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殺人前交換の殺人

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 ということを感じさせるものであった。
 そんな時間帯の中で、防犯カメラを見ていたが、やはり、何を言っているのか分からなかった。
 ただ一つ気になったのは、被害者が断末魔の瞬間、苦しそうな顔の中で、急に情けないような表情をしたことであった。
「被害者が死ぬ時、こんな表情を普通はするものだろうか?」
 と、桜井警部補は、今までの刑事生活の中で、そこに何となくの矛盾を感じたのであった。
 矛盾というのは、
「どこにそんな矛盾が?」
 と聞かれると、
「ハッキリ答えるには、難しい」
 としか、答えることができない。
 それを思うと、
「映像と音声の分離」
 という不思議なキーワードをこの防犯カメラから、感じるのであった。
 防犯カメラのその後の様子を、犯行が行われた場面を何度も繰り返して確認した後に、見る形になった。
 結局何度も繰り返してみても、新たな発見にはつながらない。被害者が、殺されたということ以外、先ほどの感覚にいたりはしたが、それを確定させる確証は、発見できたわけではなかったのだった。

                 大団円

「音が聞こえないことで、相手がどのように感じるのか?」
 ということを分かる人がいる。
 音に関して、敏感というか、まるで、
「目の見えないコウモリが、音に関して敏感だ」
 というような感じである。
「特定の年齢以上になると、聞こえなくなるという特定の音がある」
 ということを聞いたことがある。
 特定の周波数で、一定の高周波だというのだ。
 それを、
「モスキート音」
 というのだという。
 モスキート音の、モスキートというのは、
「蚊の飛ぶ音」
 ということのようで、あの音も、近くにくれば本当に鬱陶しい感じだが、実際に少し離れると、音がまったく聞こえないという現象がある。
 モスキート音というのは、年齢的に衰えてきた聴力を皮肉るような音ではないかと思われるが、しょうがないものとして、受け入れるしかないだろう。
 ただ、最近、学者の中で、
「ある程度の年齢に達しないと聞こえないような音がある」
 あるいは、
「年齢に関係なく、ある特定の人にしか聞こえないという音がある」
 と言われているというのだ。
 その音を、感じることができるのが、この事件の第一発見者である、
「新聞配達員の男」
 であり、名前を赤坂史郎と言った。
 彼がこの事件にどのようにかかわっているというか、まだ捜査員の誰も分からなかったが、それを分からせてくれたのは、表で聞き込みを行っていた、桜井警部補と、岩崎刑事が戻ってきてからだった。
「門倉さん、防犯カメラの方がどうですか?」
 と桜井が訊ねると、
「ああ、桜井か。うーん、何とも言えないんだが、まあ、見てくれたまえ」
 というではないか。
 桜井警部補と、岩崎刑事も一緒になって、映像を見ていたが、一度見終わった時点で、桜井警部補は腕を組み、その様子を横からまじまじと見ている岩崎刑事の態度を見て、
「どうしたんだい? 何か気になることでもあったのかい?」
 と言われて、
「ああ、そうですね、門倉警部も、三浦刑事も、初動の段階で、誰にも遭っていないんでしたね」
 と桜井がそう言って、岩崎に目配せすると、岩崎刑事もそれを察してか、
「実はですね。そこに写っている男性。つまり、最初に話しかけられた男性なんですが、この男性は、第一発見者の男によく似ているんですよ」
 というではないか。
 それを聴いて、桜井警部補も、何ら否定をしない。それを見て、
「ああ、第一発見者が、犯行に関わっているということか?」
 と感じた門倉警部は、何か、不思議なものを感じた。
「第一発見者も、最初から分かるようなことを、どうしてわざわざ疑われるようなことをしたというのだろう? これじゃあ、まるで、自分が犯人ですと言っているようなものではないか」
 ということであった。
「これは一体どういうことなんだ?」
 と最初に口を開いたのは、桜井警部補だった。
 桜井警部補は、こんな時、いろいろなパターンを頭に思い浮かべて考えているはずであった。
 つまり、その考えがまとまっていないということであろう。
 それを考えると、
「とりあえず、あの時の第一発見者である配達員である、赤坂史郎を重要参考人として引っ張りますか?」
 と、三浦刑事が言ったが、
「まあ待て、焦ることはない。まずは、この女の特定をしないといけない。この女が実行犯であることに間違いはないんだからな」
 と桜井警部補は言った。
「じゃあ、赤坂を引っ張って、吐かせるのが一番手っ取り早いんじゃないですか?」
 と、三浦刑事は鼻息が荒かった。
「でもね、こんなにあからさまに顔が映るかのような状態で、防犯カメラまで意識しているのを見ると、どう考えればいいのかな? もし、やつが犯人の仲間で、主犯にしろ、共犯にしろ、ここまで堂々としているのであれば、やつはやつなりに覚悟のようなももをしているということであろうな。それを思えば、今すぐに、彼を尋問したとしても、そう簡単には吐かないと思うんだ。それを考えると、今あの男に尋問しても、それは無駄なことではないだろうか? まずは、考えられることの裏を取って、相手が言い訳できないような状態にしてしまえばいいんだ」
 と桜井警部補がいうと、
「だったら、今のうちに追い詰めた方がいいんじゃないですか? まさかやつも警察がこんなに早く、自分に辿り着くとは思っていないかも知れないので、その虚を突くと、相手も慌てるのではないですか?」
 と三浦刑事は相変わらず鼻息が荒い。
「いやいや、やつは、きっと、こちらの質問の模範解答を用意しているかも知れない。やつは、わざとこちらに顔を見せているんだ。手ぐすね引いて待っていると思った方がいいんじゃないか?」
 と。桜井警部補に言われると、急に溜飲が冷めたかのように、三浦刑事は、しょぼんとなってしまった。
「分かりました。では、この女は誰なんでしょう?」
 と三浦刑事が聞くと、
「それこそ、やつのまわりを探ってみればいいんじゃないか?」
 という桜井警部補がいうと、
「そうですね。そして、赤坂には、四六時中の尾行をつける必要はあるでしょうね」
 ということであった。
 その後、赤坂の現在や、過去のことがいろいろと捜査されたが、女の身元が分かることはなかった。
 3日、4日とすぎていき、最初の防犯カメラの映像から、ある程度のことは分かっているにも関わらず、そこから先がまったく分かってこないのだった。
「どういうことなんでしょうね?」
 ということが、話し合われ、
「まさか、このまま、お宮入りなんてことないですよね?」
 ということになったが、ある時を境に、事件は急転直下となった。
 それは、事件が発生してから、1週間が経ったことであった。
 その時、同じ県ではあるが、事件現場から少し離れた岬で、女性の投身自殺があったという。
 自殺の名所というわけではなかったが、一年に数人が身を投げるというその場所は、ある意味。
「密かな自殺の名所」
 と呼ばれているところだった。
作品名:殺人前交換の殺人 作家名:森本晃次