二人二役
「まさか、警察があの男だと断定できるとは思いませんでしたからね。犯人に仕立てた男が見つからなければ、犯人として身を隠していると思うというところでの、ミステリーでは、定番のストーリーになると思ってですね」
と、市長は、観念したかのように話し始めた。
その内容には少しおかしなところもあったが、おおむね話に信憑性はあった。間違いないことだろう。
ただ、桜井警部補が、
「何か、一人二役というよりも、二人一役のような気がするな」
というと、市長はにやりと不気味な表情になり、
「二人二役ですよ」
と、ボソッと言った。
それを見て、桜井警部補はゾッとしたのだが、その瞬間、
「この男、完全に、自分で事件を引き起こしておきながら、まるで他人事という気持ちになっているじゃないか」
と思い、しばらく何も言えなくなったのだった……。
( 完 )
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