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二人二役

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「市長、すみません。お忙しいところを、私は、N城址公園管理グループの宮前おいいます。先ほど問題が発生しまして、急遽、市長に出羽をしなければいけなくなったんですよ」
 といって、宮前はそれでも何か遠慮がちに話をした。
 宮前とは初めての会話のはずであるが、なぜか、その時の宮前の様子が、何となくであるが分かった気がしたのだ。
 市長はそれを察すると、
「宮前さん、そこに誰かおられるんですか?」
 と市長が聞くと、宮前は、
「助かった」
 という思いがあったのか、すぐに安堵のため息をするのだった。
 それを市長も分かったので。しばらく聞き耳を立てていると、
「もう、いいですよ。代わってください」
 という冷静な声が飛び込んできた。
 電話口に出たのは、一人の紳士のようで、
「ああ、すみまえん。F市市長の、平松さんですか?」
 というではないか。
「ええ、私が平松ですが」
 というと、男は、
「こちらは、F署警察の捜査一課、桜井警部補と言います。実は、先ほど、今から1時間くらい前でしょうか? ここのN城址公園にて、白骨死体が見つかったので、そのご報告をしたいと思いましてね」
 というではないか。
「え? 白骨死体? それは殺人だったんでしょうか?」
 と聞くと、
「詳しくは解剖の結果待ちになりますが、どちらの可能性もあります。何しろ白骨化しているので、何とも判別ができない感じですね、それで市長にこの公園の管理等を含めていろいろ伺いたいと思いまして」
 ということであった。
 会議が終わった後ではあったが、このあと、市議会お定例会が予定されている。それを放っておいて、現場い駆けつけるわけにもいかない。ただ。それでも殺人ということになれば、放ってもおけず、少しでも身動きが取れるようにしておかなければいけないだろう。
 警察が動き出した事件ともなれば、自分がテレビに出なければいけないことになるかも知れない。
「さすがにいつものように逃げるわけにもいくまい」
 と市長は思った。
 とにかく、この市長は面倒臭いことが嫌いで、逃げ出したのも、
「世界的なパンデミック」
 の時のように、
「明らかに攻められる」
 という状態であれば、最初から逃げ出すが、それ以外に、
「ただ、テレビに出ればいいだけだ」
 という時でさえ、面倒臭いと思っていた。
 それは、アナウンサーだった頃の反動で、今度はカメラに映るほうにあると、億劫な気分になることが多いからだった。
 一種のトラウマのようなもので、アナウンサー時代に、精神的にテレビに出たくない時であっても、アナウンサーが出ないわけにはいかない。それを思うと、平松は、
「最初から、面倒なことはしない」
 と考えるようになっていたのだ。
 アナウンサーという職業は、
「モテたいがために勉強してなったのだから、本当は市長なんかやるよりも、アナウンサーに戻りたいな」
 と思うことが多かった。
 逆に今がいいと思う時もあるが、圧倒的にアナウンサーを懐かしいと思うことの方が多い。
 だが、トラウマというのはいかんともしがたく、結果、イライラした時間が次第に増えて行ったのだった。
 ただ、アナウンサーに戻りたいなど、決して思ってはいけない。なぜ、自分がこんなに市長の椅子にこだわるのか、最近では分からなくなっていた。
「世界的なパンデミック」
 この言葉がキーワードであることは間違いない。
 確かに最近は、パンデミックのせいで、眠れない夜を過ごしたり、寝ていて、自分がマスゴミや世間から非難されて、次第に自分が追い詰められていくのを感じる、
 特に夢の中に出てくるマスゴミの、
「囲み取材」
 の中で、一番前でインタビューをするのに、マイクを向けているのは、何と自分ではないか。
「市長、何か一言」
 といって、マイクを容赦なく突き付けてくる。
 一瞬目をつぶった瞬間に、今度は自分の視線がアナウンサーにあって、市長である自分を責めている。そう、数十年前に戻ったかのようだ。
 また、目をつぶると、今度は視線が戻っていて、アナウンサーの集団を見ると、今度は全員が自分になっているではないか?
 そして、
「これは夢なんだ」
 と思った瞬間に、目が覚めたのだった。
 汗をぐっしょり掻いていて、
「はあはあ」
 と息を漏らしている。
 隣で女房が寝ていて、寝返りを打っている。
「え?」
 またしても、平松はビックリした。
 平松は今は、奥さんと離婚して一人暮らしをしていた。あの選挙運動の時にしてしまった不倫がバレて、奥さんとは離婚したではないか。
 あれから、結婚はしていない。奥さんがいなくなって、却って気が楽になり、女遊びははげしくなった。
 とはいえ、市長という肩書があるので、下手なことはできない。大衆風俗など、もっての他だったのだ。
 思ったよりも市長の仕事は忙しく、女遊びをするにしても、時間が限られてしまう。だから、そのあたりをコントロールするのも秘書の仕事のようで、風俗や女遊びまでコントロールされているのだった。
 最初は、
「息苦しいな」
 と思っていたが、慣れてくると、
「こんなに楽なことはないじゃないか」
 と感じるようになった。
 自分のまわりにいる女は、
「ひょっとすると、皆市長選用の女ということなのかも知れない」
 と思うと、まるで昔の殿様が、側室を相手にしているかのような錯覚に陥るのだった。
 昔の側室というのは、目的は、
「性欲をコントロール」
 というよりも、
「お世継ぎ問題」
 というのが深いのではないかと思われる。
 過去の歴史を考えた時、正室にも側室にも男の子、つまり世継ぎが生まれなかった時、どのような事件が起こったのかということを思い出すと。それも仕方のないことなのかも知れない。
 世継ぎができないということで、自分で割り切ってしまい。
「わしもいつまでも若いわけではない。いつ、コロッと行くかも分からないし」
 ということで弱気になって、世継ぎを決めるのだ。
 前述にもあるが、室町幕府八代将軍、足利義政が、世継ぎができないことで、出家していた弟を還俗させて、自分の養子ということにして、将軍職をいずれは譲るということにしていたが、実際にすぐに、正室の日野富子が、世継ぎを生んだ。
 それにより、養子側と正室が生んだ子供の、それぞれの後見役がいがみ合っていたこともあり、戦に発展した。
 それは、京の街を灰にすることになってしまった、
「応仁の乱」
 である。
 この戦では、全国の守護大名が、東軍、西軍のどちらかに属し、戦を行っていたので、領国を離れての京での戦であった。
 そのため、自国を長年留守にすることで、自国内で反乱がおこるという問題が起きてきた。いわゆる、
「尻に火がついた」
 という状態であった。
 しかも、西軍、東軍に別れて、最初に戦を始めた首謀者が、ことごとく死んでしまったのだ。
 こうなっては、もう戦を続ける理由もなく、急いで、戦をしていた大名は領国に戻り、反乱を抑える必要に駆られたのだ。
 これにより、世の中では、下のものが、上に反乱を起こし、取って変わるという、
「下克上」
作品名:二人二役 作家名:森本晃次