タマゴが先か……
「これで、いつ話しかければいいのかが分からなくなったな」
とも思えた。
その時に感じたのは、
「彼が孤独だと思っていたから、つき合っていけたんだ」
という感情もあった。
「あいつは孤独という性格があるから、受け入れることができたんだ」
という思いだったのだ。
つまり、
「彼の最大の特徴であり、だからこそ、分かる部分もたくさんあった」
と思っている。
それが、孤独ではなくなってしまうと、
「孤独しか知らない相手と、これからどう接していけばいいのか>-?」
と考えてしまう。
実際に、孤独でなくなった彼と距離を置くことが、一番無難であるということも理屈としては分かったことであり、実際に距離を置いてみると、別に変わったところはないことから、
「距離を置くことが一番自然なんだ」
と思い、実際に距離を置いた。
そういう意味では、東京に出てくれたことは必然であり、
「遅かれ早かれ、こうなる運命だったんだろうな」
と感じた二人だった。
景勝が、
「元々は距離のある存在だったんだ」
と思うと、本当にどうしていいのか分からなくなり、
「やはり、距離を置くのが一番ではないか?」
と一周回って、戻ってきたことが結論となったのだった。
そんな二人の間で、実は最初は、
「付き合ってみようか?」
と言い出したのは、景虎の方だった。
普段とは、まったく違う雰囲気の景虎に、帰郷は、少し戸惑っていた。
「うん、いいけど」
という曖昧な返事しかできなかったのだが、それは、別に、
「景勝を意識していた」
というわけではなかった。
景勝のことを好きだと思ったこともないし、遠慮する必要もないのに、景勝がいないのをいいことに、景虎と付き合うというのは、何か違うと思ったのだった。
それがどこか、
「義を重んじる」
という景勝のようで、嫌だった。
帰蝶は、本当は、
「義を重んじる」
などということは大嫌いだった。
なぜなら、
「まるで、偽善者のようじゃない」
と思っていた。
帰蝶は、
「私は偽善者なんか、大っ嫌い」
と、景虎の前でたまに零していた。
景虎なら、黙って、自分の胸の中に収めてくれているだろうと思ったからだ。
景虎という男は、自分から進んで、輪を乱すようなことは決してしまい人だと思っている。
三人の中で、
「無難に済ませよう」
と思っているのは、景虎なのだろうと思っていたので、景虎に波風を立てるようなことはしないに違いない。
その思いがあったことで、景虎には、恩義は感じていた。
自分の気持ちを汲んでくれることや、気を遣ってくれることには感謝していた。
しかし、
「鬼のいぬまの盗人のようなことをするのは、何か違うんじゃないか?」
と考えたのだ。
それも、景虎にそんなことをさせるのは、忍びない気がした。
しかし、それを差し引いても、帰郷の中に、
「景虎と付き合ってみたい。もしつき合ったとすれば、どんな気持ちになるだろうな?」
と思うに違いない。
それを考えると、曖昧な態度しか取れなかった帰郷の気持ちは、それこそ、本音だったに違いない。
それでも、何度も告白されて、そして季節が秋に変わってくると、帰郷の気持ちは少しずつ、景虎に傾いてきた。
「じゃあ、よろしくお願いします」
と言った時の、景虎の嬉しそうな顔は忘れない。
本当に無邪気で子供のようなその雰囲気は、
「私が思った通りの人なんだわ」
と、帰郷にも納得のいく顔をしてくれたことに対して、お礼をいいたい気分になっていたのだ。
「これからも、よろしくな」
といって付き合い始めたのだが、まさか、あんなに早くボロが出るなんて、思ってもみなかった。
だが、逆にいえば、早く知れたのはよかったのかも知れない。
「もっと遅くなっていれば、嫌いな気持ちが中途半端になって、逃げるに逃げられない、底なし沼に嵌ったことを自覚することだろう」
と感じるに違いない。
底なし沼に足を取られて、出ることができないということは心中と言ってもいいのだろうが、その時は、
「景虎とだけは、ごめんだ」
と考えたに違いなかった。
そんなことをしているうちに、東京で彼女を作った景勝だったが、彼は彼で、すぐに別れてしまったようだ。
それは、景虎と帰蝶が別れるようになる、さらに前であった。
要するに、
「帰蝶と景虎が迷っている分、二人の方が別れるのが遅かった」
というだけで、つき合っている期間はほぼ変わりはなかった。
そして、お互いに、
「俺たちのようなすぐに別れるカップルなんて、珍しいだろうな」
と思っていただけに、その思いはひとしおだったことだろう。
そして、そんな三人に共通しているのが、
「こんなはずではなかった」
という思いである。
景虎と帰蝶の場合は、先に帰蝶が違和感を感じ、感じてしまうと、どうしようもなくなり、別れを告げることになったのだが、景勝の場合は、違和感を感じたのは、景勝の方だったのだ。
「こんな人だとは思わなかった」
と、気付いてしまうと、さらに嫌いになる方で、まったく相手にしないという感覚になってくる。
何が嫌いになったのか、最初のきっかけは、
「相手のことを嫌いだ」
と思っている間は気づかない。
しかし、別れた後で、少しだけ後悔のようなものがあるのだが、それは寂しさからくるものに違いないのに、冷静になると、何が嫌いだったのか分かってくるようになる。そして、
「今度はこのことで嫌いになるような相手を選ばないようにしよう」
と思うのだが、また選んだ人は同じなのだ。
ということは、
「自分が好きになる相手はパターンが決まっていて、しかもそれが嫌いな部分のごく近くにあるのだろうな」
ということに気づいてくる。
「長所と短所は紙一重」
と感じるのだろうが、まさにその通りなのであろう。
そのことは、帰郷も、景虎も思っていることだった。
お互いに関係のないことであったが、三人はそれぞれ、知らないところで結びつくということが、結構あるという証拠なのだろう。
さて、そんな三人が参加したこのゲーム。
ここには、5人という定員がある。
いや、
「五人でなければできないゲーム」
ということで、まるで、将棋や囲碁のように、決まった人数でしかできないゲームと考えると、
「ガチで勝負系のゲームということになるのだろう」
と考えた。
戦争で考えれば、
「兵が多いから有利だというわけではない。いくら数的有利にあったとしても、それをまとめる才覚がなければ、ただの無用の長物ということになり、戦争ではまったく役に立たない」
と言っても過言ではないであろう。
今回のこのゲームで五人のうち三人が、ガチの知り合いで、後の二人は分からない。
しかし、もう一人は、ある意味、
「この中の誰かと関係がある人だ」
ということであるが、実はもう一人というのは、この中で、いや、このお話の中で、
「まったく関係のない人間だ」
と言えるであろう。