ、ほとんど出血していないように見えたからだった。
「上手な人が刺せば、ほとんど血が出ることなく、即死で、苦しむこともない」
作品名:殺人前交換の殺人 作家名:森本晃次