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二人二役

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「ここに描かれている絵は、歴史的な発見に大いなる一歩を示すものになるだろう」
 ということで、その絵の研究が、持ち主の許可の元、行われた。
 もちろん、借りるわけだから、相当な金銭が所有者にもたらされたことはいうまでもない。
「この絵に描かれているのは、N城のことですよね?」
 と専門家が聞くと、
「ええ、そのように聞いています。うちには絵巻や文書も残っているので、それも、お貸ししましょう」
 ということで、早速持ち込まれての、歴史的調査が行われた。
 実際に調べてみると、
「どうやら、あそこに天守らしきものがあったという都市伝説のようなものがウソではないということが証明されたかのようですね」
 ということになってきた。
「それはすごい」
 と言っているちょうどその時、その話を聞きつけた隣の県の研究者が、
「うちの藩の歴史書から、N城を攻めた時、天守があったという書物が見つかったんだけど、それらしきものはないということで、我々は結論づけたんだけど、今皆さんが調査しておられることは、こちらの研究が一度断念せざるを得なかった状況を覆す。大変な大発見であるということになるんですよ」
 というのだった。
 そんな噂もあることから、市の方では、市長を中心に、検討委員会が開かれることになった。
 ここの市長は、任期からすれば、結構長い。元々、アナウンサー出身で、
「アナウンサーの頃から、甘いマスクで主婦層あたりから人気がある」
 と言われていたが、陰でいろいろなウワサも聞いたことがあった。
「市長になる前の選挙で、奥さんが選挙運動を手伝ってくれているのをいいことに、選挙応援の他の女生徒不倫をした」
 さらに、
「不倫がバレて離婚問題になった時、不倫はイメージダウンだからといって、奥さんに口止め料を払った」
 などというウワサである。
 どこまで本当のことなのか分からないが、
「火のないところに煙が経たない」
 とも言われるので、
「どちらでもいいや」
 と、興味のない人ほど、信じるのではないだろうか?
 そういう人は、逆に、
「信じるから、興味がなくなってくる」
 のではないだろうか。
 それだけ純真な人なのだろう。そんな人を政治離れにするのだから、ウソだろうが本当だろうが、市長は、市長であるがゆえに、
「その罪は重い」
 と言えるのではないだろうか?
 そんな市長は、昨今の、
「世界的なパンデミック」
 が巻き起こった時、SNS上などでは、
「逃げる市長」
 として有名になった。
「あいつは、自分の手柄になるような時は、すぐにしゃしゃり出て、テレビに出ようとするが、今回のような自分がやり玉にあがりそうな時は、絶対にテレビに出てくることはないよな」
 というものであった。
 確かに、自治体としてマスコミの前に出るのは、県知事であった。すべての決定権は国にあるのだろうが、それを申請することができるのは、都道福家知事だけである。
 しかし、流行が加速すれば、普通は県庁所在地の市長であれば、危機感からマスコミの前に出て、せめて、市民に対して、
「何に気を付けるべきなのか?」
 などということを、率先して発表することは絶対に必要である。
 しかし、その市長は、まったく出てこようとしない。
「あいつも罹って、うめいているんじゃないか?」
 などと言われたりもしたが、どうでもいい番組に、マスクを嵌めて出ていることがあったので、
「なんじゃ、結局逃げているだけか」
 ということで、さらに、市民に敵を作ることになるのを、あの市長は分かっているのだろうか?
 アナウンサー時代は、夜など、キャバクラなどを梯子していたらしいが、市長になって公務が忙しく、そこまではできないのだろう。
「それにしても、市長というのは、そんなに何期も続けるほど、いいものなのだろうか?」
 と思うが、果たしてどうなのだろう?
 そんな市長が、今回の城が注目されたことで、慌てて、検討委員会を発足したが、実は最初から乗り気でもなかったようだ。
 そもそも、お城になど興味があるわけでもなく、ただ、有識者や、歴史研究家たちが、騒いでいるので、一応、何らかの対策をしないといけないと思ったのだろう。
 ここらあたりでは、
「有識者や研究家などの、大学教授などを敵に回すと、市長選では不利になるので、決して敵に回してはならない」
 と言われているようだった。
 そのことは、最初から分かっていて、今まで敵に回すことがなかったので、奥様連中からの人気と合わせ、今のところ、他に有力候補もいないことから、
「市長の座は安泰だ」
 ということであった。
 ただ、市長は、今回の件に関してはあまり乗り気ではない。
 少なくとも、市の財政を圧迫する事業であることは間違いない。だから、市だけでどうなるものでもなく、資金面では、県や国に協力を仰いだり、さらには、有力企業にスポンサーになってもらう必要があった。
 もし、再建ということになれば、それらの協力は最低限必要で、それがかなわなければ、どうなるものでもないというのが、検討委員会の結論だった。
 では、
「本当に再建に向けて、前進するのだろうか?」
 ということであったが、やはり研究者や有識者は、
「再建は必須事項ではないか?」
 ということであった。
 というのも、F城の方は、
「資料が少ない」
 という理由で却下した。
 もちろん、それは苦しいいいわけであって、本当の理由が、
「市には、そんなものに使う金はない。俺たちがポケットに入れる金がなくなるではないか?」
 ということであったが、死んでも口にできないことで、バレることは完全な命取りになるということである。
 F城の時は何とかごまかせたが、今度も、まさか同じ理由で却下することはできない。そんなことをすれば、F城の時のことも、今さら引きずり出されて、せっかくうまくごまかせたことが、そうもいかなくなるのだ。
 そういう意味で、N城天守の再建は、F城の時のように簡単に、
「再建しない」
 と、議会で決めることもできない。
 たぶん、あの時ほど簡単にはいかず。議員の中には、あの時に再建に反対した人も、今回は賛成にまわるということになるだろう。
 そうなると、
「議会を開いてしまうと、もう終わりで、再建するということに、自動的に決まってしまい、市長としても、腹をくくるしかない」
 ということになるであろう。
 そのことは市長も十分に分かっていて、それで何とか、
「議会を開く前で、検討委員会にて、審議の材料を集めよう」
 ということにして、ワンクッション置いたのだ。
 しかし、このクッションが決して、市長がもくろんだものではなかったようで、検討委員会を開けば開くほど、
「再建賛成の証拠」
 となるものが、次々に出てくるのだった。
 それを思えば、
「俺は自分で自分の首を絞めたことになるのか?」
 と思ったが、やはり、検討委員会は開かないわけにはいかなかったのだろう。
 市長は、検討委員会を発足させたことで、
「あれだけ逃げ回っていた市長も、ちゃんとやることはやっているんだな」
 と、少しだけであるが、一目置かれたのはよかったのだろう。
 もし、ここで委員会を開かなければ。
作品名:二人二役 作家名:森本晃次