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一人勝ち

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 思い切りベッドから吹っ飛んだ男は、もう、自分がどうなってしまうのかということで頭がいっぱいになってしまった。
「お前は、自分が人の女を誘惑しといて、わしのような男が現れたということで怖くなって、すべての責任をオンナになすりつけようっちゅうんかい? おお、ええで、これから警察にいっても、けどな、こうやってお前たちの姿が写メに写っているんだから、お前はどう言い訳しようっちゅうんじゃ? できるもんならやってみろってんだ」
 とずっと恫喝の態度を変えることはない。
 それはそうだろう。
 決定的な瞬間を写メで撮っているのだから、男が何と言おうとも、どうすることもできない。
「俺は何をやっているんだ」
 という思いから、次第に、恐ろしさで震えが止まらなくなってくる。
 とにかく、この場から逃れたい。この場にいるのはたまらないと思うと、それを待っていたかのように、チンピラが、
「お前の連絡先。教えろや」
 というではないか。
 男はどうすることもできず、大学の学生証を渡すしかなかった。
「ほう、大学生か? だったら、金持ちやんけ」
 といって、先ほどまでの怒り狂った顔ではなくなってきた。
 その不気味な笑いは、却って恐ろしさを引き出すようなもので、完全にm男は、
「ヘビに睨まれたカエル」
 だったのだ。
「これ、返してほしかったら、今度連絡するからな。金用意して、覚悟して待っとくんやな」
 といって、男はオンナを連れて、引き返していった。
 そして、それからしばらくしてから、チンピラから連絡があり、
「われ、わしの女を孕ませやがったな?」
 という。
 しかし、実際には性行為まではしていないのに、妊娠というのもおかしい。それよりも、期間が合わないではないか。男が金が急遽必要にでもなったのか、計算が少々合わなくても騙せると思ったのだろう。
 しかし、こちらには、小平がついている。小平は、最初からチンピラの企みなど百も承知だ。そして、いかに相手を始末すればいいか、そして、こちらにまったく被害がないように片付ければいいかということも、すぐにシナリオができた。
 ただ、この場合、勉に、
「お灸をすえる」
 という意味でも、簡単には、動けない。少し作戦を練る時間も必要で、協力してくれる相手に、話をする時間もいるのであった。
 そんなことを考えていると、実際に被害に遭った。
 いや、
「美人局に引っかかった勉は、本当に情けない顔をしていた。こんな時、小平も、きっと自分がこの仕事で一番嫌なことをしようとしているんじゃないだろうか?」
 と思うのだった。
 小平は、いろいろな手を尽くして、この二人を探そうと思っていた。しかし、実際にはこの二人は別にバックにやくざや組がついているわけではない。自分たちで勝手にやっているだけの、ある意味、
「ヤバい連中」
 というだけだった。
「ヤバい」
 というのは、別に怖い人が後ろについているわけではなく、逆に、そのヤバさというのは、
「世間知らず」
 なところであった。
 普通なら、やくざが後ろに控えていたりすれば、用心棒が守ってくれたりするのだろうが、いわゆる、
「モグリ」
 でやっているわけで、それこそ、
「うちのシマで、何やってくれてるんだよ?」
 と因縁つけられるレベルである。
 今のところできているということは、やくざの方に何か考えがあるのかも知れないとも思う。
 自分たちが似たようなことをやっているとして、何か問題が起きた時は、すべてを、あの二人に押し付けて、こちらに被害が及ばないようにするなどということくらいは、組織であれば、普通に考えるだろう。
 あるいは、初めてからまだ日が浅いというのであれば分かるが、初めてや2回目というようなこともなさそうなので、
「これは、組織が泳がせているな」
 ということはすぐに分かるというものだ。
 しかも、警察というのは、基本頭が固くできていて、
「こいつらが怪しい」
 あるいは、
「今回がこいつらだったってことは、余罪があるに決まっている。前にも似たようなことがあれば、すべてこいつらの犯行だろうから、残らず吐かせてやる」
 というくらいに思っているに違いない。
 それが、警察というもので、
「何かが起きないと動かない」
 という、いわゆる、
「縦割り社内」
 と言われるものである。
 それを考えると、やつらにとって、このようなまるで子供だましのような連中だったら、自分たちの盾になってもらえるということで、泳がせておくのも、一つの手であった。
 山中家の参謀である小平は、裏の世界でも君臨していた。
 もちろん、
「山下家を守る」
 ということを建前にして、裏で繋がることで、こちらには、有り余るだけの金があるのだから、みかじめ料くらいは、安いものだった。
 そういう意味で、今回も裏ルートの情報をちょっと聞いただけで、そいつらの素性アハすぐに割れた。
「俺たちも本当は、焼きを入れてやろうかと思ったんだが、いざとなった時に、あいつらにすべてをかぶってもらうということがどれほど、ありがたいかということが分かったので、あいつらを泳がすことにしたんですよ」
 と、組織の幹部から聞かされた。
「すまないが、わしにやらせてはくれないか? 本当に情けないことに、うちのボンが引っかかったのでな。それで、組織からも少し誰かを借りたいと思ってな」
 といって、いつものみかじめ料に、上乗せした額をトランクに詰めて持参すると、相手もニンマリと笑って、
「ああ、分かったよ、あんたにはいつも世話になってるから、今回は、華を持たせてやろうじゃないか」
 ということで、小平は、さっそく、
「美人局成敗」
 に乗り出すことになったのだ。
 本当に相手の二人はバカだった。自分たちの正体を隠すでもなし、大っぴらにやっていたのだ。
 本来なら、こんなことはあっという間に潰されて、下手をすれば、近くの港に浮いていたり、人知れず行方不明になり、どこか、海外に売り飛ばされていたとしても、無理もなかったのだ。
 何しろ、バックに組織がいるわけではない。
 そもそも、最近の組織が、そんなちんけなことをするわけがない。すぐに足がつくような、そんなことをして、警察に睨まれるような古風なことはしないだろう。
 そういう意味でも、この連中は、何をしたいというのか、まったくもって謎だった。
「いや、怖いもの知らずといえば、格好はいいが、結局行き詰って、まわりすべてが敵になり、身動きが取れなくなるだろうから、組織も勝手に地雷を踏むであろう相手に、わざわざ絡んでいくこともしないだろう」
 と思われる。
 様子を見ていて、目に余るようでは成敗をするだろうが、実際に手を下したくはない。そういう意味で、
「こちらでやらせてくれ」
 という小平の申し出は、
「願ったり叶ったり」
 だったといってもいいだろう。
 それくらいは、小平にも分かっている。分かっていて、敢えて、お礼を言って、組織に対し、腰を低くしていた。
「恩を売る」
 というと大げさだが、少なくともこれで、
「貸しを作った」
 ということにはなるので、
「この後のこれからの関係性も悪くなることはない」
 という考えに相違ないだろう。
作品名:一人勝ち 作家名:森本晃次