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二人二役

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 と言っていたではないか。
 実際には、そんな詳しいことまで知らない人間でも、犯罪を企むうえで、ある程度の年配なら、ある程度まで、いろいろな方向から計画を検討し、シミュレーションもするだろう。
 若い人間がしないとは思うが、問題は、
「思い込みが若い連中にはある」
 ということである。
「まさか、城址公園の土が、特殊なものだとは思ってもみなかった」
 というに違いない。
 ある程度からの年齢であれば、犯罪計画の時点で、そのことは頭に入っていているだろう。
 しかし、もし若いやつが計画したのであれば、
「城址公園のような場所が誰にも掘り起こされることがなく、文化財を壊したということで、触ることもおこがましいと思うことで、一番安全な隠し場所だ」
 と思い込むはずだ。
 しかし、その思い込みが、すべての自信となり、まさか地質の違いを意識するなどというところまでは頭が回らない。それだけ、計画に無理はないという自信と奢りに有頂天になったことだろう。
 そもそも、昔の城の設計者というのは、
「城のような巨大な建物を建て、そこを根拠にしたり、戦争の舞台となるわけだから、ただの屋敷を作るよりもさらに、頑強なところが必要になる」
 ということで、当然土の成分も、他の場所とは違った、頑丈な建物を建設するに堪えうる場所が必要なのは分かり切ったことであるだろう。
 それを思うと、
「ここの地質と、他の場所の地質とでは違うのも当たり前」
 ということで、しかも、場合によっては、敵の侵入を抑えるための地質ということであれば、余計に、他と地質が違っていると思うのは、当たり前のことであろう。
 犯人はそのことを、計算に入れていなかったとしても、無理はないかも知れない。
 それが、
「若さゆえ」
 のことなのかどうかは、分からない。
 ただ、もしそうではなく、他の考えが浮かぶとすれば、
「今回の白骨死体埋蔵は、何かの予行演習ではないか?」
 と思えてならなかった。
 しかもそれを裏付けるかのように、
「また、少し離れたところで、白骨死体が発見された」
 というのだ。
 しかも、それは、すぐに発見されるような感じだったというのもおかしなものだ。
 なぜなら、そのあたりまで警察が捜査をしているので、何もなかったのは分かっている。それなのに埋めたというのは、
「一番隠しやすい場所」
 ということを計算してのことだったのか。
 今度の白骨は、そこまで時間が経っていないようだ。以前のように、ホルマリンが発見されることも、どこかに埋められていたという印象はないようだった。
 ごまかしなど一切ないので、ある意味、身元はこっちの方が明らかに判明できるだけの材料はあった。
「こっちは、前尾時よりもハッキリしていますね。五体満足でもあり、それぞれに特徴もあるようだからですね」
 という科捜研と警察の聞き込みによって、捜査が続けられた。
 もちろん、野球チームから借りてきた、
「ホームビデオ」
 の解析も行われていることも、当然のことであった。
 そんな状態において、ホームビデオに、映っていた不審な人物を、桜井警部補は思い出した。
「そうだ、あの人物は、以前に空き巣で捕まえたことがあったんだ」
 ということであった。
 それも、ちょうど、
「世界的なパンデミックの最初の波が収まった頃で、ちょうど空き巣が、どんどん検挙されていた時だったかな」
 ということであった。
 つまりは、緊急事態宣言のせいで、強制的な休業となり、会社存続すら危うい状態になり、やむを得ず解雇された人間。
 会社自体がひとたまりもなく、何かをする前に、すでに立ち行かなくなって、一気に倒産してしまったということで、これも、失業者が一気に世間に溢れたということなのだった。
 さらに、今度は二度目の緊急事態宣言においては、そんな失業者が、がら空きになった店に空き巣に入る。そんな時代になり、その中の一人がこの男だったのだ。
 彼は、元々、フリーのカメラマンだった。
 解雇されたわけではないが、まったく仕事が来なくなった。最初からまったく行き詰り。最初の緊急事態宣言の時にすでに、
「犯罪でも起こさなければ、死ぬという選択肢しかないではないか」
 ということだったのだ。
 ただ、彼は人から恨まれるようなことはなかった。
「やつは、まさか、どこかで行き倒れたのではないか?」
 と思えた。
 あの時は逮捕したはいいが、証拠不十分で、釈放となった。
 人道的には、
「無理もないか」
 としか言えなかったが、彼のことを思い出すたびに、この時代の象徴のようで嫌な気分になったことで、無意識に思い出さないようにしていたことで、すぐにピンとこなかったに違いない。
「あのパンデミックのせいで、死ななくてもいい人が簡単に死んでいくんだな」
 と思うと、
「経済を回すことができないと、死んでいく人もたくさん出てくるんだな」
 ということを、いまさらながらに思い知らされることになった。
 パンデミックというものがどういうものなのか、さらに思い知らされた気がした。
 ただ、もしあの白骨死体が、あの時のカメラマンであるとすれば、
「一体何を意味しているのだろう?」
「人間、どこで誰に恨まれているかなど、分かったものではない」
 と言われるが、捜査の段階で、彼が人から恨まれるような人物ではないということは、分かり切っているかのようだった。
「どういうことになるのだろうか?」
 と考えると、科捜研の捜査から、
「最初の事件は何かの予行演習だとすると、あの白骨は、あのカメラマンかも知れない」
 と思い、捜査は、カメラマンの行方にまずは、焦点が絞られた。
 しかも、調べていくうちに、ここ一年くらいの間。
「そういえば、見かけた記憶がないですね」
 という答えしか返ってこなかったのだ。
 事件が進んでいくと、そこに見えてきたのは、
「N城の再建を巡る汚い疑惑」
 だった。
 元々、F城の再建を考えていたにも関わらず、
「市長の鶴の一声」
 で、その計画が却下された。
 しかも、今度は、N城の再建を考えているという。これは、被害者、つまり後から発見された男にとっては、溜まらないことであった。
 この男の身元はすぐに割れた。それにより犯人は、市長だということになったのだが、市長の思惑としては、
「前に見つかった死体との関連から、自分が犯人だと見つかることはない」
 と見込んでいた。
 つまり、まったく事件に関係のない死体を偶然市長が見つけたことで、今回の計画を思いついたのだが、それは、市長が好きで読んでいたミステリーを少し拝借する形だったようだ。
 桜井警部補はそこまでは分からなかったが、
「何か、教科書のようなものがあるのではないか?」
 とは思っていたようで、実際に、市長を取り調べると、
「はい、あの新聞記者を、黒幕に仕立てて、今回の事件を新聞記者と、自分が殺した議員の間のトラブルにしたかったんです。そうすれば、私は安泰だと思ったんです」
 と聞くと、
「じゃあ、白骨が見つかった時は焦ったんじゃありませんか?」
 と刑事に言われると。
作品名:二人二役 作家名:森本晃次