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殺人前交換の殺人

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 この能力を発見したのは、高校生の頃だっただろうか?
 どうやら、不良連中が、自分が友達だと思っていたやつを、襲撃するかのような話をしているのを聞いた。
 その時、その友達だと思っていたやつは、
「いやいや、そんなことはないだろう」
 といっていた。
 彼は、自尊心が強く、
「人から信頼されることはあっても、襲撃などありえない」
 と思っていたのだ。
 だが、実際に襲撃されるということが、その直前に分かって、彼は何を逃れたのだが、その時になって、やっと、彼の言葉が信じられると思ったのだ。
「すまない、もっと真剣に聞いていればよかったんだな」
 と、その友達だと思っていたやつは言った。
「これからは、君のいうことを、全面的に信じるようにしよう」
 といって、完全に下手に出るようになったのだ。
 それまでは、完全に上から目線だったのに、何をこんなに裏を返したようになったというのか、それを考えると、
「俺は、こんな能力を持っていたんだ」
 ということで、有頂天になっていたのだ。
 しかも、まるで、
「子分ができた」
 というような気分だったので、有頂天になると、気持ちが大きくなって、人のことをすべて信じるというような気持ちに陥るのであった。
 だが、実際に信用してくれる、
「子分のようなやつ」
 ができたことで、
「俺は、この力を使えば、リーダー格になれるかも知れない」
 と感じたのだ。
 そもそも、
「リーダー格などになりたい」
 などということを考えたこともなかった。
 リーダー核になるということは、
「人を洗脳できるのではないか?」
 と考えることであり、まるで、新興宗教の教祖にでもなったような気分であった。
「新興宗教の教祖がどれほど怖いものか?」
 さらに、
「どれほど、人から嫌われる」
 というものかということを考えるのであった。
 ただ、
「俺だって、一度くらいは、人を従えて、教祖のように崇め祀られてみたいと思うことだってあってもいいだろう」
 と思っていた。
 もちろん、本当に教祖のようになってしまうと、自分一人だけの身体ではないということになるので、教祖のようになるとすれば、まるでシンデレラのように、
「今日一日だけ、教祖気分が味わえればいい」
 という、
「夢のような話」
 だったのである。
「まるで、一日駅長や、一日署長のようなものではないか?」
 ということであった。
 そういえば、アイドルや芸能人が、イベントなどの営業で、
「一日駅長や一日署長」
 として、制服を着て、たすきをかけて、笑顔で敬礼をしている写真を見ると、ほのぼのした気分になる。
 それと違って、
「一日教祖」
 などというのは、明らかに、胡散臭いといえるだろう。
 ただ、あくまでも、夢の世界での話である。
 夢の世界でなければ、いくら有頂天な気分と言えども、教祖になどなると、
「その後の自分の人生を狂わす」
 ということになるのは、分かり切っていることである。
 以前、昭和の時代の映画で、新興宗教の話を映画化したものがあった。
 やっていることは明らかに詐欺、そして、その宗教団体は、大道芸人のように、一定の時期、その土地で活動すれば、まるで夜逃げのように、さっさとどこかに消えてしまうのだ。
 しかも、その間に、信者になった連中から、
「お布施」
 というようなお題目で、お金をせしめていたのだ。
 さらに、彼らのやり方は、
「教祖がその土地土地で違うということである」
 教祖候補は、5人くらいいて、次の土地に移った時、前の土地で教祖をやった者以外で、
「じゃんけん」
 をするのだった。
 もちろん、信者だった人たち、あるいは、これから信者になろうとしている候補者の連中には絶対に見せられないことである。
 ただ、
「じゃんけんというのは、一番公平であり、余計なことを考えず、神様が公平に決めてくださるものだから、一番信頼できるのだ」
 というのが、宗教団体の考えだった。
 ただ、言われてみれば、この考えが一番信憑性があるというのではないだろうか?
 なぜなら、
「人間は、神様を拝み奉っているのだから、神様は人間よりも偉い。だとすると、人間の合議よりも、神様がお決めになるじゃんけんの方が、よほど、信憑性がある」
 ということで、皆が納得することだった。
 もちろん、宗教に入信した連中にも同じことを説いて信じさせる。
 それが教祖の役目であり、実際に、そんな修行を積んだわけでもなく、
「信者になった連中を騙す」
 という目的でやっているのだから、じゃんけんの件など、
「どの口がいう」
 というのと同じではないだろうか?
 それを考えると、宗教団体がいっていることは、ある意味、的を得ている。騙しやすいのは、
「自分たちと同じ人間だ」
 ということで、考えるからではないだろうか?
 人間が人間を信じるのと同じで、
「人間が人間を騙す」
 というのは、実に楽なことなのかも知れない。

                 デジタルとアナログ

 管理人が来たところで、まず、管理人も一瞬その状況を見てビックリしていた。被害者がうつ伏せになって倒れていて、その背中には、鋭利なナイフが突き刺さっている。まるでドラマや映画のシーンよりもリアルな状況に、すっかり飲み込まれている様子の管理人であった。
 警察の方も、管理人が落ち着くのを待って、質問した。まず一番の問題は、
「被害者の身元」
 ではないだろうか?
「この人に見覚えはありますか?」
 と聞かれて、管理人は、男の顔を覗き込んだが、さすがに断末魔の表情を、そんなにまじまじと見るほど気持ちの悪いものはなかった。
「いいえ、分かりませんね」
 というと、刑事が、
「じゃあ、住人の方ではないということでしょうか?」
 と聞かれたので、
「いいえ、ハッキリと分かりません。管理をしているといっても、毎日住人と顔を合わせているわけではないですし、ここの管理は基本的に、管理人が常駐しているわけでもありません。もし常駐しているとしても、マンション内の人を皆覚えているわけでもないし、家族がおられる方は、どこの人かということも分かりません。カギを部屋から開けてしまえば、配達の人、あるいは、お友達がこられたとしても、我々には区別がつきませんからね。特に最近は、このパンデミックのせいで、宅配は増えるし、逆に、住民が出かけていくということも減りましたので、それこそ、誰が誰か分からない状態だといってもいいでしょう」
 と、管理人が言った。
「なるほど」
 と刑事がいうと、
「そうですよ。最近では、個人情報の保護であったり、ストーカー防止の観点から、あまり管理人と言っても、それぞれの家庭に踏み込むなんてことできませんからね。分かるわけもないというのが、実情ですね」
 と管理人は言った。
「そうですよね」
 といって刑事が少し落胆していると、
「ただ、私は、その人を見たという記憶はありませんね。そういえば、あそこにいるのは新聞屋さんじゃないですか?」
 といって、第一発見者を見ると、新聞屋が、もう一人の刑事の質問に答えていた。
作品名:殺人前交換の殺人 作家名:森本晃次