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二人二役

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 国政は国政でいろいろあるのだろうが、F市においても、やっと検討委員会が発足し、近くの大学の先生や、国立大学から、発掘調査でやってきている調査団も入ってきているので、正直、市長も、
「こんなに盛り上がっているんだ」
 というのが、本音なのかも知れない。
 というのも、発掘研究の方でも、ちょっとしたバトルがあるのだ。
 もちろん、それくらいのことがあることは想定内だったが、それはあくまでも、
「地元と国立としてのプライドのぶつかり合いであって、実際の発掘内容についての議論が白熱するなど、想像もしていなかったのだ。
 そのせいもあってか、功を奏してというべきか、
「お互いに、話は白熱し、しかも、お互いの意地からなのか、それぞれに、まるで重箱の隅をつつくような話になっていた。分かり切っていることは、お前たちも分かっているだろうとでもいいたげで、こっちは、何も分かっていないのに」
 という感覚だったのだ。
 そういう意味では、まるで、
「子供の喧嘩」
 だったのだ。
 だが、本当はそれでいいのかも知れない。
 検討委員会が、学術会議か、有識者会議のようにあったが、それはそれで悪いことではない。
 市の職員の中には、歴史に詳しい人ももちろんいて、密かに、郷土史の勉強をしている人もいた。
 それだけ、市役所の仕事に興味を持ったというか、熱心にやっているのかも知れない。
 そんな人もいなければ、市としての最終判断ができないことになる。
 いくら有識者が、
「建設願望」
 を強くしたとしても、最終的に決めるのは、市側である。
 そして、その最終決定権を持っているのは市長なので、市長に進言できるくらいの人がいないと、問題は、
「あの市長」
 ということになり、結果、
「人気取りでどっちが有利なのか?」
 ということになりかねないといってもいいだろう。
 であれば、市側の判断を市長にすべて任せるのも恐ろしいことだ。
 教育という観点。さらに市長を抑止するという目的を持ったとしても、市長に進言できるだけの人物の抑制が、市議会としては、急務だったといえるだろう。
 彼は、本当に郷土史に関して勉強していた。
 学者の先生たちは、
「城郭や、それに関係する歴史は詳しいが、この土地についての知識には乏しい」
 だから、市の、
「郷土史研究家」
 を仲間に引き入れるかたちで、この委員会を盛り上げていなかければならないと思うのだった。
 市長の悪しきウワサは、有識者の耳にも入っていて、学校側から、
「あまりあの市長を信用してはいけない。しょせんは人気取りしか考えていない穴うさー上がりなんだから」
 と言われていたのだった。
「人気取り」
 であったり。
「票集め」
 というのが、市長にとって大切なことだということは、理屈としては分かる。
 しかし、自分の信念を曲げたり、当初の目標を忘れてまで考える必要があるのだろうか?
 アナウンサーを辞めてまで、お金を掛けた上で、選挙に出馬するというのだ。
 出るだけで、数百万かかるのに、落選してしまえば、返却されるものでもない。
 それを思うと、
「そこまでして、市長になりたいということは、よほど、うま味があるんだろうな?」
 ということであった。
 しかし、普通にテレビに出てくるのは、確かにイベントなどで笑いながら出てきている時もあるが、ほとんどは、釈明会見が多い。
「平和な時はでてこないが、何かあった時だけ出てきて、必死に謝っている姿というイメージしかないので、市長になって何がいいことがあるというのか?」
 と思えてならなかったのだ。
 そういう意味では、
「天守の再建」
 くらいは、ねつぃいたいしたことはない。
 確かに、市の予算を使って行う大イベントに、巨大プロジェクトではあるが、市長として、人気に影響するかどうかも分からない。
「大体計画を立ててから、実際に再建するまでに、どれだけの時間がかかったというのだろう?」
 戦国時代から江戸時代までは、いろいろ見ていると、5年から、7年というところが大体の目安ではないだろうか?
 しかも、夜の月明かりで工事などの危険がことができるはずもない。何しろ絶対に、手抜き工事は許されない。もしやってしまうと、最期は命取りになるだけだ。
 相手が攻めてきた時に防げなかったり。たくさんの兵に持ちこたえられずに、壊れてしまったりすれば、
「何のための城なのか?」
 ということになってしまう。
 せっかく建てた城が崩壊してしまうのは、もう、終わりだということを示しているようなものである。
 確かに、相手を倒すのに、侵入を防ぐということで、わざと橋を、
「数十人で載れば、壊れる仕掛けにしておいた」
 というのもありだろう。
 まるで、
「石落とし」
 と同じくらいの理屈だといってもいいだろう。
 今回の検討委員会で、一つ大きな問題が出た。
「ここに、一つ昔の文献などから判断して、こちらの方で設計図を作成してみたのですが」
 といって、国立大学の研究チームは口ごもった。
 それを見た、市の運営委員は、少し怪訝な顔をして、
「どうされたんですか? 何か問題でも?」
 と聞くと、
「ええ、まあ、少し問題がありまして」
 ということで、聴いてみると、
「実は、天守閣を再建するための天守台が、最近の発掘で発見されたのですが、それと、地元に残る郷土史の資料と照らし合わせたのですが、どうも、資料を基に再建を考えると、どうしても、天守台よりも、天守の方が大きく感じられ、どうもうまくいかないと思われるんです」
 というのであった。
「ということは、何かが違っているので、工事は進まないということですか?」
 というと、
「ええ、それを解決しないと、天守の再建はできません」
 といって、地元の研究員の方の顔を見ると、察したかのように、
「それはそうでしょうね。一度ここで立ち止まって、このことを解決していかないと、将来において同じことで問題が出てくるかも知れない。そうなってしまうと、完全に本末転倒でしかないですからね」
 というのであった。
「分かりました。その件に関しては、大学研究員の先生の方にお任せいたしましょう」
 と市長はいうのだった。
 次は、公園整備についての話なので、市側の問題であった。
「いかがですか? 買収の方はうまくいってますか?」
 と、土地の問題の話だった。
「ええ、公園の主要な土地の買収は終わり、今のところ、問題なく推移していますので、ご安心ください」
 ということであった。
 市長は軽く頷くと、安心したような顔をした。
 その日の会議はこれと言った進展もなく終わった。
 しかし、その公園を管理している会社から、市長あてに電話がかかってきた。普通は、市長にいきなりかかってくるということはないのだが、その時は電話に出てみると、その瞬間、何か不思議な雰囲気を感じたのだ。
「どうしましたか? 私にいきなり直通などというのは、基本的にはありえないはずですが?」
 と市長は一応、
「私は落ち着いているんだ」
 とでも言わんばかりに、まるで自分にそれを言い聞かせるように、相手に言った。
 相手は、少しは落ち着きを取り戻したのか、
作品名:二人二役 作家名:森本晃次