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双子

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 それが、嫉妬によるものなのか、それとも、コンプレックスを自分の肥満だけではないということを感じていて、それが何であるかということが分からないことをもどかしく思い、とりあえずということで、その矛先を兄に向けたということではないだろうか。
 そういう意味では、厳密なコンプレックスとは、種類の違うものだったのかも知れない。
 中学に入って、自分が太り出したことで、
「思春期だから仕方がないのか」
 とも思うこともできた。
 とにかく食欲が旺盛だった。
 朝から、白飯茶碗に3杯は食べていくほどの食欲、小学生の頃にはなかった。もし、小学生の時に、それだけの食欲があれば、とても、昼など、給食だけで耐えられたわけもなかったに違いない。
 食欲旺盛な自分と違って、そんなに食べない忠直を見ていると、
「羨ましい」
 という思いと、
「あれで本当に大丈夫なんだろうか?」
 という思いがあり、不思議な感覚になってきた。
 兄は、まったく変わらないままに成長している。それは顔も体型もである。
 だから、兄と正対すると、兄の顔が、まるで自分のように思えてくるのだ。
 つまり、兄の顔を今、自分もしているという感覚になる。太ってしまったということを、その瞬間忘れることができるのだ。
 しかし、兄と顔が離れると、すぐに太った自分が頭の中に戻ってくる。鏡を見ていないのに、鏡を見ているという錯覚になるのだった。
 それは、兄と正対している時、
「俺は鏡を見ているのではないだろうか?」
 と感じるからであった。
 その鏡というのは、あくまでも、
「自分を映している」
 という感覚になる。
 そのおかげなのか、兄の性格が自分の性格になってきたかのように思えたのだ。
 だが、本当なら嬉しく思うはずではないか。
「いつも人に気を遣って、女の子にはモテている、そんな兄の性格が分かるのであれば、自分だってなれるかも知れない」
 と思うからであろう。
 ただ、嫉妬がないわけではない。
 兄というものを自分が好きな自分として映し出しているのだとすれば、嫉妬も仕方だない。
 逆に自分が兄のようになれれば、今度は自分がまわりから嫉妬の目を受けるのだ。
 それこそ、自尊心をくすぐるというもので、まるで、眠り姫に出てきた魔女が鏡を見ている時、硬骨な表情をしているようなものではないか。
 そんなことを考えていると、あまり鏡を見るのが嬉しくないという気になってきた。
「兄だけを見ていればいいんだ」
 と思ったのは、兄を見て、
「自分の姿だ」
 と思った時と、鏡で自分の姿を見た時、まったく違う顔に見えるというその時の感覚であろうか。
 だから、自分の部屋には、一切鏡を置かないことにした。
 そもそも、怖がりなところのある忠次は、夜中眠る時、真っ暗にするにも怖いので、常夜灯をつけたまま寝るようにしている。
 学校で友達から、
「寝る時は、部屋を真っ暗にしないと眠れない」
 という話を聞いた時、ビックリしたのだ。
「部屋を真っ暗にしたら、怖くないか?」
 というと、
「怖い? 臆病だな。いや、少しでもついていると、気になって眠れないのではないか?」
 と友達はいうが、
「いやいや。それこそ、気にしすぎだろう」
 と反論したくなったがやめておいた。
 最近、兄に対して、逆らう気持ちが少し失せてきたことからか、友達が、明らかに自分が考えておかしいと思うことでも、反論できなくなっていた。
「一体、どういうことなのだろう?」
 と考えるのだが、理由は分からなかった。
「そうか、部屋を暗くするのか?」
 と思い、一度やってみた。
 しかし、結果はうまくいかなかった。なぜかというと、
「真っ暗に慣れてくると、真っ暗なはずの部屋の中で、何か光っているものを感じる」
 と思い、最初はそれが何か分からなかったので、
「暗闇でも光るものがあるのだ」
 と思い、気持ち悪くなった。
 それが鏡だということが分かると、変に納得した。
 そういえば、昔の女性が鏡台で自分の姿を映す時、確認し終わると、鏡台についている布を鏡の上にかぶせるのだった。上から降ろすようになっていて、もちろん、実際には見たことがないので何とも言えないが、それを思い出すと、
「鏡を気持ち悪いと思う感情は、今も昔も変わりないんだな」
 と感じるのであった。

                 双子の習性

 中学生になってから、
「自分が損をすることが結構多いんだな」
 ということに気づいたのは、少年雑誌に掲載されているマンガを見たからだった。
 そのマンガでは、双子の兄弟が主人公で、同じ中学に通う二人であった。
 兄の方は、悪戯好きだったり、好奇心旺盛で、その好奇心に逆らうことなく、行動していて、先生からも、
「厄介な生徒だ」
 と思われるようになっていた。
 兄の方はというと、
「成績優秀。スポーツ万能。さらにイケメン」
 という形の、非の打ちどころのない少年だった。
 だが、考えてみれば、
「中学生らしい」
 といえば、兄の方なのかも知れない。
 思春期なのだから、好奇心旺盛なのは当たり前。悪戯好きではあるが、そんなに人に迷惑をかける方ではない。本当に一般的な中学生だった。
 もし、弟がいなければ、兄がクラスの人気者だったのかも知れない。だが、兄の存在が自分を表に出してはくれないのだ。
 いつの間にかコンプレックスを持っていたのかも知れない。
「俺は絶対に弟と同じ道をいかない」
 といって、
「我が道をいく」
 という感覚になるのだった。
 その時、マンガの何話目だったか。その中で、最近味わったのと似たエピソードがあった。
 一人の女の子が、モジモジしながら、兄の前にあらわれたのだ。
 兄とすれば、
「俺に告ってくれるのか?」
 と思ったようだが、それも無理もないことだった。
 しかし、
「すみません。これ、弟さんに渡してもらえますか?」
 というではないか。
「何だよ。俺は伝書鳩か?」
 とでも思うような、自分が道化師に見えたのだ。
 とんだ三枚目の役であり、本来なら一番毛嫌いする頼まれごとだったが、なぜか、その子の顔を見ると、断ることができなくなっていた。
「しょうがないな」
 と口ではそういい、表情も複雑な顔をしていたに違いない。
 それくらい極端であれば、鏡は必要ないと思った。
 引き受けはしたが、兄は弟に渡すことはしなかった。
 すると、それから数日して、兄は、不良に喧嘩を売られた。理由など分かるはずもない。
「何だよ。一体」
 というと、
「お前が、妹を辱めたからだ」
 といって、鼻息を荒くしていた。
 もちろん、兄は何も知る由もなかった。しかし、相手にはそんなことは関係なく、
「問答無用」
 とばかりに襲い掛かってくる。
 2,3尾圧殴られると、そこに見たことがある女の子が現れて、
「お兄ちゃん、こいつじゃない」
 というではないか。
 といって、お兄ちゃんと言われた不良はこちらをまじまじと覗き込み、
「ああ、こいつは、出来の悪い方の兄貴か」
 といって、妹をなだめるように、そのまま何も言わずに立ち去って行った。
 ただ、そこには、ボコられた兄が倒れているだけだった。
作品名:双子 作家名:森本晃次