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殺人前交換の殺人

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 と感じていたことが、恐怖でしかなかったはずなのに、それを思い出すと、最初に感じた静寂の恐怖が、よみがえってくるかのように感じるのだった。
 ただ、耳を澄ませば聞こえてくるのに、刑事も鑑識の人も気づく様子はない。
 そんな状態を、
「刑事さんに話した方がいいのだろうか?」
 とも少し考えたが、やめておいた。
 ただでさえ、第一発見者ということで、どんな目で見られているのか分かったものではない状態の中で、わざわざ疑惑を与えるようなことを言えば、捜査のミスリードになってしまうし、やつらのことだから、
「この第一発見者、怪しいぞ」
 と思わせるような、墓穴を掘ることは、しない方がいいに違いない。
 この音だって、
「気づかない方が悪いんだ」
 ということになる。
 ただ、それにしても十人近い警察関係者がいるのに、誰も気づかないというのか、管理人さんにしたって、気付いている様子もない。ということになると、
「俺しか聞こえないということになるのか?」
 と考えさせられてしまい、
「もう余計なことはしない方がいい」
 と思えたのだった。
 ただ刑事も、被害者の腕を見た時、ずっとその場所を見ていたので、何か手首のあたりに違和感でもあったのだろう。
 それを、配達員の男に、気付かせたのは、何か他にも、秒針の音以外にもあったのではないだろうか?
 そんな時計の音を、他の人たちは誰も気づいていない。
「いや、気付いているが、誰も口に出さないだけだろうか?」
 とも感じた。
「本当のところを確認したいにも関わらず、確認できないような気がする」
 と感じるのは、そういう気の遣い方をしている人がいるのだとすると、
「その思いを自分から壊す気にはなれない」
 と感じるからなのではないだろうか?
 そんなことを考えると、聴くに聴けなくなってしまうのだった。
 だが、考えていくうちに、次第に、時計の秒針の音が大きくなってくるようだった。ただ、そのくせ、音が大きくなるとそれまで気づかなかったことに気づくような気がして、
「音の間隔が、微妙に狂っているように感じる」
 と思うのであった。
 当然、等間隔なのが当たり前であり、そもそも、
「等間隔だ」
 と思ったからこそ、
「時計の秒針だ」
 と思えたのだ。
 それなのに、そもそもの間隔に狂いが生じてきたというのであれば、感覚自体が狂ってきているといっても過言ではないといえるだろう。
 そう思うと、この間隔の違いを、単に、
「音が気になってくるようになったから」
 ということで片付けてもいいのかを感じるのだった。
 しかし、どこかで妥協であったり、納得するだけの発想が生まれてこなければ、解決したことにならない。
 この場合の解決というのは、
「自己納得」
 であり、ある意味、この自己納得というものが一番難しいのではないかとも思うのだった。
 他人が納得してくれたとしても、自分が納得できないということは意外と多いような気がする。
 他人は、言い方は悪いが、
「他人事」
 なのである。
 つまり、納得できようができまいが、どっちでもいいのだ。しかし、納得した様子を見せると相手も安心してくれて、話が先に進んでいく。もし、相手が納得してくれていなければ。先に進んだとしても、それは、ただの惰性で進んだだけだと言われるもしょうがないことなのかも知れない。
 そういう意味で、
「自分が納得しなければ、最終的な納得ではない」
 と、いえるのではないだろうか?
 ということは、今回の時計の音でも、
「今はその理屈に納得できないから、こだわっている」
 ということになるのだろう。
 ただ、ひょっとすると、このことが事件に重大な秘密となるかも知れないっと思うのだが、自分はあくまでも、ただの第一発見者でしかないわけで、ここで、それを追求する必要はない。
 下手に追求しすぎて、変に疑われるのも、理不尽なのは間違いはない。
 それを思うと、
「俺は、一体、どうすればいいのだ?」
 と、思った。
 ただ、このムラムラ感は、どうしてもいかんともしがたく、放っておくのも嫌な気がするのだった。
 そんなことを考えていると、
「どうしたんだい? 何か気になることでもあるのか?」
 と、刑事から聞かれた。
 どうやら、何度か呼ばれたのに、上の空で聞こえていなかったということが気になったようで、
「ここまで思われているのであれば、時計の音のことを言っておいた方がいいのではないだろうか?」
 と感じたのだった。

                 パンデミック世界

「少し気になることがあるんですが」
 と、配達員がおもむろに話始めた。
 その様子を見て、刑事たちは、一様にその時、各々やっていた作業を、少し止めたのだった。きっとそれは、
「第一発見者として、何かを思い出したからではないか?」
 と思ったからであろう。
 しかし、配達員本人は、
「もし、そうだったのだとすれば、気になるなんて表現はしない。ちゃんと思い出したと表現するさ」
 と感じたのだが、さすがに、この時の緊迫した状況で、そのことを口にできるわけもなかったのだ。
 それを考えると、まわりに対して考えてしまう落胆した態度は、
「こちらを見下すような表情や態度になるに違いない」
 と思ったのだ。
 少し話しにくい中で、時計の話をしたのだった。
 案の定、まわりの連中は、
「なんじゃ、そりゃ」
 という愛想が尽きたとでも言いたげな顔に、今度は却って、
「こいつらの方が程度は低いのかも知れないな」
 と感じた。
 本当は違うのだと思いたいが、ほとんどの犯罪者というと、
「自分の理屈で勝手な犯行を犯した」
 であったり。
「何かをしないとどうにもならない精神的に追い込まれた状態になり、犯罪を犯した時には、情緒が不安定だった」
 というような連中ばかりを相手にしていることで、自分たちもそんな連中に、知らず知らずに気持ちを合わせることで、自分たちまで程度の低い世界にいざなわれてしまっていることに気づいていないのだろう。
 それも、毎日のようにである。
 最初こそ、意地になって、
「染まってはいけない」
 と思っていたとしても、気が付けば、どうしようもなくなってしまうのではないだろうか。
 それを思うと、今のこの状況は、自分がら飛び込んだとはいえ。あまりいいことではないと思えてならないのだ。
「だけど、俺たちにはそんな音は聞こえないけどな」
 と、最初は何があったのか? とばかりに顔を見合わせていたが、まるでアイコンタクトができたかのように、一人がいった。
 いくらアイコンタクトであったとはいえ、実際に他の人に聞いたわけでもないのに、
「俺たちには」
 という言葉はあまりにも強引だといえるのではないだろうか。
 そして、しかも、まわりもそのことに一言も反論がないということは、分かっていたことではあったが、
「まさか、たった一人の意見を、全員の意見とまでするようなことになるなど、思ってもみなかった」
 というのと同じではないだろうか?
 そう、
「自分たちには、聞こえなかった」
 ということなのであろうが、せめて、聴いてほしかったという思いが強く、それは逆に、
作品名:殺人前交換の殺人 作家名:森本晃次