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殺人前交換の殺人

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 死体が上がったその時、身元捜査が行われそうになった時、門倉警部は、その自殺した女性を見て、さっそく、桜井警部補を呼んだ。
「おい、桜井。この女性を見てみろ」
 という。
 それを聴いて、
「何事だろう?」
 と思って覗き込んだ桜井警部補だったが、彼も、思わず、
「わっ」
 と声を挙げそうになって、思わず抑えた。一瞬腰が抜けてしまいそうになるのを、堪えていたくらいだった。
「まさか、自殺をしていたなんて、覚悟の自殺だったんですかね?」
 というので、その現場を見てきた刑事は、
「そうかも知れませんね」
 といった。
「遺書はあったのかい?」
 と聞かれて、
「はい。ただ一言、「罪は償います」と認められていただけだったんですが、罪って何なんですかね?」
 と言われたが、それ以上はその時には言わなかった。
 三浦刑事、岩崎刑事も確認したが、
「間違いないですね。あの女じゃないですか?」
 というのだった。
 捜査本部に戻ると、皆口を開こうとはしなかった。
「重要参考人、いや、実行犯が死亡したということですか?」
 と、三浦刑事がいうと、
「そうだな」
 と一言桜井警部補は言ったが、そういって、言葉を続け、
「こうなると、もう残ったのは、赤坂しかいないだろうな。やつを引っ張ろう」
 というのだった。
 桜井警部補と、岩崎刑事が、引っ張ろうとやつの自宅に踏みこんだが、彼も自殺をしていた。急いで救急活動が行われ、幸いにも命はとりとめた。薬を飲んでの服毒自殺だったのだが、薬の量が、致死量に若干足りあかったのと、飲んでからすぐだったということが幸いしてか、医療の決死の治療もあってか、一命はとりとめたということであった。
 彼は遺書を認めていた。そこにはある程度のことは書かれていたのである。
 まず、女は、倉岡敦子という。彼女の姉が結婚詐欺に遭って、警察に相談したが、警察も動けないということで、泣き寝入りするしかなかった。相手に裁判を起こそうにもお金がなかったのである、
 普段は風俗で働いていたのだが、相手の男は、そんな彼女の気持ちに付け込んだというダニのような男だったという。
 それまでは教師をしていたのに、姉の死で、先生をしながら、復讐を考えていたところに、赤坂と出会ったのだという。
 赤坂の方は、実は、ある組織から脅迫を受けていたという。ある商店街の放火殺人の罪を彼にきせようと、でっち上げた写真を撮られて、
「これを警察に届ければ、お前は確実に死刑だ」
 ということであった。
 相手は組織なので、
「俺たちのいうことを聞けば、俺たちが守ってやる」
 ということだったのだ。
 そして彼らは、赤坂に金銭を要求することはなかった。しかし、殺し屋の手下のようなことをしていた。自ら手を下すことはなかったが、殺害対象の相手を呼び出したり、脅迫者として表に出たりという役だったのだ。
 そんな、どうしようもない状況の赤坂と、警察に不信感をいだき、さらに、結婚詐欺の男を憎んでいた敦子とが知り合った。
 どこで知り合ったのかということは、ここではさておき、二人は意気投合した。
「復讐ができれば、もう命なんかなくなっていい」
 というくらいに二人は思っていたのだ。
 だから、事件が発覚して、捕まる前に死んでしまえばいいと思っているので、防犯カメラの映像も関係ないのだった。
 だから、二人は、お互いの相手を二人で協力して殺すことを考えた。
 しかも、やり方としては、
「交換殺人」
 のようなイメージである。
 ただ、それはお互いにアリバイを作る目的ではなく、
「警戒している相手を油断させる」
 という意味での交換殺人であった。
 つまり、
「殺人前交換の殺人」
 とでもいえばいいのだろうか?
 実際に、こんな犯罪があるなど、思ってもみなかった。
 しかも、男には、
「逆モスキート音が聞こえる」
 というような特殊能力があった。
 そのことは書かれていたが、いかにして反応を行ったのかということは、詳細には書かれていなかった。
 だが、
「この特殊能力があることで、今回の殺人前交換の殺人というものを成功せしめることができたのだ」
 と書かれていた。
 かくして、二人の目的は達せられたというべきか、実際に、マンションで死体が見つかった次の日に、
「一人のチンピラが死体で発見される」
 という事件が発生していて、その男が、
「稀代の結婚詐欺師だ」
 ということで、生活安全課がマークしていたところ、
「まさか死体で発見されるとは」
 ということになったのだ。
 被害者の目録もできていて、実際に、倉岡敦子の姉が被害者の中に含まれていて、その蘭に、
「死亡(自殺)」
 と書かれていたのだ。
 おおむね、赤坂の報告と同じで、信憑性があった。
 さらに、この時の赤坂が疑われそうになった放火殺人事件というのは、岩崎刑事が追いかけていたが、迷宮入りしてしまった事件であった。
 真犯人は分かってはいないが、裏にどの組織があったのかということは、赤坂の遺書で分かったというものだ。
 赤坂の遺書のおかげで、迷宮入りだった放火殺人にも再度捜査の手が及び、それまで停滞していた捜査が一気に進んだことはいうまでもなかった。
 赤坂は一命をとりとめてはいたが、後遺症から、記憶喪失になったようで、特殊能力も消えていたということだった。
「自分が誰か分からない」
 ということを今の赤坂は、
「これこそが、彼の罪滅ぼしということになるのかな?」
 と、門倉警部補が言ったが、まさにその通りだろう。
 彼の記憶が戻ることは、
「あるかも知れないが、ないかも知れない」
 と医者はいっていた。
 まさにそんな曖昧な状態で進んだ事件であったが、二人お犯人の犠牲のおかげで、先に進んだこともあったのだ。
「俺たちは何もできなかったな」
 といっている桜井警部補だったが、この事件を通して、
「誰が得をして、損をする」
 という考えが犯罪捜査の基本だと思っていたが、それだけではないのだろうと、担当した人間は、皆、そう感じたのだった……。

                 (  完  )
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作品名:殺人前交換の殺人 作家名:森本晃次