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殺人前交換の殺人

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 というような見出しが一面で踊れば、世間の関心も次第に深まっていき、犠牲者の家の前には、毎日のようにたくさんの人が、献花や、供物を持ってくる人の数が絶えないというほどの事件となっていた。
 この事件は、警官も動員されての捜索となったので、岩崎巡査も事件にかかわることになった。
 それはよかったのだが、やることというと、事件に直接かかわることはできず、見張りであったり、交通整理のようなことであったりと、分かってはいたが、捜査権のまったくない制服警官では、何もできないということを思い知らされたのだ。
「このまま無難に警官を続けていられればそれでいい」
 などという甘い考えを持っていた自分を、ぶん殴りたい気分である。
「こうなったら、刑事になって、捜査一課に行くしかない。これが俺にとっての、あの老夫婦に対しての弔い合戦だ」
 と思うようになっていた。
 そんな岩崎刑事のやる気を見たのか、辰巳刑事は、
「君は、刑事課を目指している岩崎巡査だね?  頑張ってください。私は刑事課で待っています」
 という声を掛けてくれたのだった。
 今ではそんな辰巳刑事の下で働けることを、誇りに思うのだった。
 ちなみに、あの時の放火事件であるが、結局、有力な手掛かりを得ることができないまま、
「お宮入り」
 となってしまったのだった。
 その時の火事を忘れることはなかったが、そればかり気にしていては刑事は務まらない、あれを、バネにして、
「これからもがんばろう」
 と思った岩崎刑事だった。
 一方桜井警部補は、防犯カメラの解析を、急いでいた。三浦刑事に任せていたが、
「桜井警部補、ちょっといいですか?」
 といって、桜井警部補は、言われて防犯カメラを確認にいった。
「これは、深夜の2時すぎくらいの映像なんですが」
 ということで、見ていると、そこには被害者がエントランスに入ってきていた。
 そこに、一人の男が彼に話しかけている。すると、後ろから、まるでレインコートのような服を着た華奢な人物が現れて、後ろから刺し殺したのだった。
 その華奢な身体の体重を思い切り預けるように突き刺しているのだから、背中を刺された被害者もひとたまりもないだろう。
 ただ、すぐに絶命するということはなく、後ろを振り向いて、目深にかぶっていた帽子を放り投げていた。そこに写っているのは、華奢な男だと思っていたが、一人の女性だったのだ。
 女性としては、それなりの恰幅で、
「なるほど、女性でも、これだけの力で背中から不意打ちを浴びせれば、一思いに殺すことができるだろう」
 というものであった。
 ただ、その場面を見る限りでは、犯人が誰なのか特定することはできなかった。帽子が吹っ飛んでいても、顔には包帯のようなものがまいてあり、その顔を確認することはできなかった。
「うーん、この女は、自分の正体を見られないようにしているのだろうか?」
 と思った。
 確かに、
「帽子をかぶって、レインコート、さらには、顔に包帯」
 と変装しているように見える、
 ただ、マスクは今の時代では当たり前のことであり、少々変装をしていても、
「怪しい」
 という雰囲気に見えることはないのだ。
 そんなことを考えていると、
「この男は誰なんだ?」
 と桜井警部補は、その男は後姿ではあるが、人物の特定は容易な感じがした。
 ここで分かったことは、
「犯人は二人組である」
 ということと、
「二人は、防犯カメラを意識していないのか、変装はしているが、すぐにバレそうな様相は、何か中途半端に感じる」
 というものだった。
 実際に、男は後ろを向いているが、帽子をかぶっていてマスクをしているだけで、それ以外には普通であった。時々目の様子は、雰囲気が分かる角度になる。
 そう考えると、
「犯人は、防犯カメラを意識していないのだろうか?」
 と思ったが、少しして、桜井警部補は、
「最初は、防犯カメラをまったく考えていないのかと思ったが、いや、そうじゃない。その位置を分かっていて、わざとリアクションを取っていて、その行動は計算されているのではないだろうか?」
 と感じたのだった。
 というのも、防犯カメラというものを、さらに、その位置を意識しているからこそ、被害者に話しかけた人物は、横顔で正体が分かるかも知れないとは言いながら、反対方向なので、それほど変装をしていない。
 しかし、逆に実行犯の女の方は、がっつりとした変装をしているのは、明らかに防犯カメラに正対するということが分かっているからであろう。
 ただ、その割に、帽子から下は、包帯をしている。
「この包帯は、何を意味しているんだろう?」
 と、桜井警部補は感じた。
「帽子がはだけた時に、自分の正体がバレないようにということなのだろうか? それとも本当に顔にケガをしているので、包帯を巻いているというだけのことなのだろうか?」
 と考えたのだ。
 防犯カメラを意識して、自分たちの正体が分からないようにしようというのであれば、もっとやりようがあったのではないだろうか? そもそも、防犯カメラの位置を知っているのであれば、最初から防犯カメラのその時間、映らないように、細工をすることだってできなくもないだろう。
 ただ、防犯カメラに触ろうとすると、センサーが働いて、細工ができないようになっているのではないかと思ったのかも知れない。
 今のところ考えられるのは、
「犯人が防犯カメラのことを意識している」
 ということが考えられることだった。
 桜井警部補が注目したのは、最初に話しかけた男が、何かを口走っているということであった。
 それを聴いて、明らかに、被害者が狼狽しているのが分かった。ただ、後ろを意識させないようにするために、話しかけただけだという雰囲気でもないように思えたのだ。
 それを考えると、
「この二人は共犯なのだろうが、どこまでの結びつきなんだろうか?」
 と感じた。
 さらに、殺害することだけが目的であり、何も物色していないことを考えると、
「動機としては、復讐なんだろうな」
 ということは、間違いないような気がした。
 そうでもなければ、被害者がいきなり話しかけられた相手に、あんなに怯えるとは思えない。
 そして、もう一つ言えることは、
「被害者と、最初に話しかけた男とは、面識がなかったのではないか?」
 ということであった。
 被害者が話しかけられた時、笑顔は一切なかった。
 かといって、怯えがあったわけでもなく、話しかけられ、その話の内容に被害者は、いきなり、いや、みるみるうちにというべきか、その表情が怯えに変わっていっているようだった。
 一瞬で変わったかのように見えたのは、防犯カメラの映像に音声が一切入っていないため、何を話しているのか分からない状態なので、あっという間に感じたのだろう。
 ただでさえ、夜中の二時過ぎ、普通であれば、
「草木も眠る丑三つ時」
 と言われる時間帯である。
 要するに、そんな時間帯において、ほとんど静寂の中で犯行が行われ、時間としては、約十分くらいのことではなかっただろうか? 音声がないのが余計に不気味さを感じさせるが、実際の犯行でも、
「ほとんど音がなかったのではないか?」
作品名:殺人前交換の殺人 作家名:森本晃次