一人勝ち
奴らにも、一応、
「兄貴」
と呼ばれる、チンピラの長がいた。
この男も正直バカな男で、組織に所属しながら、裏でいろいろ画策し、いずれは、
「独立しよう」
などと思っているのだから、どれほどのお花畑にいるのかということである。
これも、組織にとって、捨て駒の一人と言ってもいいだろう。
最終的に、どこかの組と抗争が起こった時など、いわゆる、
「鉄砲玉として使える」
というくらいに思っていた。
それも無理やりにやらせるわけではなく、
「これができるのはお前だけだ」
あるいは、
「お前がここで手柄を立てれば、お前が一番の出世頭になるんだ」
といって、おだて奉るというわけだ。
そうしておけば、こんな単純男は、
「相手幹部を殺して、警察に自首すれば、数年くらいの刑期を終えて出てくれば、俺は幹部になっているんだ」
というくらいに思っているだろう。
組織からすれば、これほど扱いやすいやつもいない。
実際の組織というのは、もっと最先端を走っているのだ。
こんな昭和のカビの生えたような、テレビドラマでもやらないような、泥臭いことは、組織の中でも頭の悪いやつにやらせるに他ならない。
「こんなことを考えていると、本当に組織というのは、下にいったり、若かったりする方が、頭が固く、昔のままの組織だと思っているのは、本当に滑稽なことだな」
と思っていたのだった。
小平もそんなことは百も承知だ。
だから、小平のような、
「まっとうな会社の重役」
というものが簡単に組織と繋がることができるのだ。
それを思えば、小平も気が楽だった。
お互いに、高貴なところでの話し合いになるからだ。
しかも、お互いに手の内を分かっていながら、探り合っているというのは、見ている分には、その迫力に押し潰されそうで、結構息苦しいものなのかも知れない。
小平は、ややこしい知能犯であれば、組織の力を使って、連中をあぶり出す作戦に出るのだろうが、そんな必要などサラサラなかった。
世の中にいる、ホームレスであったり、自分の情報網として、お小遣いと渡している連中に探らせれば、そんな連中はすぐに見つかる。
「ああ、あのバカップルですね? 最近派手にやってるようですが、我々は構ったりはしませんよ。どうせ、自業自得で、結末は最悪になるのは目に見えていますからね」
というのだった。
「やつらは相変わらずなのかね?」
というと、
「ええ、金を持っていて、しかも、世間にバレるわけにはいかない連中を狙い撃ちですよ。芸能人であったり、有名人、著名人なんかもいますよ。私らから見ると、引っかかる方もどうかしてると思うんですがね」
といって、小平の顔を見ると、何とも言えないような表情をしているので。
「あ、わしの勝手な意見ですので、気にせんでください」
という。
それを見て、
「ああ、いや、いいんだ。さっそくやつらの正体を教えてもらおう」
といって、話を聞いていた。
小平は、
「なぜ、美人局をしているようなバカップルを探しているのか?」
ということを一切話さなった。
訊ねられた男の方としても、小平が余計なことを話さないということは分かっているのだ。
だからこそ、男の方も、余計な詮索をすることもなく、淡々と話した。その分、変な先入観がつくわけではないので、普通に答えることができた男は、気も楽だといえるのではないだろうか?
「あいつら二人のうちの、男の方は、昔からチャラいということで有名だったようです。一度、ホストクラブに就職したようなんですが、すぐに辞めました。店の他のキャストとうまくいかず、スタッフからも嫌われたようです。しかも、客の女の子も、すぐに担当を変えてほしいと言い出すくらいで、最期には逆を怒らせて、首になったという始末だったんですよ」
というではないか。
「ホストクラブというところは、金儲け第一主義なので、その分、ルール、あるいは、暗黙の了解には厳しいからな。その分、キャストもスタッフも洗練されていて、もっともそうでもなければ、ホスト狂いの女たちを操ることはできないだろうからね」
という。
そもそも、ホスト狂いの客というのは、いくつかのパターンがいる。
金は持っているが、家では旦那に対しても、家族に対しても発言権はほとんどないというような、
「寂しいマダム」
である。
お金があるだけに、いくらでも入り浸れるというわけだ。実際の家でも、奥さんの行動は分かっているのかも知れない。しかし、分かっていて、文句は言わない。
「お金を与えるかわりに、一切の口出しをしないということで、これくらいの小遣いだったら、別にかまわないさ」
というところであろうか。
金持ちの家がすべてそうだとは限らないが、彼らのような家庭は、
「血の繋がり」
というのを大切にする。
つまりは、主人から見て、子供たちは血の繋がりがあり、子供たちから見れば、母親の血は、半分流れてはいるが、主人から見れば、奥さんというのは、元々、
「外からやってきた」
というよそ者なのである。
奥さんがいなければ、子供、つまり後継者が生まれない。
そういう意味だけで結婚したも同然だった。
愛情がないとは言わないが、子供ができてからというのは、奥さんというのは、
「邪魔者」
でしかないということであろうか?
だから、
「お金を与えて、適当に遊んでくれる分には別にかまわない」
と思っているので、監視をつけられたうえで、遊ぶ分には、問題ない。
ただ、それが度を過ぎると何をするか分からない。
「金と名誉だけは、失うわけにはいかない」
ということで、奥さんが、家名に傷をつけるような素振りが見えれば、下手をすれば、
「葬っても構わない」
とまで思っているところもあるだろう。
「俺たちは、そんなに甘くないんだ」
という意味で、金持ちの、しかも、伝統のある家庭というのは、
「血も涙もない」
といってもいいだろう。
名誉を守るためであれば、殺人など、悪いことだとは思わない感覚である。
そう、
「ゲーム感覚だ」
といっても過言ではないだろう。
ホスト狂いもほどほどにしておかないと、キャストの方もそれを分かっていないと、ズルズルいってしまうと、
「自分が殺されかねない」
などということを、想像もしていないに違いないだろう。
次にホスト狂いをしている連中は、
「女友達を大切にしているように表からは見えるが、気持ちの上では、ライバル意識をバチバチにさせているような女だ」
と言われる。
だから、そんな女は、友達に嫌われまいという努力はするのだ。友達が、
「ホストに行こう」
というと、逆らうことなく、ついていく。
そして、それまで受けたことのないようなちやほやを、しかも、イケメンから言われるのである。
歯の浮くようなセリフや、あくまでも下手に出るしぐさに、ハマってしまう。
そうなると、
「もう、友達など、どうでもいい」
と言った塩梅である。
しかも、その女たちは、金を持っているわけではない。だから、最初は控えていたのだが、一度ホストを知ってしまうと、ちまちまと女友達に気を遣っていた自分をバカバカしく感じるのだ。