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タマゴが先か……

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 しかし、帰蝶のまわりの男性は、しばらくの間、帰蝶にだけドキドキし、身体がムズムズするのだった。
 そして、そんな状態になることで、
「これが思春期というものか?」
 と、他の女性にムズムズを感じる前に感じるという、少し不規則な思春期への入り方をするほど、成熟がはげしかったのだ。
 街を歩くと、
「芸能プロダクション」
 を名乗る男性が声をかけてきて、スカウトを始める。
 帰蝶が自分の年齢をいうと、
「えっ、まだ中学生じゃないの?」
 と言って驚いていた。
 高校生と思う人がほとんどのようで、中には、女子大生だと思っていた人もいたくらいだった。
 正直、そんな自分を大人に見てくれる大人がいることで、嬉しくないはずがない。しかも、相手が芸能プロダクションの人間だと思うとなおさらだった。
 帰蝶が有頂天になったのも当たり前というもので、
「私って、そんなに大人っぽいのかしら?」
 と一瞬、芸能界というのが頭をちらついたのも、無理もないのかも知れない。
 しかし、精神的にも大人になっていた帰蝶が、そんな誘惑にひっ掛かるわけはなかった。
「私はもっと現実的に考えるのよ」
 と自分に言い聞かせていることで、すぐに我に返ることができるのだった。
 芸能プロダクションから声を掛けられたということが、逆に彼女に、
「芸能界というのは、胡散臭いところだ」
 ということを余計に意識させた。
 クラスの中では、
「将来アイドルになりたい」
 といって、小学生の頃から、習い事に忙しくしている友達もいた。
 もちろん、そんな子は、子供本人よりも、親の方が乗り気であり、
「おかあさんも昔、芸能界を目指したけど、叶わなかった」
 といって、子供に自分の夢を託そうというのだった。
 そしてそんな母親が、きっと満場一致で考えることとして、
「もっと早く、小学生の低学年から、いや、幼稚園の頃から、芸能界を目指して努力していれば」
 と思っていたに違いない。
 だから、自分の子供には同じ後悔をさせたくないということで、習い事に従事させているのだろう。
 しかし、そんなに早くからいろいろさせると、反発をする子供は多いだろう。
 なぜなら、何も分かっていない子供に習い事を始めさせるというのは、いいのだろうが、それを継続させるというのが難しい。
 そのことを意識していなければ、まず、その後、継続させるのは難しい。
 そういうことには、まず最初は、何も考えず受け入れ、そしていったん、疑問に感じる時期があり、それを超えると、無意識でも意識してでも、継続していけるという、二段階、いや三段階にもなる意識を持てるに違いない。
 その、
「段階を経る」
 ということが、思春期そのものに当て嵌まるということになるのだということを、知るのは、
「男の子の方が強い」
 という気がこの三人の中ではしているが、他の人がどうなのか、分からない。
 何しろ、比較対象がないのであって、いちいちこんなことを他人に聞くのもおかしいと誰もが思っているからだった。
 心の移り変わりは、思春期では当たり前のこと、三人は、それぞれの時期の中で、理解しているつもりだったのだ。

                 関係のない人間

 では、景勝という男はどうなのだろう?
 この件に関しては。帰蝶と景虎では、共通した意見を思っていて、お互いに、
「この人なら同じことを考えているだろう」
 という思いは持ちながら、実際に意識をしていることではないはずであった。
 ただ、景虎と帰蝶が二人だけの時、わざわざ話題に出して話すことでもないことから、ハッキリとは聞かなかったが、相手の性格を考えると、同じことを考えているはずだと思って不思議のないことだったのだ。
 どちらの方がその気持ちが強いかというと、帰蝶の方だっただろう。
 それは、特別景勝を意識していたというわけではなく、
「異性としての、感覚だったに違いない」
 と言えるだろう。
 それも、感覚というよりも本能に近い。つまりは、
「オンナとしての、防衛本能が働いた」
 ということである。
 女が大人になるにつれて、男性の視線が気になるようになってくるのは、
「男性の好奇に満ちた、いやらしい視線」
 がどういうことであるかということが分かっているからであった。
 女を見る目にいやらしさが出てくると、ゾッとしたものを感じ、そこが異性としての恐ろしさに繋がると思うと、男性を拒否する感覚は、
「無意識であっての、防衛本能から来るものだ」
 と感じるようになったのだった。
 そんな景勝は、めったに笑わない性格だった。
「あいつは、真面目過ぎるところがあるからな」
 と、景虎は言って笑っていたが、帰蝶はさらに深く景勝を見ていた。
「融通が利かないといえばそれまでだけど、自分で自分の首を絞めていることが分からないので、いろんな意味で、自分で消化できない部分を、発散させることができずに、ハイド氏を生み出しているのかも知れない」
 と思うのだったが、そんなことはまったく考えていないかのように振る舞って、決して表に出そうとは思わなかった。
 確かに、帰蝶の心配は当たっていた。
 景勝は、自分の中で、自分というものの信憑性を、高く評価していた。もちろん、自己顕示欲の強いことを、
「危険だ」
 と自分でも分かっているつもりなので、少なくとも表いは出してはいけないことだとは思っていることだろう。
 だから余計に誰にも言えず、自分で悶々とため込むタイプで、
「このままなら、ストーカーや、それ以上の犯罪がらみのことをしでかしてしまうかも知れない」
 という危惧を帰郷に抱かせたのだった。
 しかし、景虎もそこまではいかないまでも、危惧はしていた。ただ、二人の間で決定的に違ったのは、
「それが起こる可能性の有無について」
 だったのだ。
 景虎の方は、
「限りなくゼロに近い」
 というくらいに、ほぼないことを思っていたが、帰蝶の方では、
「危険性は大いにある」
 として、警戒レベルからすれば、かなり上がっていると思わざるを得ないだろうと思うのだった。
 帰蝶は、そんな思いを抱きながら、絶えず、景勝のことを気にしていた。
 それが、三人が高校生になった頃、少し火種となってきたのだった。
「今まで、どうして火種にならなかったのか?」
 というと、それは、
「景勝がまだ思春期に入っていなかったからだ」
 と言えるだろう。
 超晩生の景勝が思春期に入ると、年齢が行っいるだけに、反動のようなものがあるのか、景勝の思春期は、激しさのようなものを持っていたのだ。
 景勝は、
「自分には思春期が来ないのだろうか?」
 と思っていた。
 諦めの境地だったといってもいい。
 ただ、
「思春期が来なければ、大人になれないわけではあるまいし」
 という楽天的な面もあったのだが、性格的に、そうは思いきれないところがあるのも事実で、
「やっぱり、思春期がきたじゃないか」
 といって、喜びもあったが、逆に、他の人とのタイミングのずれに対しては。想像以上に、悩みが深かったようだ。
 というのも、
「景虎と違って、人と同じでは嫌だ」
 と思う方ではなかったからだ。
 だから、
作品名:タマゴが先か…… 作家名:森本晃次