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殺人前交換の殺人

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 こちらから見ると、正直、配達員は戸惑っているようだった。刑事の質問がマシンガンのようで、それに対応することができないということであろうか?
 刑事の方は、
「取り調べのプロ」
 であり、特に初動捜査というと、まだ何も分かっていないということから、聴く内容というのは、
「ほぼ同じだ」
 といってもいいだろう。
 そういう意味で、聴かれている方は、慣れていないだけに、戸惑うのも当然だ。
 しかも、一生に一度出会うかどうか分からない死体を見たのだから、そのショックは計り知れないものがあるに違いない。
 配達員はそれでも、下を向きながら、何かを思い出しているようだった。彼は彼なりに、警察の質問に、真剣に答えようとしているということであろう。
「どうすればいいというのか?」
 と頭を掻いているのは、尋問している刑事の方だった。
 どうやら、期待しているような答えを得ることができないようだった。
 だが、こちらも、向こうを気にしている場合ではない。管理人が、あてにならないとすれば、後は、近所の聞き込みになるのか、それとも、マンション内の住人の聞き込みになるのか。
 管理人だって、さすがに殺人事件の捜査であるから、住人に、
「余計なことは聞かないで」
 とは言えないだろう。
「人が殺されているんだ」
 といえば、たいていの人は神妙になるだろうが、だからと言って、期待できる答えが返ってくるという保証はまったくない。
 管理人の話があてにならない。そして第一発見者も、実際には、エントランスの中に入ったわけではない。表から見て、殺されているのが分かったことと、静寂の中での緊張感が、密室となっている場所で、呼吸困難な状態となり、大人でありながらも、恐ろしさに身体が震えたということであろう。
 ただ、重要な資料として防犯カメラが貸与されたことは有難いことであり、さっそく署に戻ってその解析を急ぐことと、現地での、聞き込みを行うための捜査員が数名残ることになるのだった。
 ただ、一つ分かっていることとして、
「新聞配達の人が遺体を発見したのだから、それも壁を隔てたところから、垣間見るようにして発見できたのだから、マンションの住人がオートロックを使って、エントランスからエレベータに向かったとすれば、遺体が嫌でも見つかるはずである」
 ということが分かる。
 しかし、第一発見者は新聞配達員であり、それまでに誰も通報してくる人はいなかった。 
 もし、誰かが遺体を発見していて、それでも警察に通報しなかったのだということであれば、考えられることとすれば、
「本来の第一発見者とすれば、そこにあった死体が誰であるかを少なくとも知っていたのではないか?」
 ということが考えられる。
 しかも、その結びつきは、尋常なものでなく、
「警察が捜査すれば、簡単に被害者との接点が分かることで、偶然とはいえ、第一発見者ということになれば、容疑者の一人として、かなりの追及になるのではないか?」
 と考えられるであろう。
 だが、
「警察の捜査で、すぐに分かってしまうのだから、却って、発見しておきながら、それを無視したという方が、怪しまれるだろう」
 ということを失念していたとも考えられる。
「死体を発見して、戸惑ってしまったというのもあるのだろうが、その時、防犯カメラというものの存在にピンとこなかったのだとすれば、ある程度の年齢のいった人か、逆に若すぎるくらいの、あまり機転の利かない年齢の人間なのかも知れない」
 ということも言えるだろう。
 刑事はそのあたりを考えていると、
「もし、そういうことがあったとすれば、本来の第一発見者は、今何を考えているだろう?」
 という思いであった。
 もちろん、何も考えていない可能性もある、あの場で警察を呼ばなかったことで、少なくとも、今は蚊帳の外である。ただ、自分に関係のある人が殺されていたのであれば、
「いずれは警察が自分をマークすることになるだろう」
 と考えるのは必至であり、後はその人が、どれほどしらを切れるような性格なのかどうかということである。
 どちらにしても、そういう状況が存在したのだとすれば、できるかどうか分からないが、第一発見者になり損ねた男は、必死になって、しらを切ろうとするに違いない。
 ただ、今のところ、まだ早朝のことなので、たたき起こすような真似ができるはずもない。
 そのうちに通勤のために、エントランスに降りてくる人もいるだろうから、まずは、それからのことである。
 時計を見ると、まだ、5時すぎくらいであった。
 第一発見者が、このあたりの配達時間は、大体、いつも、3時半くらいだという。発見して警察に通報し、警察がやってきて、現場検証、簡単な聞き込み、そして管理人が駆けつけてきてから、防犯カメラの映像を拝借するまでの間が、約2時間弱だったということになるのだろう。
「まあ、妥当な時間か」
 ということを、そこに残った刑事は感じた。
 どちらにしても、捜査とすれば、7時をすぎないとできないことは分かっているので、とりあえず、待つしかなかった。
 この場所で、もし、じっと冷静に見ていた人がいるとすると、死体発見からここまでの時間が慌ただしく過ぎたことで、ここからまた静寂の2時間を過ごすと思うと、また、呼吸困難になりそうな時間を過ごさないといけないということになるのだろう。
 そんなことを考えていると、刑事は少しこの時間を持て余しそうで、少し気持ち悪かった。
 遺体はすでに、警察車両が運び出し、園と安推は、仕切り線の、紐が掛けられ、遺体があった付近は立ち入り禁止ということになった。
 出口は一か所しかなく、しかもオートロックになっているので。遺体があった一部しか立ち入り禁止にできないことから、初動捜査による鑑識の捜査は、重要だった。
 エントランスの立ち入り禁止にできない部分を、再度調査はできないということだからである。
 しかし、そういう捜査は、今までになかったわけではない。過去にも何度かあり、そのノウハウが残っていることから、今回も鑑識はてきぱきと行われた。
 時間帯が早朝だったというのも、幸いなことで、もし、これが他の特に朝夕の出入りが頻繁な時であれば、大変なことだったのかも知れない。
 もっとも、昼間であれば、野次馬が多かったともいえることであり、逆に、捜査は淡々と行えたので、こちらもスムーズだったのかも知れない。
 問題は、朝の通勤時間帯で、住民の目が捜査員に集中することで、あまりいい気分はしなかったのではないだろうか。
 警察の捜査というのが、どれほどのものなのかというのは、住民には分からない。今回は、鑑識による初動捜査は、早朝の誰のいない時間帯だったので、野次馬すらおらず、静寂の中、時を刻む時計の音だけが響いているような気がした。
 とはいえ、最近ではめっきり見ることのなくなった。アナログ時計。
「長針と短針があって、さらに秒針がある時計など、見かけなくなった」
 と言える。
 特に、ケイタイが普及してからこっち、腕時計もしている人はそんなにいないではないか。
 なぜなら、
「ケイタイやスマホで時間は確認できる」
 というものだ。
作品名:殺人前交換の殺人 作家名:森本晃次