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一人勝ち

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 そんな屋敷に実際に住んでいる山中一家は、まるで、判で押したような、
「昭和の富豪の屋敷」
 だった。
 昔でいう、
「お手伝いさん」
 がいて、子供たちには、小学生の頃から、家庭教師がついていた。
 小学生、中学生、高校生と、進学するにつれて、家庭教師の先生も変わっていく。教える範囲や内容が違うのだから当たり前のことだ。
 ただ、その中で、
「帝王学」
 を教える先生は同じ人で、しかも、二人をそれぞれに教えていたのだから、
「この先生が誰よりも二人のことを知っている」
 と言ってもいいだろう、
 この先生の名前は、
「茨木先生」
 と言った。
 茨木先生は、年齢としては、当時30代後半くらいだっただろうか? 小平修平よりも少し年上で、父親と同い年くらいではなかったかと思った。茨木先生は、正直、小平とはあまり仲が良くはなかった。
 帝王学というのは、どちらかというと、凝り固まった発想が多く、融通が利かないところがあった。
 しかし、参謀のように、いろいろな立場において、その時の状態を解決していかなければいけない立場において、帝王学というのは、平均的で、教科書のような、リアルなものではなく、
「実践的ではない」
 という思いから、どうしても、好きにはなれないというのは、参謀としての意見なのか、それとも、本来であれば、自分を慕ってもらうことが大切だと思っていなければならない立場を考えると、素直に、
「帝王学」
 というものを、受け入れるわけにはいかないと考えるのだ。
 大学に入ると、帝王学というものも、実践的なことに変わってくる。
 その頃になると、小平も、そこまで茨木先生を目の敵にすることもなく、むしろ、
「帝王学を学ぶのは大切なことだ」
 と、原点に立ち直って考えるようになるのだった。

                 美人局

 ただ、大学二年生の頃、勉がやりかぶったことがあったのだが、その問題というのが、
「同級生の女の子を孕ませてしまった」
 ということであった。
 勉は最初こそ、
「これは俺の責任だから、責任をとって、彼女と結婚する」
 と言っていた。
 彼女の方も最初はしおらしく、
「嬉しいわ」
 などと言っていたが、実は安心させておいて、最期には、金をふんだくろうというものであった、
 小平は、最初から、そんな魂胆を見抜いていたが、いきなりことを荒立てると、山中家の名誉という問題で傷をつけることになる。
 相手もそのことを言い出して、
「金で解決してやろう」
 と言い出したのだ。
 そこまでくると、小平の考え方は間違っていなかったと思い、騙されたふりをして、あいつらが、いかにひどい目に遭うかということを考えながら行動していると、茨木先生としては、
「そんなことをすれば、自らのスキャンダルを世間に公表することになる」
 というのだ。
 そして、
「相手はそれを狙っているんだ」
 ということを言うと、
 小平の作戦は、まだ伏せられていた。
 小平という参謀は、味方に対しても、
「その本心をなかなか言わない」
 ということで有名だった。
 この問題は、ハッキリ言うと、
「美人局」
 という問題だったのだ。
 女が男を誘惑して、騙されているとは知らずに、普段はうだつの上がらない男が、女に声を掛けられて、有頂天になる。
「お兄さん、格好いいわ。私あなたが好きになったみたい」
 といって、イチャイチャしてくる。
 普段からモテたこともないような男としては、そんなことをされれば、喜ぶのはもちろんのこと、普段から冷静な精神状態でなければ、この時は余計に、自分のことを、
「俺は今冷静なんだ」
 と思っているだろう。
 一応、男も最初は、
「そんなうまい話はない」
 と思うのかも知れないが、
「女がここまで身体を寄せてくるなんて、好きな男でもなければ、こんなことはしないだろう」
 と勝手に思い込むだった。
 確かに、普通の女だったらそうだろう。しかし、女のバックには男がついているのだ。ホテルにしけこんで、女が男を誘惑しているところに男が扉を叩いている。女はビビッてしまうだろうが、女に好かれたと思っている男は、
「ここは男として恰好のいいところを見せないといけない」
 などと思って、扉を開けたが最後、
「お前は、人の女に何さらしてけつかんじゃ」
 とばかりに啖呵を切って、怒鳴り込んでくる。
 まさか、男が女の知り合いだとは思っていなかったので、男の頭は混乱した。
 男が入ってきて、もめたりすれば、女が、フロントなりに電話をして、少なくとも、女が自分の味方になってくれるというくらいのことを計算したうえで扉を開いたはずなのに、まさか最初からグルだとは思ってもいないだろう。
 女は、しばし何も言わずにビビっている。もう、女は男の顔は見ずに、後から入ってきたチンピラに怯えているだけだ。
「君は、この男とどういう関係なんだ」
 と聞くと、チンピラは男を突き飛ばし、
「おんどりゃあ。すっこんどれ」
 とまたしても、チンピラ言葉で言われて、取りつく島もなく、
「お前は、俺という男がありながら、どういうつもりじゃい」
 といって、女の頬を何発がビンタしている。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 と女はわめくばかりだ。
 もう、女がこちらの味方になってくれる保証はまったくない。もし警察に行ったとしても、怯え切っているオンナは、チンピラのいいなりで、警察沙汰にされたことで、却って相手を怒らせることになるだろう。
 そうこうしているうちに、
「金出さんかい?」
 といって金を請求してくる。
 もちろん、入ってきた瞬間に、写メを撮られたことは当たり前だった。それをオトコは、
「オンナに対しての、証拠だ」
 と考えている。
 まさか、自分に対しての脅迫の材料だなどと思っていないのは、
「そう思いたくない」
 という感情からであった。
 男としては、それでも、まだ女が今は怯えているだけで、本当はこの男から逃げたい一心で自分に近づいたのだと感じていた。
 まさか自分が騙されているなどとは思っていないのは、目の前で男が女にビンタをしているのを見たからだろう。
 しかし、冷静に考えればそれがおかしいのだ。
 これこそ、
「芝居ががっている」
 と言ってもいいのではないだろうか?
 男は、女を見ようとすると、チンピラが、
「お前どこ見とんじゃい。お前がわしの女をたぶらかしたんかい?」
 とのしかかるように顔を近づけて恫喝してくると、男は、必死になって首をブルブル震わせた。
 そして、もう、女のことなどどうでもいいという気持ちになる。
「早く、出て行ってくれないか?」
 という思いが強く、まだそれでも、グルだなどと、これっぽっちも思っていないのだった。
 こちらが、黙り込むと、チンピラが女に、
「おんどりゃあ、こんな男とこんなところでちちくりあってたんかい? どういうつもりじゃ」
 というので、女が、
「私は嫌だって言ったのに」
 と言い出した。
「えっ?」
 と、男は急に顔が青ざめてきて、
「何言ってるんだい? 君が誘ってきたんじゃないか」
 というやいなや、チンピラのこぶしが飛んできた。
作品名:一人勝ち 作家名:森本晃次