一人勝ち
「ルール違反だ」
といって、SNSなどでは、徹底的に攻撃していた。
最初は、自治体も、
「店を閉めなければ、店の名前を公表する」
ということで、それでも閉めなかったので、公表に踏み切ると、何とまったくの逆効果で、朝の開店時間は、
「長蛇の列」
ができあがっていた。
理由は簡単なことで、
「ギャンブル依存症の人たちが、開いている店を求めているのに、その要望に応えるかのように店名を公表すれば、それは当然、人が集まってくるのは当たり前」
というもので、
「他府県ナンバー」
もたくさんあったという。
しかも、大阪の店に、下関から来たという人もいたくらいで、依存症の人は、本当に、
「何があっても、やってくる」
ということなのだろう。
「これが世の中というものだ」
と、店の人は、生き残りをかけて必死だったのだが、ここまで盛況になるとは、さすがに思ってもいなかったであろう。
要するに、
「制裁を加えようとしてやったことであっても、結果として、考えと真逆の事態になることが往々にしてある」
ということだ。
それは、状況を見誤ったり、自分たちの知らない世界を勉強もせずに、自分たちの尺度で考えたりすることでなるに違いないのだった。
それを思うと、逆に、
「美人局をやっている連中も、想像もしていなかった落とし穴があるに違いない」
ということだった。
実は、小平が考えていることは、実に巧妙なことであった。
まずは、相手の二人の所在を見つけ、
「あたかも自分たちが、正体不明の誰かから脅迫を受けている」
というような気にさせることであった。
命に別状ないまでに、攻撃を受けたり、
「もちろん、金にものをいくらでも言わせられるのだから、買収もできるだろうし、防犯カメラだっていくらでも、どうにでもできるというものだ」
ということで、バカップルを追い詰める。
さらに、やつらに対して、
「被害者の情報を引き出させる」
ということを目標にしていた。
やつらは、当然、被害者の目録を持っていることだろう。それをいかに引き出させるかということは、普通に人間が脅迫することであれば、やつらは、そのまま資料を燃やしてしまう可能性もある。
それに、最初に警察に駆け込まれると、厄介なことになるのは必至だったのだ。
となると、少し脅かす形で、幼稚ではあるが、幽霊を信じさせるかのようにすれば、やつらも捨てるのが怖くなるだろうし、身動きが取れないということで、一石二鳥だった。
そういう心理的な攻撃は、小平の専売特許だといってもいいだろう。
「はい、申し訳ありませんでした」
と、やつらは、その資料を渡すだろう。
ただ、それがコピーであっても関係ないのだった。
こちらの目的は、
「被害者がどこの誰なのか?」
ということさえ分かればいいのだ。
「どうせ、金を持った相手に違いない」
と思い、
「だからこそ、被害者を定めることができたのだろうが、復讐、いや制裁を加えるにおいて、同じように、金を持っているということが、こっちにとっても、都合がいいということを、今に思い知ることになるのだ」
ということであった。
小平の計画は、
「被害者連中に、今回のことを引き起こしたのが誰なのか?」
ということを教えることだった。
被害者の方も黙って従っていたのは、犯人グループがどこの誰なのかが分からないから、どうしようもなかったわけで、正体が分かり、しかも、バックに何もついていないということが分かれば、もうこっちのものだと被害者の方も分かったことだろう。
こうなってしまうと、被害者側からの、
「バトルロイヤル」
の開始であった。
「バカップルたちは、金を持っている連中は、必死でスキャンダルを隠したがっているということで、脅迫をしたのだろうが、逆に被害者側からすれば、金を持っていて、相手が確定し、あきらかにこちらが強いということが分かれば、何をするか分からない」
ということである。
被害者側が、
「金を渡してでも、バカップルのいうことを聞いたのは、金で解決できることであれば、金で解決するということであり、それだけ、彼らには守らなければならないものがあるのだ」
ということである。
そうなると、
「今までの恨みも込めて、やつらを殺さないまでも、半殺しにするくらいのことは、否めない」
と思うだろう。
だが、被害者は複数いるわけで、
「俺たち以外に復讐した人がいるからといって、俺たちの恨みが消えたわけではない」
と思うだろう。
つまり、
「他の人が痛めつけても、すぐに完治して病院から出てくる。そこを今度は俺たちが襲う」
ということになり、実は他にも狙っている連中がたくさんいることになる。
彼らが本当の自分たちがしたことに対して恐怖におののくのは、退院してきてからのことになるだろう。
「偶然がこんなに続くわけはない」
ということで、恐れおののいて、三度目に痛い目に遭うと、気が狂わんばかりになり、ひょっとすると、警察に助けを求めに、自首してくるかも知れない。
とはいえ、美人局くらいで、拘留することもないだろう。
何と言っても、被害届が出ていれば彼らに対して、訴訟の問題が起こるわけで、脅迫された方も、
「被害届を出せないから、金を出した」
ということなので、どうすることもできないといってもいい。
被害届が出ていない以上、いくら警察に、
「助けてくれ」
といっても、警察も深くは調べないだろう。
何しろ証拠もないし、人情的に。
「こんな腐った連中のいうことを聞くのもな」
というのが心情ではないだろうか?
それを思うと、せっかく駆け込んだ警察に突き放され、どうすることもできない。
これが、小平の、
「復讐」
だったのだ。
冷徹といえば冷徹だが、自業自得だということに変わりはないのだ。
大団円
そんな復讐劇であったが、そもそも、
「なぜ、勉が引っかかったのか?」
ということについて、小平はずっと引っかかっていた。
さらに、もう一つ引っかかることがあったのだが、それは、
「何となくやり方は雑で、作戦とは言えないような感じであるが、どこか自分と似たところがあるんだよな」
というところであった。
ただ、それは、
「何となく引っかかっている」
というくらいで、それが今回の事件と、どのように引っかかっているのかまでは、分かるわけではなかった。
とにかく、おぼろげながらに何かが分かってきているようなのだが、詳細までは分からない。
ただ、
「もし、分かったとすれば、これほどバカバカしいことはない」
と言えるのではないだろうか。
実際に、ここまででも、
「もしこれが、嫡男でなかったら、バカ中しくて応対などしていられないといえるレベルである」
と思った。
そもそも、
「オンナに美人局で引っかかるなんて、なんて間抜けな。そして、危機感のないといえるのだろう」
と思えた。
「では、一体、俺は何に対して怒りをぶつけているのだろうか?」
と考えると、一目瞭然なことに変わりはないくせに、実際には、怒りをと追い越して、正直、